第19話 橋上の血戦①(復讐は完膚無きまで徹底的に)
そして日を跨いで、午前四時。
安全を考えて、家には帰らず異形対策課で仮眠をとったから準備はバッチリ。雨空は続いていて、さすがに湿気が気になってきちゃった。日の出前の市内は人も車も往来は少なくて、雨粒がはじける音がよく聞こえる。
私は左手の甲から腕にかけて刀で軽く裂き、血を滴らせながら獲物を求めてスタンバイ。待ってたところに真澄ちゃんから通信が入った。
『早退するっつって学校飛び出したと思えば人のことこき使いやがって……作戦、ホントに成功するんだろうなァ?』
「大丈夫だって。それに、晩にも巫女の被害あったんじゃない?」
『4人組の巫女のうち2人が、な。身体を何ヶ所も刺されて吸血されたよ』
「…………民間人に犠牲がなきゃ上出来なんて、ブラックだよね〜」
笑い飛ばしてみたものの、真澄ちゃんは無言になっちゃった。人の上に立つって大変だね。世間話をしつつ靴紐を結び直してみると、なかなかいい具合。
『お前、どこにいンだ?』
「くぅ〜、ニューモデルは履き心地が違うぜぃ」
雨の日に下ろすのは非っっっっっ常に残念だけど、作戦の為に……あくまで作戦のために買ったスニーカーはサイズピッタリ蹴り技にも影響なし! 文句なしの装備、テンション右上がり。
『作戦開始は一時間後だったろ』
「甘いねぇ真澄ちゃん。遅刻魔の私が時間を守ると思う?」
『…………状況報告』
「こちら白神朝緋、前方二十メートル先に対象を捕捉~」
一日ぶりのご対面。雨特有の湿った匂いに紛れて鉄の匂いが漂う。匂いの先にはグレーの中折れ帽に同色のコート。白髭の口元がわずかに笑みを浮かべて、巫女狩りヴァルクが街灯の下に立っていた。
「わざわざ血を流さなくても分かるというのに、心配りの行き届いた巫女もいたものだ」
「鼻の鈍そうなお爺ちゃんを気遣ったんだよぉ。お年玉くれる?」
「ハッハッハ、がめつい子供は嫌いだな!」
ヴァルクが地面に手を付けると、昨日と同じようにアスファルトをぶち抜いて、無数の植物が私の血を求めて迫り来る。ここまでは予想通り、傘を上へ放り投げて抜刀。
「考えなしの植樹にはんたーいっ!」
――――巫女刃術・血炎始動。
腕の血液を刀に流し、伸びる茎を切り払う。これがミントとかだったら超迷惑行為だ!
「どこまで耐えられるかなッ⁉︎」
「ざーんねん、お爺ちゃんからのアタックは受け付けておりませーん!」
得意気になってるけどずっと栽培してるわけじゃない。少しずつ後ろに下がって、攻撃の波が止んだ一瞬で走り出した。
「ハハッ、追いかけっこか!」
「そうだよおじいちゃん、健康は足からだもん」
市街地じゃ民間人巻き込むかもだし、作戦通りに移動。背後から来る植物は気合いで避ける!
「ひとりで誘ったから策があると思えば、ただ逃げるだけとは退屈だ」
「同じ攻撃ばっかのおじいちゃんもね!」
地面を泳ぐ蛇みたく、植物はうねる。振り返るだけで、応戦するだけの暇なんてない。金髪の巫女喰らいの強さとは桁違いだ。土がある限り、この猛攻は止まんない。
「なら、これはどうかなァッ!」
巫女喰らいの出した植物たちが、街路樹へ血をばら撒いた。すると植えられていた木々、そしてその下の花まで伸びて、こっちに襲いかかる。
「うっそぉ⁉︎」
「人間が自ら作った自然に潰されるがいい!」
左右、後方から肥大化した花、木が雨を受けながら生き物のように私を狙う。
「環境団体が黙ってないよ⁉︎」
「我々吸血鬼には関係ないねェッ」
交差点を曲がると、前方の道路を車が塞ぐ。車は廃車を置いてもらったんだけどね!立て看板には『通行止め』の文字。これで目的地とうちゃ〜く。
「鬼ごっこは終わりだ」
「ごっこじゃなくて、鬼そのものでしょおじいちゃん。自分がわからなくなるってヤバいよ」
「ハッハッハ、金髪の記憶通り。口の減らない小娘だ、躾をしなければね!」
もしかして……分身と記憶共有してる?
車を飛び越え、その先──市外へ続く鉄筋コンクリートの橋へ走る。背後では土の途切れた植物は進行を止めて、逃走を許さないと言わんばかりに道に壁を作った。そして巫女喰らいは私を飛び越え、市外へ続く道の前へ立ち塞がった。……結構速めに走ったんだけど、息が上がってる様子はない。
「ほぅ、ここは…………」
「悪いけど、民間人に被害が出せないからここにさせてもらったよ」
「ふむ……勘違いをしてもらっては困る。有象無象などに興味はない、巫女の血だけが我が欲望を満たすのだ!」
まともに会話しようって方が無理だよね……って、金髪の奴とは嗜好が違うのかな? こっちの能力の被害報告は巫女だけらしいし…………
「巫女以外は人間でもないってか…………あーやだやだ、気が滅入っちゃうよ。さっさと終わらせよっか」
「ふぅん。場が鉄筋とコンクリートなら、我が能力が無効とでも?」
「少なくとも有利はないでしょ」
「ハッハッハ、見くびられたものだ!」
ヴァルクがコートの裾から黒い粒をばら蒔き、皺だらけの手を強く握る。すると、手から滴った吸血鬼の血液が、粒を包んで急速に成長させて芽を伸ばした。今度はこちら側に根を向けて、血を求めるように。
「血液さえあればいくらでもできるのさ!」
「ありゃ、自家栽培」
栄養たっぷりってかぁっ!
コンクリートの上で、本来の成長限界を超えた無数の植物が蛇のように迫る。もちろん迎撃、前から来るだけなら全部切り落とせる…………と、思ったのに目の前の植物はさらに根っこを分岐させながら増えていく。
「増殖ぅ……⁉」
私に向かってくる先端をひたすらに切り刻んでいくものの、刀一振りじゃ間に合わない! 斬撃の間に一本の根が私の左腕に突き刺さった。
「やはり巫女の血はいい! 植物も喜んでいる。君、巫女の血で咲いた花は見たことあるかな? とても綺麗なんだ」
「うっわ趣味悪っ、おじいちゃん友達いないでしょ」
「友など不要だね、誇り高い吸血鬼には。さぁ、君の血で咲く花は、一体どんな花になるかな? その血をすべて吸ってあげようねェッ!」
得意気になるヴァルクが高らかに叫ぶ。映画ならマッドサイエンティスト的な感じ。今までの巫女も、この能力で一気に血を吸い取られちゃったわけか……確かに、大量の植物で押し切られたら無理かも。
私がひとりだったら、だけどね。
「――――その血は、わたしのものだッ!」
腕に突き刺さった根が私の血を吸い上げるよりも速く、雨に紛れて怒りの爪で植物の茎を切り裂いて、お姉さんが現れた。
『血の匂いがするとこに来てね』…………お姉さんの電話番号も知らないから、家に書置き残したけど、ちゃーんと来てくれてよかった。橋って書いとけばよかったのは内緒。
「ハッハッハ、相棒の窮地に颯爽と現れるヒーローといったところかな?」
「ヒーローではなく復讐者です」
「ひゅ~ぅ、かっこいい~」
眼前二十メートル。対象は巫女喰らいヴァルク(白髪のおじいちゃん)。お姉さんの復讐は、今やるべき時だ。
「朝緋、この前のお返事いいかしら?」
「うん。言って」
「わたしの復讐、手伝ってくれる?」
「オッケー。悔いのないよういってみよー!」
復讐は完膚無きまで徹底的に。
お姉さんの戦い、しっかりサポートするよ!




