第16話 巫女刃術・血炎(必殺技くらい持ってるよ、主人公だし)
そこからはひたすらに切る、切る、切る。切って切って切りまくる。でも植物の包囲は止まらない。
「なんでまた伸びるのっ⁉︎」
「キリがありません……」
お姉さんなんて手刀だよ、どうなってんの……あ、爪か。
「わざわざ下僕を使って吸血など効率が悪い。このマンドレークは刺されば一気に血を吸い上げる!」
解説どうも、吸血植物ってことね!
うー……近づけやしない。金髪もそうだけど少数で当たると不利な奴だなぁ。
「わたしが行きますか?」
「無理な特攻はバッドエンド直行、無策とゴリ押しは違うよお姉さん」
「ならどうするの?」
「無限に復活する能力くらい想定済み。巫女の血は時に武器になるんだよ、見てて」
抜き身の刀に左手を添えて、刃を優しく撫でる。掌はゆっくりと裂けて、血液が滴る。あとは簡単、刀身すべてに流すだけ。
巫女刃術・血炎。
「朝緋、何を……」
「避けてね?」
四方から迫る植物へ回転切り。
鞭のようにしなる茎たちは、血の刃に切り刻まれて復活……することはない。体外に出た血を、転じて死んだ液体として吸血鬼へ終わりをもたらす。焼いて閉じるように見えたことから『血の炎』と呼んだとか。
巫女の血は使い方次第。吸血鬼が命(血)を吸うなら、私達はその命を、銀を混ぜた特殊な刃に乗せて応用する。血と引き換えの剣技、それが巫女刃術。これはそのひとつ!
ん? 金髪の巫女喰らいになんで使わなかったって?
…………手でも腕でもいいけど、痛いからあんまり使いたくないんだよね。昔はお腹に刺してた、なんて話も聞くけど。
「なにっ⁉」
「お姉さん!」
「ありがとう朝緋」
この前の逆だね、包囲を突破してお姉さんが地下道を抜ける。想定外だったのか、巫女喰らいは地面に手を突いたまま動揺してる。やっちゃえお姉さん!
「はぁっ――」
悪あがきで植物を増産したけど、時すでに遅し。飛び上がったお姉さんによる右足が巫女喰らい・ヴァルクへ炸裂した。
「ふん!」
けど大柄な身体で蹴りを受け止めてそこで終わり。巫女喰らいの両腕は壊れたものの、すぐに再生されちゃった。私も地下道を抜けると、ヴァルクは襟を正した。
中折れ帽から覗く皺が多くて彫りの深い顔に白髪。顎に生えるこれまた同じ白いひげ。金髪スキニーマンとは打って変わって紳士風の吸血鬼。見た目だけならナイスミドル……じゃなくてナイスシニア?
「鬼狩りと組む退魔の巫女か……面白い。その血の匂い、覚えたぞ」
「今から死ぬおじいちゃんが覚えても意味なくない?」
「ハッ! 引き際くらいは分かる。でなければ生き延びられないからね」
ありゃ、これ逃げられるな。また周りから植物が出てきそう。仕込んでたのかな。
「なんで金髪は日中歩けたの?」
「秘密を持つのは女だけではないよ、奇人の巫女さん」
「誰が奇人か!」
「逃がさない――!」
お姉さんの一歩と同時に、ヴァルクの周りから植物が突出する。援護するように刃に残った血の滴を斬撃として飛ばしたものの、時間稼ぎは成功されまして…………
「強い巫女なら猶更好物だ、また会おう」
ヴァルクは国道にジャンプし、トラックに乗って逃げて行った。
「あれが……ヴァルクの本物」
「確証はありませんが、今まで出会った中で一番濃い匂いでした」
長年生きてるからおじいちゃん? 分身、身体の一部巨大化から植物操作って……能力の幅が大きいなぁ。発火能力とか毒とかも今までにいたけど、今回は特にめんどくさそう。
「道路も壊れちゃったし、真澄ちゃんに報告しとこっかな」
「……それより朝緋、手は大丈夫?」
雨に濡れる中で、お姉さんが私の左手を取る。掌を真一文字に走るように裂かれた傷からは、血がにじみ出ている。ふっつうに痛いよ。
「そのうち治るよ」
「…………………………………………」
眼がマジだよ……瞳も真っ赤で瞳孔は開いて――
吸い込まれそうな両目を見ていたら、お姉さんは無言のまま私に詰め寄る。
「ちょちょ、なになになに⁉」
「…………………………」
ずるずると地下道まで戻されたと思ったら、私を壁に追い込んで、お姉さんは鼻と鼻が触れる距離まで顔を近づけた! やばいやばいやばい、めちゃくちゃ近いって!
「不用意に……他人へ血を見せないで」
「あ、あの状況は技使った方が早いでしょ……!」
「自分の身体を傷つけるなんて……悲しい」
掴まれた左手は、お姉さんの口元へ。滴る血液は、お姉さんがゆっくりと味わう。噛まれた時みたいに力が抜ける感覚はないけど……身体が熱い。
「この血も、本来は流すべきではないあなたのもの。いずれわたしがもらうはずのもの」
「――――っ!」
そして……お姉さんの片手は私の首筋に伸びる。まだ治りきってないそこには、しっかりと噛み痕が残っていて……細くて長い指が這う。ゆっくり撫でられると、痺れたように思考がぼやける。
「ぉ……ね…………ん! お姉さんっ!」
「あ…………」
「はぁ…………はぁ…………もぅ、積極的すぎだってば」
危なかった……あとちょっとでまた変になるとこだった。罪な女ですよ私。萎んで猫背になるお姉さんはちょっと可愛い。
「ごめんなさい。血を見たらつい」
「お姉さんってさ、結構やきもち焼きだよね」
「そんなことは…………ありますね」
「ははっ、いいって! 気にしてないから。心配してくれたんでしょ? ちょっと本能出てたけど」
「気を付けます…………」
こう血を見るたびに興奮されたら困っちゃうなぁ。でも、巫女喰らい相手に巫女刃術なしはキツいだろうし……お姉さんには多少我慢してもらわなきゃね。
「私がいっぱい食べてるとこみてお腹空いちゃったんだね。まぁ待っててよ、いっぱい食べて寝たらまた血はあげるから」
「なら、晩御飯はいっぱい用意しないと」
「うん! あ、でも私、今のこと報告しなきゃだから……先帰ってもらってていい? これ鍵」
マルビのグッズである「野菜アクリルキーホルダー(にんじん)」を付けた鍵をお姉さんに渡しとく。
「いいの?」
「もちろん! もう不法侵入しちゃだめだからね」
「……ありがとう」
お姉さんは傘を差して私の家に向かう。休めって言われましたけど、巫女ってほんと休む暇ないよねぇ~。じゃ、真澄ちゃんに連絡だ。




