第15話 雨天にこそ用心せよ②(触手はRつくでしょ)
「ぷぃ〜食べすぎちゃった」
「原因が言うのも変だけど、昨日の今日ですごい食欲ね……」
「高校生の食欲は止まらないの!」
結局カフェでお昼まで済ませてしまった……お腹パンパン、栄養補給バッチリ。全身が砂糖でコーティングされてるよ。満足満足。人生甘味であるべし。
「じゃあ晩御飯もいっぱい作ってあげないといけませんね」
「もち! 期待してるよお姉さん」
夜は肉がいいね、肉。ここ数日食べてないし。ビタミンも大事だけど、やっぱタンパク質だよ人生は。牛肉にしよう。お姉さんの奢りで。
カフェを出ても、雨音は相変わらず。ぴちぴちと足音を立てて、行き交う人とすれ違う。目的地はなくて、適当にお姉さんと歩いてるだけなのに、なんだか楽しい……いつぶりかな、隣に誰かいるのって。
「次はどこ行こうかねー……って、あぁーっ!」
「ど、どうしました?」
あてもなくスマホを点けてみると、SNSの投稿でびっくり。
「今日マルビ、路上ライブやる予定だったのぉ⁉︎」
「まるび?」
昨日ライブできなかったからその代わりらしい。疲れて眠ってたせいで完全に見逃してた……でも、この雨じゃナシかな。それにしても三日連続ライブとは……マルビも活発になってきてるなぁ。古参ファンとしては嬉しいよぉ。
「それが朝緋の好きなバンド?」
「好き? 好き……なのかな?」
「なぜ疑問系……」
「私にとってマルビは好き・大好きの領域じゃないんだよね。なんて言うんだろう……生活の一部? ノーミュージックノーライフ的な」
仕事が立て込む時に限って新曲発表だのライブだのお知らせがあるのはサイアク。最近はマルビが離れちゃってる気がするよ。おのれ巫女業務……!
「ぜひ聴きたいです、そのバンドの歌」
「生で聞いた方がいいよー。今度一緒にライブ行こ!」
歌は生に限るのです。今度は厄介ファンみたく壁際で聞いてみよう。
「ふふ……そんなに楽しそうに話すなんて、きっといい歌なのね」
「いや全然」
「え?」
「あ、そうだ。靴屋さん寄っていい? スニーカーがもう引退寸前なんだよね」
巫女喰らい絡みで忘れてたけど買い替えなきゃ。マジの仕事用のは蒸れるからあんまり履きたくないし。あ~足元のおしゃれすら制限される世の中が憎いぜぇ。
「構いませんよ、じゃあ行きま…………」
微笑みを崩していなかったお姉さんの顔が、ほんわか風からキリっと急変、赤い瞳が鋭くなった。ほんの少しだけ目を閉じて、ゆっくり空気を吸うと、『鬼狩り』モードに切り替わり。
「臭う?」
「えぇ……恵みの雨に紛れて分かり辛かったですが……近くに。あのグレーのコート姿の……とても強い血の匂いです」
お姉さんが見据えた先、人の往来の中で唯一……傘を差していない大柄な人がひとり。グレーの中折れ帽に同色のコート、その間から見えたのは見事に真っ白な髪の毛。背筋はぐんと伸びて、後ろ姿だけなら紳士って例えていいかも。私も全然気づかなかったな。
「行き先変更~」
休めって言われてたんだけどね、巫女の辛いとこだよねぇ~。さすがに街中でいきなりぶった切るのはやめとこっかな、どんな能力あるかわからないし。グレーコーデの暫定巫女喰らいは歩くだけでアクションを起こさない。
「人、襲わないね」
「吸血鬼に噛まれて吸血鬼になった者と違って、本物の吸血鬼は特定の食事傾向がありますから、よほど空腹でない限りはポリシーを曲げません」
「最初に会った時のお姉さんみたいに?」
「…………それは忘れて」
お腹ペコペコだったんだもんね。恥ずかしがってるお姉さん可愛い。
一応、行動を起こされたらすぐ間合いを詰められるよう距離を取って尾行を続けてみる。でも、なかなか動き出さない。場所は街中から市外へ続く国道付近まで移り、巫女喰らいのコートはかなり濡れていた。
……そろそろかな。
国道下の地下道まで尾行を続けていると、ようやく人気がなくなってくれた。少人数じゃ避難指示まで手が回らないからね。休みの人間が連絡するわけにもいかないし。
「――行くよ、お姉さん」
「背後から一気に決めましょう」
点滅する蛍光灯だけが照らす中で、お姉さんが駆ける。助走をつけて遠慮のない踵落としが、推定吸血鬼に炸裂。悲鳴を上げる間もなく、男? は地面に倒れた。
「なぁんだ、金髪より呆気ないね」
「いえ……やはりハズレです」
頭部はぺしゃんこなのに、血が全く出てない。試しに帽子を取ってみると、現れたのは植物の蔦で作られた人形だった。コートの襟と帽子でうまく隠れてたってこと?
「ハッハッハッハ、まさか本当に『鬼狩り』と退魔の巫女が組んでいるとはね。誘いに乗ってくれて助かったよ」
渋いおじいちゃんの声が、地下道の出口から拍手と一緒に笑う。今のハズレと同じ格好をしているのは分かるけど、顔は逆光でよく見えない。この植物は囮かぁ……めんどそうな能力。
「おじいさんがホントの巫女狩りヴァルクでオーケー?」
「おぉ、もう名前まで知っているのか。現代社会は情報が出回るのが早い。そうとも! でも、これから死ぬ子が聞いても意味がないと思うがね!」
ヴァルクが屈んでアスファルトを叩く。
直後、コンクリートをぶち抜いて、地面から現れた植物の茎が私達に襲い掛かって来た。もちろん刀で切り払う!
「雑魚召喚の次は雑草おじいちゃん? …………草取りは業務範囲外!」
「……朝緋!」
「せっかく食事のしやすい町に来られたんだ。邪魔な巫女は排除させてもらうよ」
完全に切り裂いたはずなんだけど……茎は即復活。それどころか数が増えてなんかの漫画で見たような触手のようにうねうね蠢いていた。単純にキモい。植物っていうより、動物?
「え~……これ捕まったらR指定喰らうシーンのやつじゃん」
「なら、頑張って全部千切りましょう? 朝緋はわたしのものです」
「お、お手柔らかに……って違う! お姉さんしっかり合わせてね!」




