第14話 雨天にこそ用心せよ①(ドキドキデートのはじまりはじまり)
午前十時。
たっぷりと睡眠を取って、朝を迎えた。このまま寝てばかりでも真澄ちゃんに怒られそうだからちょっとお出かけ……の矢先に雨模様ですよ。そう、雨。
……雨といえば、巫女にとって警戒する空。
雨は吸血鬼にとって活動時間が延ばせる貴重な天候だ。だって日光が届かないんだもの。だから巫女は、見習い時代に口酸っぱく言われる。
『雨天にこそ用心せよ』、と。
まぁ……その吸血鬼さんと一緒にいるんだけどね。腰には愛刀(四代目)を差して。
「家で寝ていなくて大丈夫?」
「うん、寝たらだいぶ回復できたよ。おねーさんの添い寝のおかげかな」
「いつでも言って。そばで寝てあげる」
油断ならないこの美人。眼がマジだよ。
寝てるだけでも回復にはなるけど、気分転換に外出中。ヒールを履いているわけでもないのに、お姉さんの顔は私の頭一個分上にある。ずっと見てたら首痛くなりそ。
「どうかした?」
「お姉さんの身長をどうやって縮めようかなと」
「ふふ……その時は屈んであげる」
平気でこういうことを宣いますよ。くそぅ、最初はリードしてたんだぞぅ。この人には気恥ずかしさみたいなものはないのぉ?
そんな雨の中、ビニール傘の私と違ってお姉さんは黒みがかった赤色の傘で楽しそうにしていた。
「高そうな傘だよね」
「吸血鬼にとって、雨は貴重な日ですから。傘も気合いが入ります!」
紫外線もカットするの、とお姉さんは楽しそう。めっちゃウキウキしてるし。こうして見たら、少しだけ年上の人間にしか見えない。
そういえば……結局金髪の巫女喰らいが日中活動できた理由ってなんなんだろ? あの黒い靄でごまかしてたとか? ……いや、あれは分身を身体から出す時のもので直射日光を遮れるとは……
「こぉーら」
「あぶっ」
お姉さんに頬をわしっと掴まれる。片手で両頬掴むお姉さんって何。私の顔をぶにゅっと潰して、お姉さんはちょっと不満げ。
「デートの相手を放って他人のことに夢中?」
「で、デートぉ?」
「そう、デート」
そうなの? そうかも?
単なるお出かけだったはずでは?
「わたしは色々と話したのに、朝緋はほとんど教えてくれてませんし」
「だってまだ会って二日だし」
「もう二日、です。人間の寿命は短いのですから、もっと時間を大切にした方が建設的よ?」
それにしたって気が早いよ……人間をセミか何かと思ってませんかね。こちとら現役女子高生なんだよ?
「言ったでしょう? 血だけじゃなくて、あなたが好きですから。できるだけ長くいたいの」
「きゅ……急な告白禁止……っ!」
なぜ今っ⁉︎ そんな雰囲気じゃなくない⁉︎
わからない、まったくわからない、私はお姉さんがわからないよ!
「前に良さそうなカフェを見かけたの。行ってみません?」
「……オッケー!」
傘から覗いたのはお姉さんの楽しそうな表情。昨日の曇った顔が嘘みたい。細かいことはいいや、カフェ行こカフェ!
気を張るだけだった雨の日も、お姉さんと一緒にいることでちょっと違う。普通の女の子だったら、こんな感じなのかな? …………ん~吸血鬼のお姉さんがいる普通とは一体…………
歩いて十分、カフェは意外と近所にあった。私の方が住んでる時間長いのに……職場と学校と自宅の往復の生活ばかりしてるせいか、街並みの変化にすら気づかない限界退魔の巫女です。
目の前には生クリームたっぷりのワッフル。若者らしく写真に収めたいところだけど……胃袋は待てません! フォークを刺して食らいつく!
「んぅ~おいひぃ~!」
朝はお姉さんの用意してくれた軽めのごはんだったから甘味が効くよ……そう、これが女の子らしさよ諸君。甘いものを遠慮せず喰らう、カロリーなんて明日の自分が何とかするさ。必要エネルギーは無限大なのです。そんな私を、お姉さんは紅茶を飲みながら眺めていた。
「いい食べっぷり」
「甘いものならいくらでも入っちゃうからねー。お姉さんが飲む血も激甘になっちゃうかもよ~?」
「それはそれで楽しみです」
眼がマジなんだってば。獲物を狙うそれだよ。もう何しても楽しいターンに入ってない? 私も楽しいけどさ。吸血を楽しみにされるのも変な感覚。
「そんなに私の血っておいしいの?」
いろんな吸血鬼と戦ってきて、純粋な疑問だった。ただ、お姉さんほどのリアクションをするタイプはいなかったから少し気になってたんだけど…………私の一言でお姉さんにスイッチが入って、目をキラキラ輝かせ始めた。
「おいしいなんて言葉じゃ足りないくらい! 口に含んだ瞬間、甘酸っぱい香りが口に広がって、それはまるで新鮮な果物のよう。ややねっとりした舌ざわりから絡みつく味は旨味なんて退屈な表現で終わらせるにはもったいないくらいの感動を与えてくれて…………」
「ストーップ! 自分の血をそんな熱弁されるのは恥ずかしいよ」
「あら、語ろうと思えば一日では足りないけれど?」
どこかで似たようなシチュエーションがあったようななかったような。血なんて鉄臭いだけだと思うんだけど、やっぱり吸血鬼の感性は特殊だねぇ。普通は理解しあえないわけだ。…………っていうか、私の血ってねっとりしてるの?
「ぶぅ、私の血はどろっどろですよー」
「あくまで例え。直感で運命を感じるほどの強烈な旨味でした」
「お? おぅ、そりゃどうもです…………はい」
真っすぐ見つめる赤い瞳は、相変わらず偽りを感じない。キラッキラに煌めいてまぶしっ。お姉さんとしてはビビッと来た! ってやつなのかな? 一目惚れ的な。私も罪な女だぜぃ。
「そういえば、今日はドラマを見る予定だったかしら」
「んー? いや、いいよ。今楽しいし」
こんな雨の日なら大歓迎。毎回こんな日だったらいいのにな。
結局ワッフルの他にケーキまで食べちゃった。カロリー消費は任せた、明日の私!




