第13話 良質な血液の作り方と復讐のすすめ(お姉さんに飼われてます)
「……もう家にいるって疑問はツッコまないほうが良さげ?」
酔いはお姉さんの待ち伏せで少し落ち着いた。
質問にはイエスともノーとも言えない笑みでお姉さんは答える。仕草がいちいち色っぽいんだよなぁこの人。なんだろう今の、おじさんみたいな感想……
「まぁまぁ、先にお風呂で温まってくださる?」
「え……うん」
なんだか流されてるなぁと思いつつ、服を脱ぐ。そういえばお姉さん目の前にいるけど……いっか。
浴室に入ってみれば、普段は空のお風呂にほどよくお湯が張られていた。なんという行き届いた気遣い……お姉さんにダメにされちゃうー。
「はぁ〜~~い・い・ゆ、だなぁ〜ぁっと」
仕事後のお風呂は格別だー、ひっさびさにお風呂入ったよ…………あ、シャワーはちゃんと浴びてるからね⁉︎ 臭くないよっ!
一人ツッコミを終えて手早くお風呂から出ると、扉の先に着替えまで用意されていた。普通に気が利くぜぃ。
「ふぃー、いいお湯でした~」
「それじゃあ、ご飯用意しますね」
この前はサンドイッチだったね。今度はなんだろ?
部屋に戻ると、テーブルに用意されていたのは卵がゆと、豆腐と野菜たっぷり入った味噌汁。これなら食べられそう。
「肉類をいれることも考えましたが、大量の吸血で酔わせてしまったので……今晩は軽めにしました」
「ありがと。分厚いステーキなんて出されたら食べられなかったからね」
さっそく食べてみると、これまたほどよい塩分で優しいお味。プロテインバーとかゼリー飲料ばかりの夕食とは全然違う。仕事漬けにされてた女子高生にはクリティカルです。なんという家事スキル……できる!!
「沁みるぅ」
この味なら毎日食べたいな……って、これじゃまんまプロポーズだ!
用意してもらった分を食べる終えると、少し気分は良くなってきた。やっぱり栄養補給大事。
「ごちそうさま! 酔ってたけど普通に食べれちゃった」
「ふふ、よかった。吸血後にも食べやすいメニューはよく考えていたの」
「それって……昔の恋人のため?」
「えぇ、彼女に『良質な血液は栄養のある良い食事から』と言われて」
……どさくさに紛れて血の味をカスタマイズしようとしてることは置いておこう。
「……ごめんなさい、昔の恋人の話はあまりするものではありませんね」
「ううん、私が聞きたいから大丈夫だよ。気になったのは、彼氏じゃないんだなって」
「もちろん男性の恋人がいたこともあります。その時に好きになった相手が同性だった……と言うだけの話です」
「やっぱり……みんな血を吸いつくしちゃったの?」
「いいえ、ほとんどは老衰や病での死別です。そしてまた新しく出会って、恋をして……」
「ひゅ〜、語るねぇ」
さらっと思い出として話してるけど、お姉さんの恋人たちって私みたいに吸血耐性があったってことなのかな? 割と奇跡的な気がする。そんなに多い特性じゃないはず。
それはそれとして恋バナは一晩聞きたいとこだけど……まだクラクラするからそれは無理そう。聞けるとこだけ聞いとこっかな。
「復讐するのは私のひとつ前の恋人……ってことでいいんだよね?」
「はい。巫女喰らい、ヴァルクに命を奪われた……栞、天崎栞と言います」
栞さんのことを語り始めたお姉さんは、優しい表情が曇り始めた。
「彼女……栞はわたしのことを吸血鬼と知っても受け入れてくれた、人間の女性でした。誰にでも優しくて、明るいとてもいい人…………」
十数年前にお姉さんと栞さんは出会ったそう。
別に巫女に追われてたとかじゃなくて、その前の恋人とも死別して彷徨ったところを助けてもらったんだって。この時点でドラマかよ、なんて思ったけどツッコミはNG。
「それから、ご両親の残したお店を経営していた栞を手伝うようになって……」
「ははぁ、そこでいい感じになったと」
思い出すように、お姉さんは小さく微笑んだ。けどまたすぐに、表情は消える。
「でもある日、買い出しから戻って来た時には…………栞は冷たくなっていました。全身から、血を失って」
右の首から肩にかけて噛み痕が残ってたらしい。血はなくなって、吸血鬼にもならず失血死……被害者によくある死亡例だ。
「それだけで巫女喰らいの仕業ってわかったの?」
「人間にはわからないと思いますが、吸血鬼には独特の『匂い』があるのです」
「あー、そういえば言ってたね」
「えぇ…………多分栞は、巫女を喰らう間の繋ぎで吸血されたのでしょう。その後は犯人を追って各地を移動、何度か倒すことで本体は別にいると分かったの」
元が吸血鬼だから強いってのもあるけど、復讐目的だから強くなったって感じなのかな。そりゃ巫女の仕事も横取りできるわけか。
「あれ? でもお姉さん、退魔の巫女の仕事邪魔してたって聞いたけど、巫女喰らいの他にも吸血鬼と戦ったの?」
「縄張り意識の強い同胞もいますから。巫女喰らいを追っていたら、向こうから襲ってきたのを返り討ちにしただけ……結果的に貴方達の邪魔してしまいましたけれど」
「そっかぁ…………大変だったんだね」
昔も、今も、これからも。
その道中でどうしてもお腹が空いちゃって、とうとう人間に吸血した。そしたら偶然吸血耐性があって、味も好みで、好きになったら一直線。恋人認定不法侵入巫女との共闘…………もしかしてお姉さん、結構お転婆?
「そんな生活を十年。そして今、巫女喰らいは近くにいる」
「まだ分身がいるって、お姉さん匂いでわかるんだ」
「えぇ……この県内、いえこの市内に巫女喰らいの分身は潜んでいます」
要するに獲物を狩るならちょうど今! ……は、わかるけど。
「ごめんねお姉さん。私、血が戻るまでは戦えないんだよね」
「もちろんわかっています。無理をさせて、本当にごめんなさい」
「いいよぉ、お姉さんは悪い人じゃないってわかってるから。それよりさ、せっかくなら協力しない?」
「え?」
「あ、退魔の巫女としてじゃなくて私個人としてね? だってお姉さん強いし、一緒にやれば仕事楽できそーって」
「それは……ありがたいですけれど…………」
「なに?」
躊躇いつつも、お姉さんは私を見る。
「復讐の旅を続けて十年、その中で朝緋の血に出会えたのも運命だと思っています。でも正直、ずっと迷いながら戦ってきました。優しかった彼女が、復讐を望んでいるのか……それにまた、好きになった人を巻き込んで……」
そういう心配かー。別に要らないけどね、私強いし。お姉さんが今まで一緒にいた人に、戦う人はいなかったのかな? ま、その方が幸せだと思うけどね。
「う〜ん、私はその栞さんと会ったことがないからわかんないけどさ……いい?」
「どうぞ、言ってみて」
「栞さんがどう考えるにしたって、復讐した方がいいと思うよ。だって、その方がスッキリするでしょ? 正しいかはともかくとして」
「朝緋……」
「それにさ、やられっぱなしじゃ前に進めないじゃん? さっきも言ったけど、お姉さんが良ければ私手伝うよ? どうせ巫女の仕事で倒すだろうし」
やるならちゃんとボコボコにしないと!
経験者としては、その方がいいって知ってるからね。
「朝緋は……巫女喰らいに勝てると?」
「勝ち負けはわかんないけど、倒せると思うよ。多分…………う? ぅ~ん」
視界がぐらつく。あ、やば……酔いがぶり返してきた…………うぇ~きもちわるいぃ。
すると揺れる視界の中で、お姉さんが私を抱きかかえてベッドへ移すと、私の隣へ入った。え、もしかしてこれはRのつくシチュ⁉
「お姉さん、今日はアレなしだよ……?」
「大丈夫。傍にいるだけです」
それが個人的にはRがつきそうなんだけどなぁ…………うー、ダメだ。気持ち悪い。
「協力のお返事は……また明日。おやすみ朝緋」
「明日はドラマみ、ますぅ」
巫女の長い一日は、そこで一旦おしまい。




