第11話 2度目の吸血は本気の口づけ(マジです、マジのやつ)
「恋人って」
「…………昔の話です」
ワケありはそういうことだったの…………恋人かぁ、そりゃあ復讐するわ。私も似たようなもんだし。
「じゃあ、この金髪は本物じゃないのに巫女喰らい名乗ってたの?」
「えぇ……コレは言わば、彼の一部を埋め込んだ分身。本体は別のどこかにいるでしょう。わたしが記憶している血の匂いと同じだったので、騙されてしまいました」
血の匂いの違いなんてあるんだ…………今までに会ったことないタイプだなぁー、めんどくさそー。っていうかもぅ今日は頭使うことしたくないや。
「まぁ、身内を嚙み殺した奴は倒せたからヨシ! 真犯人の……ヴァルクだっけ? そいつはまた探すよ」
「そう……ならまた――――」
不敵な表情が崩れ、お姉さんはよろめいた。咄嗟に受け止めてあげると、顔が近くて焦る。元から白めの肌だからよくわかんないけど、ちょっと青ざめてるっぽい?
「ちょちょちょ、お姉さん大丈夫?」
「ごめんなさい……空腹で戦ったせいか、目眩が」
「ん? 私の血飲んだじゃん」
「長年、人間の血液は口にしていなかったもので……足りなかったようです」
「そんなにお腹減ってたんだ……何日飲んでなかったの?」
「十年……」
「じゅうぅっ⁉︎」
そりゃお腹減るよ……吸血鬼からしたら断食どころじゃないでしょそれ。あ、でも『人間の血液』以外で凌いでたってことなのかな? うへぇ、あんまり美味しくなさそう……人間のも美味しくないと思うけど。ほんとに変なお姉さんだなぁ。全っ然吸血鬼っぽくない。吸血の欲求って、満たされないほど狂暴化するって習ったんだけどなぁ。
十年も仇を追いかけて……その間、ご飯も我慢して……
ん? じゃあ私はなんで吸血されちゃったの?
「大丈夫です……しばらく寝ていれば回復しますから」
「そんな青い顔で言われてもスルー出来ないってば」
ふらふらと歩き始めるお姉さんの手を引っ張って止める。
……今は私が魅力的過ぎたってことでいいや。とにかく、お姉さんもこのまま見つかったらヤバいし。あぁ、もーどうしたら……って、
「あ、そっか」
「……朝緋?」
簡単じゃん。なんだかんだフォローしてもらったし……えぇい、考えるな白神朝緋!
思い立ったら即行動! 制服の襟を引っ張って、首に噛みつきやすいようにお姉さんへ差し出した。
「まだ仕事あるからちょっとだけど、飲んで!」
「で、でも昨日も頂いて……」
「吸血鬼が遠慮しないでよ⁉︎ ほら!」
さらに首筋を見せつけると、お姉さんの目の色が変わった。それでもお姉さんは他の奴らみたいに飛びついてこない。むしろ戸惑って、不思議そうにこちらを見つめた。
「……どうして?」
「なに?」
首見せつけてるの、結構恥ずい。
真っ当な吸血鬼なら、すぐにでも飛びついてきそうなのに、お姉さんはじっと、私を見る。生唾を一度飲み込んで、お姉さんは視線を落とした。
「先ほど倒した吸血鬼と、わたしに差などありません。夜に生き、人の生き血を啜る、退魔の巫女が滅すべき存在なのに…………あなたは、なぜ?」
それ今聞くぅ⁉ 先に手を出したのお姉さんなんですけどー!
ちょ~~~っとイラっとしたから顔面蒼白の吸血鬼に詰め寄っちゃう。
「なんで助けるかって? コンプラ的に文句言われそうだけど、美人を助けてなんか悪い? というか、私にあんなことしといてタダで済むと思わないでよね⁉ 責任取ってもらうんだから! あ、これはまだ返事じゃなくて今回助けてくれたお礼だから、お・れ・い! オーケー⁉」
ひとりでも切り抜けられたけど!
「で、でも……」
「もぅっ、飲むの⁉︎ 飲まないの⁉︎ はいかイエスかどっち⁉」
「の、飲みます! 飲ませてください!」
「よし来い!」
きっと私は、このお姉さんに刺激を求めてるのかもしれない。私の血に恋をした……この吸血鬼に。
だって面白そうじゃない? それに、お姉さんとマジで闘り合ったら……犠牲者すっごく出そうだし。ひとまず平和に済むなら、私はこれでオッケー。
それに……人間にプロポーズするヘンテコ美人な吸血鬼のお姉さんなんて面白い存在、見逃すわけないよね。告白の返事は…………まだちょっと保留にさせてほしいけど。
「今度は私が酔わないように吸える?」
「善処します…………」
「じゃあどうぞ、おねーさん」
二度目の吸血は、私自身の意思で受け入れる。
お姉さんの牙が再び私の首の皮膚を裂き、身体に流れる血液を吸っていく。自分の命が薄れる感覚は、やっぱり慣れない。でも、ちょっとだけ…………ほんのちょっとだけいい気分になっているのは内緒だ。嘘、結構いい気分。
お互いのことは、これから知ればいいかな。
だってまだ出会ったばかりだし。
そうして私は……対魔の巫女でありながら、吸血鬼のお姉さんを助けたのでした。




