【72】 警察官「なにか隠してます?」
完全に油断していた。3年の歳月が、博之の注意力を低下させていた。
警官A「なにか身分を証明するものありますか?」
博之「いえ、ありません」
警官「これからどちらへ?」
博之「スーパーマーケットへ酒を買いに」
警官「お名前は?」
博之、一瞬詰まった。
警官「……」
警官(何を隠しているんだ?)
博之「松島です」
警官「下のお名前は?」
博之「ひろいちです」
警官「松島ひろいちさんね」
博之「……」
警官「家はこの近く?」
博之「歩いて5、6分」
警官「家まで行けば、身分を証明するものありますよね」
博之「まぁ」
警官「じゃぁ、家まで行きますから、身分証明を見せていただけます?」
博之「いえ、急いでますから」
警察「お酒、買うのに急いでいるの?」
博之「まぁ」
警察「お酒は、いつでも買えるでしょう? 何だったら運転免許証か何か見せていただいたら、スーパーマーケットまでお送りしますよ」
博之「運転免許証は持ってないんです」
警察「では、社員証は?」
博之「無いです」
警察「無職ですか?」
博之「いえ、働いてはいますが」
警察「どちらで?」
博之「パチンコ店です」
警察「どこの?」
博之「モナコホール」
警察「ああ。近いじゃないですか」
博之「……」
警察「家に保険証はありますよね」
博之「あると思うけど、どこに置いたか。全然使ってないですからねぇ」
警察「では、預金通帳かキャッシュカード」
博之「ええ、ありますよ。じゃぁ、あしたパチンコ店に来てください。そこでお見せしますよ」
博之は明日までに逃げようと考えた。
警察「いやいやいや。それでは職務質問にならないのですよ」
博之「……」
警察「わかりました。じゃぁ先に一緒にお酒を買いに行きましょう。その後で、パトカーでご自宅までお送りしますから、そこでちょっとキャッシュカードを拝見させてください」
博之「いえ、そこまでしていただかなくとも。とにかく明日お見せしますから」
二人のやり取りを見て、もうひとりの警察官が無線で応援を要請した。数分後にはもう1台のパトカーが来て停止した。
博之
警察「何かやましいことでもあるんですか?」
博之「……」
警察「なにか隠してます?」
博之「……」
博之が黙秘に入った。
博之(まずいなぁ。絶体絶命か)
さらに、もう1台パトカーが来た。これでパトカーが合計3台となった。近所から人が出て来て集まった。
警察「だんなさん、申し訳ないんだけれど、本人確認が出来ないんで、署までご同行願えますか。そこでお話ししましょう」
博之「……」
警察「何も話してくれないんですねぇ」
博之「……」
警察「何も悪いことをしてないのなら、署に来てもすぐ帰れますから。ねっ」
警察官二人が博之の両脇を抱え、パトカーに乗せた。
博之はもうどうすることも出来なかった。




