【73】 留置場で取り調べ
翌日、警察署。
警官「もうしばらく、居てもらうことになるな」
博之「はい」
博之は、あれから夜遅くになって、自分が以前税務署に勤めていたことを話し始めた。結局、時間とともに博之は観念して、すべてを話したのだった。
取調室。
博之「本名は、松島博之です」
警官「生年月日は?」
博之が素直に生年月日を言った。
警官A「照会、頼む」
もうひとりの警察官Bに、犯歴照会を頼んだ。すぐにもうひとりの警官Bは部屋を出て行った。
しばらくしてから、出て行った警察官Bが照会結果を持って戻って来た。
警官B「犯歴はありませんが、『行方不明者届』が出てますね」
警官A「埼玉県の美浦市に住んでいたんだ。どうやってここまで来たんだい」
博之「夜行バスで」
警官「そうか。東京駅から松山駅までのがあるからな」
博之「そうです、それで?」
警官「奥さんも子供さんも居るんじゃないか。なんで、家出したんだ?」
博之「照会された回答でわかっているんじゃないですか?」
警官「いやっ、何も」
博之「えっ?」
警官「何かあるのか?」
博之「ひき逃げを」
警官「どこで?」
博之「和光市で」
もうひとりの警官が、
警官B「問い合わせてきます」
部屋を出て行った。
そして、1時間ほどが経過した。
警官が戻って来た。
警官B「そのひき逃げ事件は数年前のものらしいです」
警官A「そうか?」
博之「はい」
警官B「78歳の男性が車に轢かれて亡くなっています」
博之「やっぱり」
肩を落とした。
警官B「でも、轢いた犯人は捕まってますよ」
博之「えっ!!! どういうこと?」
警官B「松島さんがその男性を轢いたのは、2台目、ひょっとしたら3台目以降かも知れないな。詳しいことは、明日にならないとわからないが」
博之「えっ!!!」
博之の顔が驚きの表情に変わった。
博之「それは、本当ですか?」
警官B「今、深夜だから、詳しいことは明日にならないと」
博之「新聞の小さな記事で死亡とだけ書いてあったのは見ましたが、詳細はまったく知りませんでした」
警官「交通事故は、なかなか新聞に載らないからな」
博之「では、私が指名手配になっている訳では?」
警官「なってない」
博之「……」
警官「そう思って、逃げていたのか?」
博之「はい」
博之がうなだれた。
警官「明日になればわかるが、轢かれた男性は、1台目ですでに死亡していかも知れないしな?」
博之「もし、そうだとしたら私の罪は?」
警官「ほとんど無いと言ってもいいんじゃないかな」
博之「そうですか……」




