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【70】 失踪中の夫は、松山市に居た!

 妻の松島奈美と息子の松島海斗、その家族を捨て、夫博之は四国愛媛県の松山市に居た。


 四国愛媛県の松山市。

 博之は、住み込みでパチンコ店で働いていた。


【3年前】


 博之が逃げる発端となった事件、それは3年前の税務研修から始まった。

 埼玉県和光市、国税庁は関東信越地区の中堅職員を対象に2泊3日の研修を行った。博之は美浦市にある税務署家族寮からマイカーで研修所に向かい3日間の研修を無事終えた。


 そして最終日、打ち上げが研修所のすぐ近くの居酒屋で行われた。

幹事「研修お疲れ様でした、乾杯!」

一同「乾杯!」


 参加者が各々ばらばらに会話を始めた。

職員A「どうですか職場は? 忙しいですか?」

博之「ええ、無茶苦茶忙しいですね」

職員「やっぱりそうですか。どこも同じですね」

博之「ええ、とにかく残業が多いです」

職員A「そんなに?」


博之「月に100時間はしますね」

職員A「それは多いですね、うちもしますけれど50時間以下です」

博之「そうですよね。うちが異常なんです」

職員A「なんでなんですか?」


博之「上司が完璧主義なんです」

職員A「ああ、そう言う人居ますよね」

博之「部下のミスを許さないんです。部下のミスは自分への評価、出世に直結しますからね」

職員A「わかるわかる」


博之「税金の取り立ても徹底的にやりますね」

職員A「それは辛い」

博之「容赦なく取り立てます」

職員A「上司は事務所に居るからいいですけれど、現場は修羅場ですからね」

博之「そうなんです。自分でもやり過ぎじゃないかと思うことが多々あります」

職員A「それは、少し手綱を緩めた方がいいですよ。そうでないと、今度は自分がやられますよ」

博之「どんなふうに?」


職員A「自己嫌悪からうつ病になった同僚も居ます」

博之「その人はその後、病状が良くなったのですか?」

職員A「わかりません」

博之「えっ?」


職員A「病休の後、退職しましたから」

博之「そうなんですか」

職員A「ええ。だから、何事もほどほどが一番ですよ」

博之「自分でもそうしたいのですが、なかなか」


 その日、博之は普段の職場を離れ、悩みや愚痴を聞いてくれる仲間が居たせいか少しだけ飲みすぎていた。

 そして博之は完全に気が緩んでいた。


博之(乾杯のビール1杯だけのはずが、少し飲んじゃったな)

博之(でも、このぐらいなら運転に支障はない)

 博之は、研修所から美浦市まで乗って来た車で帰ることにした。車の通りもほとんど無く灯りも少なかった。


 車に乗り込み運転して5分もしない時だった。

 車がゴツン! と、ぶつかり少し揺れた。

博之「あっ!」


 30mほど進んで車を停めた。一瞬にして博之の酔いが醒めた。車のドアを開けて、20mほど歩いて戻った。10m先に、車線に倒れている人が見えてきた。

博之(うん? 人間? 男のようだ、)

 博之の位置から、倒れている男の顔は見えなかった。

 倒れている男はピクリとも動かなかった。博之の顔が青ざめた。


博之(まずい! でも誰も見てない、車も来ない)

 そう思ったときは、もう車を運転し、研修所へと向かって戻って行った。5分ほどして、先ほどまで駐車していた場所に戻って来た。そして、車に積んであった宿泊用のバッグを手に持ち、車を置いたまま歩いて最寄り駅へと向かった。


博之(ギリギリで、まだ電車はあるだろう)

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