【07】 同級生の叫び
同じ班の小学生が、海斗を囲んだ。
小学生A「海斗!」
小学生B「海斗!」
小学生C「海斗!」
数人の小学生が、海斗の名を呼んだ。しかし海斗の反応はなかった。
そのうち女の子たちが泣き始めた。麗子と由利が、カウンターの中から慌てて飛び出してきた。
由利「大丈夫か!」
大声で海斗に話しかけたが、目を閉じたまま動かない。
ジョーブ君の中に居る坂口大輔には、まだ何が起きたのか把握しきれていなかった。ただ、何か事件が起きたことだけはわかった。
急いで近くの相談室に行き、相談室の中で着ぐるみを脱いだ。着ぐるみを投げ捨てると、すぐに現場に戻って来た。
大輔の目に、まったく動かない海斗の姿が映った。
大輔「海斗! 海斗! 海斗! 海斗! 海斗!」
大輔が呼び続けた。
しかし、海斗は目を開けなかった。どうしてこんなことに。大輔は気が動転した。大輔は、今朝の柔道で女子生徒が死亡したニュースを思い出していたのだった。
大輔(まさか、まさか!)
知らせを聞いて小竹由夏係長が別の班から戻って来た。
そして海斗が倒れているのを見ると、すぐに由夏は、海斗のあごを上げ、頭をうしろに反らした。次に、海斗の口の中を調べ、すぐに自分の顔を海斗の鼻と口に近づけた。
由夏「気道確保、口内に異常なし、呼吸あり」
由夏が海斗の頸動脈に手を当てた。
由夏「脈拍異常なし」
由夏「大丈夫よ、坂口さん。保健室から毛布を数枚持ってきて」
大輔「わかった!」
由夏「由利さん、救急車を呼んで」
由利「わかりました!」
そこに、4階の秘書課を見学していた引率の先生が戻って来た。
由夏「海斗君は大丈夫です。倒れて頭を強く打ったようです。海斗君は、私と坂口で対応しますので、先生は、社会科見学を続けてください。何かあったら、先生を呼びますから」
由夏は海斗の首を少し持ち上げながら言った。
先生「わかりました」
先生が子どもたちを連れて他の課へと移動した。泣いていた女子児童もやっと泣き止んだ。
税務課の原動機付自転車窓口(諸税窓口)では、ジョーブ君に勢いよくぶつかった高校生たちが、何事もなかったかのように、平然とナンバープレートの交換手続きを続けていた。大輔はその後ろを、保健室への行きも帰りも通ったが、その高校生たちがぶつかってきたことなど知る由もなかった。
大輔は保健室から毛布2枚を持って、税務課前の通路に戻って来た。
由夏「この子の体を少し浮かせるから毛布を敷いてくれる?」
大輔「それなら、私がそっちをやりますので、係長が毛布の方を」
由夏「そうね、力が違うものね。ありがとう」
大輔が由夏に代わり、海斗の体を持ち上げ少し浮かせた。その間に由夏が丁寧に、海斗の頭上にも毛布がたっぷり出るように敷いた。
由夏「坂口さん、この子が、左半身が下になるよう横にして押さえていてもらいます?」
大輔「わかりました」
由夏が、海斗の左腕をまっすぐ頭上になるよう伸ばした。その左腕の上に首を置き、嘔吐しても自然に流れるように口元を下に向けた。
由夏「これで万が一、嘔吐しても大丈夫」
由夏は次に上になった右足を前方へ動かし、膝から90度に曲げた。
由夏「姿勢が安定したわ」
大輔「さすがですね」
由夏は救急救命講習修了証を持っていた。由夏が海斗の半ズボンを10センチほど下に下げた。海斗の靴と靴下を脱がすと大輔に渡した。
由夏「しばらくの間、保管しておいてもらえます?」
大輔「わかりました」
その由夏と大輔の横を先ほどの高校生が、それぞれ新しいオリジナルナンバープレートを手にして通りかかった。
高校生A「なんだ、こんなところで毛布を敷いて寝てるぞ?」
高校生B「防災訓練か? 役所はいつものんきだな。ははははは」
高校生が横を通り過ぎた後に、今度は救急隊員がストレッチャーを押しながらやってきた。
隊員「どうされました?」
由夏「すみません、お疲れ様です」
由夏が今までの経緯を救急隊員に説明した。
由夏「頭を強く打っているようで、まだ意識が戻ってないんです」
隊員「なるほど、そうですか」
大輔「隣の市の秋石病院でCTとMRIと脳波を取ってもらえないでしょうか?」
大輔が口をはさんだ。何よりも、朝のニュースが気になって、口を挟まずにはいられなかったのだった。
秋石病院は、救急を受け付けており、脳神経外科が専門だった。由夏がそれを聞いていて、大輔の積極さに驚いた。
隊員「今、車に戻って病院に聞いてきます。ちょっと待っていてください」
隊員は、救急車へ走って行った。しばらくして隊員が戻ってきた。
隊員「秋石病院で受け入れ可能です」
隊員がストレッチャーに海斗を乗せた。
隊員「誰かひとり、付き添いをお願いします」
由夏「私が行きます」
隊員「では、ご同行をお願いいたします」
由夏「わかりました。坂口さん、課長と引率の先生に言っておいてくれる? 私が秋石病院に行くって。坂口さんも後でお子さんの靴を持って、病院に来てくれます? そうだ、それと、海斗君の母親にも保険証を持ってくるよう連絡して」
大輔「わかりました」
由夏「お願いね」
大輔「はい、わかりました。それではお願いします」
隊員たちは、海斗の乗ったストレッチャーを押して行った。それに由夏は付いていった。




