【08】「絶対に大丈夫ですよ!」
大輔は国民健康保険課に戻ると、すぐに課長の茂森早紀(しげもり・さき・50歳)に報告した。
大輔「小竹係長が、付き添いで病院に行ってくれました。私もこれから追いかけて行ってまいります」
課長「わかりました。経緯は、さっき税務課の笹倉さんからすべて聞いたわ。坂口さん、その小学生はきっと大丈夫よ。あとは、すべて小竹係長と坂口主任に任せるから、責任をもって対応をお願いいたしますね。それと、何よりお母様が一番心配するでしょうから、二人で安心させてあげてくださいね。頼んだわよ」
大輔「わかりました。全力でお母様とお子様をお守りします」
大輔は、社会科見学引率の先生を探し、事情と経過を説明した。そして、学校側から海斗君のお母さんに連絡をしてもらい、保険証を持って秋石病院に行くよう連絡をお願いした。
先生「わかりました。すぐ学校に連絡し、お母様に連絡してもらいます」
引率の先生は、携帯電話で小学校に連絡した。
大輔は、公用車の使用許可申請書を出し、公用車に乗り込むと自ら運転して秋石病院へと向かったのだった。
大輔が秋石病院に到着すると、すぐに係長の由夏と合流した。
大輔「海斗君は?」
由夏「脳波の検査中、CTとMRIは終わったわ。海斗君のお母様には連絡が取れた?」
大輔「はい。先程、市役所見学の引率の先生から、『保険証を持ってこちらに向かっています』と、連絡がありました」
由夏「そう、ありがとう」
大輔「いえ、すべて私が悪かったんです。先ほど聞いたのですが、私が蹴って海斗君を倒しちゃったみたいですから。係長にまでご迷惑をおかけしてすみませんでした」
大輔が頭を下げた。
由夏「そんな、やめて。着ぐるみを着ると、足元が見えないのでしょう? それに、たくさんの小学生が居たから、余計足元なんか気付かないわよ。私が一緒に回っていれば、こんなことにはならなかったのよ。私の責任だわ」
大輔「いえ、係長に責任はないですから。そうそう、課長から『あとは小竹係長と私に任せるから、責任をもって対応をお願いいたします。お母さんを二人で安心させてあげてください』とのことでした」
由夏「そう、課長らしいわ。いつも任せてもらえるから助かるわ」
大輔「そうですね。うるさいことはまったく言わないし、命令もしませんからね」
由夏「その代わり、責任も部下が持つってことよね」
大輔「その方が良いですね。課長の責任となれば、当然課長が命令し、部下は課長の指示に従わなければなりません」
由夏「それだと部下はやりにくくなるわね。課長は現場の細かいことまで知らないから現場の職員に任せるのが一番よ」
しばらくして、母親の奈美が海斗の保険証を持って病院に到着した。大輔が由夏より先に奈美に気付いた。
大輔「海斗君のお母様でいらっしゃいますか?」
奈美「はい」
由夏「このたびは、わたくしどもの不注意からこんなことになってしまい大変申し訳ございませんでした」
由夏と大輔が深々と頭を下げた。
奈美「……」
由夏「美浦市役所で国民健康保険を担当している小竹と申します」
大輔「坂口です」
由夏「今、海斗君は脳波の検査を行っております」
大輔「ここの病院は、専門が脳神経外科です。海斗君には、CT・MRI・脳波とありとあらゆる検査を行っていただき万全を期す予定です。すでに、CTとMRI検査は終了しております」
由夏「海斗君がここに運ばれるまでの経緯は、お聞きになりましたか?」
奈美「はい、一緒に居た生徒の話を通じて、引率の先生からだいたいは。海斗の意識は戻ったのですか?」
由夏「まだです」
奈美「……」
大輔「海斗君の命には別状ないのですが、倒れたときに頭を強く打たれたようなので、救急車で脳の専門病院に運び、今に至っております」
由夏「私共でできることは、ありとあらゆることをすべてやらせていただきます。今回のことは、すべて私共の責任ですので、海斗君が回復し、完全に良くなるまで、私たちが責任を持って海斗君の治療費を含め、面倒を見させていただきます」
大輔「私たちが必ずあなた方親子をお守りしますので、なにとぞご安心してください」
由夏「脳波検査が終わると、医師から説明がありますので、それまでお待ちください」
奈美「……」
奈美は、心配で言葉が出なかった。そして、今朝見たニュースを思い出していた。奈美の眼に涙が溜まり始めた。そして一滴、ポタッと涙が床に落ちた。
大輔「絶対に大丈夫ですよ!」
大輔は、後ろから奈美の両肩をそっと支えた。由夏がそれをじっと見つめていた。
脳波検査を始めてから1時間、奈美が来てから30分が経過した。
検査室のドアが開き、ストレッチャーに乗った海斗が出てきた。そして、再び救急室へと運ばれた。由夏、大輔、奈美の3人も救急室の待合室へと移動した。
海斗は、目をつぶっているものの、顔色は悪くなかった。
更に20分が経過した。看護師が母親の奈美だけを呼んだ。
看護師「お母様ですね。救急室にお入りください」
奈美「はい」




