【67】 二股と一夫多妻制
数日後。
坂口大輔が、住民課の戸部考一の所に来ていた。午後5時15分、終業のチャイムが鳴ると同時に、相談に来たのだった。
坂口「突然、すみません」
戸部「はい、なんでしょう?」
坂口「戸籍について、教えていただきたいのですが、」
戸部「わかる範囲でなら」
戸部は、美浦市役所で一番戸籍に詳しかったので、いろいろな職員が相談に来ていた。
坂口「時間過ぎてますが、大丈夫ですか?」
戸部「全然大丈夫ですよ。いつも1時間ぐらいは、帰れませんから」
坂口「なら、良かった。いくつかお聞きしたいのですが、まず、ご主人が失踪したケースなんですが、」
戸部「はい」
坂口「失踪から5年経った場合、離婚が出来ますか?」
戸部「簡単に結論から申し上げれば、3年以上たっているので『離婚』が可能です。また、7年以上経てば『失踪宣告』により『死亡』とみなすこともできます」
坂口「細かく言うと?」
戸部は、細部について説明した。
戸部「もし、そのご家庭に、お子さんが居るようでしたら『離婚』でなく、『死亡』を選択した方が良いかも知れませんね」
坂口「えっ、どうしてですか?」
戸部「遺族年金が出るかも知れませんので」
坂口「そうなんですか?」
遺族年金は「死亡」が要件となる。これには実際の死亡だけでなく、行方不明により失踪宣告を受けたことによる死亡も含まれる。
戸部「詳しいことは、年金課の金塚さんに聞くと良いと思いますよ」
坂口「戸籍のことは戸部さんで、年金のことは金塚さんですね」
戸部「ははははは」
褒められて照れるのを笑ってごまかした。
坂口「ついでに、もうひとつ」
戸部「はい」
坂口「アフリカとかだと『一夫多妻制』の国ってありますよね」
戸部「はい、ありますね」
坂口「例えば『一夫多妻制』の国の男性と『一夫一婦制』の日本の女性が、結婚するってことは出来るんですか?」
坂口は突然『一夫多妻制』について知りたくなった。特に女性の気持ちを知りたくなった。
戸部「簡単に結論から申し上げれば、一夫多妻制の国の男性の第二夫人になることはできません」
坂口「細かく言うと?」
戸部「ごめんなさい坂口さん。細かく言うと本当にキリがないんですよ」
坂口「そうなんですね。そんなに複雑なんですか?」
戸部「ええ。仮に世界に200の国と地域があるとしたら、200通りの法律があるわけですから、そのすべてをお話しするのは無理です」
坂口「日本では、やはり『重婚禁止』なんですね」
戸部「はい。日本では、『一夫一婦制』ですね。きっと、大昔の持てない男が、そう言う決まりを作ったんでしょう。『一夫多妻制』では、モテない男の所に嫁が来ないと思って」
坂口「ははははは。戸部さんでも、そう言う冗談を言うんですね」
戸部「これ、実は私の心境なんですよ。ははははは」
戸部が大声で笑った。
戸部「私はモテないからいまだに独身です」
坂口「そんなことは、無いでしょうけど」




