【65】 2つ目のお願いと3つ目のお願い
奈美がジョーブ君を指さし、思わず叫んでいた。
海斗がすぐにジョーブ君の足を後ろから抱えた。
ジョーブ君は、以前海斗を倒した経験を生かし、足元に特に注意するようになっていた。学習効果である。二度と同じ事故を起こさないように心掛けていた。
ジョーブ君(海斗君だ! 海斗君が私の足を後ろから抱えている)
ジョーブ君は動くのをあきらめた。
奈美「待って! 行かないで!」
奈美はジョーブ君の後ろから駈け寄ると、ジョーブ君に聞こえるように言った。
奈美「ねぇ、3つの願いを叶えてくれるんでしょう。病院の帰り、車の中で言ったじゃない。お願い、聞いて!!!」
奈美が泣きそうに叫んだ。
ジョーブ君「……」
ジョーブ君は何も言えず、背中で聞いていた。
奈美「2つ目のお願いを使うわ」
ジョーブ君「……」
奈美「私が誤解していたのよ。海斗が倒されたのは、高校生のせいだって聞いたわ」
海斗「うん。ドレミのおじさんが言ってたよ」
奈美「あんなひどいことを言ってごめんなさい。私を許して! それが2つ目のお願いよ」
奈美が涙を浮かべた。そして、ジョーブ君に横から抱きついた。
奈美「そして3つ目のお願い。また、戻って来て……」
周りで小学生が見ていた。
小学生A「ずるい、ひとり占めして!」
小学生B「大人がジョーブ君を抱いてる!」
小学生C「おばさん、ジョーブ君が好きなの?」
奈美「好きよ、大好きよ!!!」
小学生A「えーっ、ずるーい」
奈美「みんなだって、ジョーブ君のこと好きでしょう?」
小学生B「うん」
小学生A「でも、そんなに好きなら、おばちゃんに譲ってもいいよ」
奈美「ふふふふふ」
奈美が、泣きながら笑った。誰が『おばちゃん』なんだ? と笑い、止めようとしても、止めようとしても自分の告白に涙が止まらなかった。
小学生C「おばちゃん、泣いてるの? 笑ってるの?」
奈美「両方よ」
ジョーブ君は、両手を使って奈美と海斗と一緒に握手をし、それからステージの裏へと戻って行った。
ジョーブ君がステージの裏に入ろうとした瞬間、段差につまずいて転んだ。手から地面に落ちた。
会場から笑いが起きた。
ジョーブ君(いてててて。最後に転ぶなんて。昔、古典の授業で習った徒然草の『高名の木登り』ってやつだな)
徒然草の『高名の木登り』では『木の高い所では怖くて気をつけるが、降りてきて安全な場所まで来ると、気が緩んで過ちが起こるものだ』と説いている。
観客「さすがプロの芸人ね。ウケ狙いで転んだのよ」
ジョーブ君(それが、ウケ狙いじゃないんだな。マジで転んだんだよ。それにプロの芸人じゃねーし)
ジョーブ君は起き上がると、会場のみんなに手を振った。海斗と奈美も力いっぱい手を振り返した。
ジョーブ君(動揺しているのかな? 転ぶなんて。あの親子は、私にとって大切な人、それとも疫病神?)
海斗「お母さん、ジョーブ君のこと好きなんだ?」
奈美「ああやって転ぶのも、市民ためにやっているんでしょう。好きだわー。海斗だって好きでしょう?」
海斗「うん」
奈美「あーあ、お腹空いちゃった。なんか食べよう!」
海斗「うん!」
奈美「海斗、なに、食べたい?」
海斗「フランクフルト!」
奈美「いいわねぇ。何本食べる? 2本? 3本?」
海斗「そんなにいらないよ。お母さん嬉しそうだね」
奈美「じゃぁ唐揚げも買って、フランクフルトを一口食べて、空いた棒の先で唐揚げを刺して食べて、またフランクフルトを一口食べて、空いた棒の先で唐揚げを刺して食べる、なんてどう?」
海斗「お母さん食欲があるんだね。それに元気そう」
奈美「うん。泣いたら、スッキリしちゃったからね」
海斗「泣いてスッキリするの?」
奈美「半年分のモヤモヤが、涙と一緒に体外に出たのね」
海斗「我慢していたおしっこと同じ? あれもスッキリするよね」
奈美「そう、同じよ! でも、限界まで我慢していたおしっこを出した時には負けるかも?」
海斗「ははははは」
奈美「ふふふふふ」




