【55】 由夏から大輔への提案
大輔はふと潤平が言っていた言葉を思い出した。
大輔(『小竹さん、坂口さんのことが好きだよ』)
由夏「ごめんね、いつも坂口さんを引っ張り出しちゃって」
大輔「いえ、いいんですよ。係長の仕事ぶりを見るのは好きですし、勉強になるから」
由夏「そんなこと言ってくれるのは、坂口さんだけよ。他の人は、みんな『甘い!』って言ってるんだから。クレームに対しても、こちらも怒りで倍返しするべきだって言う人もいるのよ」
大輔「私は、反対です。このやり方でいいと思いますよ。恨まれたらおしまいですからね」
由夏「私たちって、いいコンビよね」
大輔「男女のユニットだから『お詫びシブリングス』ですかね?」
由夏「そうか。『シスターズ』でもなければ『ブラザーズ』でもないから」
大輔「我々だんだん息が合ってきますよね」
由夏「ふふふふふ。やっぱりそう思う?」
大輔「はい」
由夏「ところで、あの松島さんはどうなった? もうすべて解決?」
大輔「はい、前にも報告しました通り、お子さんの海斗君も、いっときは記憶が飛んでいたのですが、今は転んだ瞬間のことを除けば、すべて記憶が戻りました」
由夏「そう、良かった。あの奥さんから何か連絡はあるの?」
由夏が一番聞きたいところだった。
大輔「いえ、何もありません。こちらからも一切連絡しておりません」
由夏「そうね。もう、すべて解決したことだものね」
大輔「はい」
由夏が安心した。そこで、由夏が大輔にこの店の食事券が入った封筒を取り出した。
由夏「これ、受け取って。ここの支払いをおごるはずだったけど別々に支払ったのと、急な残業を押し付けたお詫びだから」
大輔は、その封筒を受け取り、
大輔「中を見てもいいですか?」
由夏「どうぞ」
封筒の中に2千円分の食事カードが入っていた。
大輔「こんなに?」
由夏「いいのよ。あなたからだって、さっきの奥さんと同じくらいのクレームが、私に来てもおかしくないでしょう? 有無も言わさず、夜の出張に付き合わされたんだから」
大輔「クレームだなんて、逆にいつも係長のこと、尊敬しているんですよ。仕事が出来る人だなって」
由夏「ありがとう。ところで、坂口さんって、好きな人とか付き合っている人って居ないの?」
大輔「いません」
由夏「そうなんだ。ねぇ?」
大輔「はい」
由夏「もしもだけど、もしもよ」
大輔「はい」
由夏「今は、私と坂口さん同じ課でしょう?」
大輔「はい」
由夏「次の人事異動で別の課になったら、付き合ってみない? なんか私たちっていいコンビじゃない?」
由夏が恐る恐る部下に交際を申し込んだ。




