【54】 人間関係って『○○』と『○○』で成り立っている
由夏と大輔は、1駅だけ電車に乗った。クレームを入れた家は、隣の駅から徒歩7分の所にあった。駅前でファーストフードの店を見つけると、小竹由夏が、
由夏「坂口さん、ちょっと待っててね」
大輔「はい」
由夏は、ファーストフード店に入って行った。そしてポケットマネーで食事券を買うとすぐに戻って来た。
由夏「お待たせ。さぁ、行きましょう」
大輔「はい」
二人はクレームの入った家へと向かった。その家のすぐ近くまで来ると、由夏が大輔に、
由夏「じゃあ、お願いね。どっちが正しいとかではなく、とにかくひたすらお詫びして、1分でも1秒でも早く終わらせてください」
大輔「わかりました。いつも通りですね」
由夏「はい。坂口さんが、主役でね」
大輔は家の玄関まで来るとインターホンを押した。
ドアが開き中から奥さんが出てきた。奥には、小学生らしき子供の姿がチラッと見えた。
大輔「市役所の坂口と申します。この度は、私どもの職員がたいへんご無礼をいたしまして申し訳ございませんでした」
大輔と由夏が、これでもかというほど限界の角度で頭を下げ続けた。
奥様「あなた方は、物分かりが良さそうね」
そこで、大輔と由夏が頭を上げた。
大輔「お客様は、さぞかし不愉快な思いをされたと存じます。すべては、私どもの責任でございます。本当に申し訳ございませんでした」
二人が、また、頭を下げ続けた。
奥様「いえ、ねっ、あなた方に文句を言っているわけではないのよ。支所の方の言い方と態度に問題があるのよ」
大輔「はい、おっしゃる通りでございます。以前から問題のある職員で、誠に申し訳ございませんでした」
奥様の愚痴は、しばらくの間続いた。二人はそれを、謝りながら聞き続けた。奥様の愚痴が落ち着いたところで、由夏が大輔に小さなカード封筒を手渡した。
大輔「これは、私どものお詫びの印でございます。市役所までのタクシー代や電話代として使っていただければ幸いです。どうかお受け取りください」
大輔は相手の手を取ると、その手のひらに丁寧に乗せ握らせた。
大輔「本当に申し訳ございませんでした。これに懲りず、今後ともよろしくお願いいたします。何かありましたら、私、坂口までご連絡ください。では、失礼いたします」
二人は深く頭を下げ、外に出て、ドアを閉めた。お詫びの品を渡したところで、帰るのが常だった。二人は駅へと向かった。二人の視野に先程のファーストフード店が目に入った。
由夏「お腹が空いたわね」
大輔「そうですね」
由夏「さっき、食事券を買ったあそこに入りません?」
大輔「いいですね」
二人はファーストフード店に入り、ハンバーガーなどを注文した。品物が出ると、二人はそのトレイを持って一番奥の席に腰掛けた。
由夏「お疲れ様でした」
大輔「お疲れ様でした」
二人が飲み物で乾杯した。
大輔「今日の食事券はいくら用意したのですか?」
由夏「2千円」
大輔「今日は、クオカードじゃなかったんですね」
由夏「ええ、小学生のお子さんがいる世帯だったので、ファーストフード店の食事券の方が良いと思って」
大輔「さすがですね。世帯構成まで調べてあったんですね、頭が下がります」
由夏「一応ね」
大輔「それは、絶対このお店食事券の方がお子さんは喜びますよ」
由夏「ありがとう。なにか坂口さんに言われると、他の誰かに言われるよりも一番嬉しいわ」
大輔「係長から御礼を言われると照れちゃいますよ。こうしてみると、人間関係って『お詫び』と『お礼』で成り立っているんだなと、つくづく思いますね」
由夏「ほんとね」




