【52】 あ~あ、気が重いなぁ
奈美は家に帰ると、確認のために伊織ちゃんの家に電話した。
奈美「もしもし伊織ちゃんのお宅ですか? 海斗の母ですが」
伊織ママ「はい」
奈美「いつもお世話になっております。突然の電話ですみません」
伊織ママ「いえ、何かありました?」
奈美「実は、今、市役所に行ってきたのですが、社会科見学で海斗が倒された時、伊織ちゃんが税務課でクラスを代表して質問したって聞いたものですから」
伊織ママ「そうだったかしら?」
奈美「それで、そのときの様子を何かママが聞いているかな? と思いまして」
伊織「聞いたかも知れないけれど忘れちゃったから、そうだ、今ならまだ塾へ行く前で、伊織が居るから電話口に出させますね」
奈美「ごめんね」
伊織ママ「ぜんぜん」
電話から『伊織、海斗君のママが社会科見学のことで聞きたいって』と聞こえてきた。電話口に伊織が出た。
伊織「もしもし」
奈美「伊織ちゃん、ごめんね。塾行く前で忙しいのに」
伊織「……」
奈美「ちょっと教えてくれる? 社会科見学で伊織ちゃんが代表で質問したって聞いたんだけれど?」
伊織「はい。質問したよ」
奈美「その時の様子を」
伊織「税務課のおばさんとおじさんに『税金のお仕事をしていて、何が楽しいの?』って聞いたよ」
奈美「すごい質問を考えたわね。ふふふふふ」
伊織「そしたら『楽しいことなんかあるわけないよ』って」
奈美「まぁ! それ、由利さんって方が答えていた?」
伊織「忘れちゃった。あっ、ちょっと待って。社会科のノートに書いてあるかも?」
伊織はノートを取りに行った。
奈美(由利さんて、本当に正直者なのかも?)
伊織は戻って来ると、
伊織「『田んぼの田』と『利用するの利』という漢字の付く人」
奈美「じゃぁ、由利さんだ。ありがとう。伊織ちゃん、すごいね。ちゃんとノート取っているんだね」
伊織「うん」
奈美「海斗が倒れた所を見た?」
伊織「ううん。見てない。海斗君、私の後ろにいたから」
奈美「そうよね。伊織ちゃん、ありがとう。」
電話を切り、奈美は考えていた。
奈美(本当だったんだ。由利さんと河津さんの言うことで間違いなさそうね)
奈美(でも、なんで海斗は後頭部を打ったんだろう?)
奈美(高校生がジョーブ君を倒し、ジョーブ君が海斗をドレミ式に、間違った、ドミノ式に倒したら、海斗はおでこを打つはずじゃない?)
奈美(後頭部は打たないわ?)
奈美(あ~あ、気が重いなぁ。私、坂口さんを傷つけちゃった)
奈美(もう、坂口さんとは、二度と会えないな。会わせる顔がないし)
奈美(忘れよう、とにかく忘れよう。すべて忘れる、それしかないじゃない)
奈美(夫と過ごした7年間、坂口さんと出会ってからの1年間、すべて忘れるのよ。忘れることによって前へ進めるのよ)
奈美は、坂口のことを忘れ、二度と会わないと決意した。




