【50】 お子さんを倒したのは別の人物です!
翌日の夕方。
奈美は息子の海斗を連れて、美浦市役所の住民課に、パスポートを取るため戸籍謄本を取りに行った。
奈美(市役所に行くのも気が重いわ。坂口さんだけには、会わないように気を付けなくっちゃ)
奈美は市役所の住民課に着くと、国民健康保険課から自分たちの姿が見えないように細心の注意を払った。
住民課窓口で、
奈美「戸籍謄本をお願いします」
受付「わかりました。番号札を持ってお待ちください」
奈美と海斗は、国民健康保険課から見えないところに腰掛けて、呼ばれるのを待った。
住民課の事務室では、戸籍担当の若石元気と税務課の由利源吾が多額滞納者のことで相談していた。
由利「ありがとうございました」
若石「どういたしまして。うまく追えるといいですね」
由利「ええ」
そんなところに、窓口の職員が
窓口「誰か、松島奈美さんの戸籍謄本、出してくれる?」
河津「私、やりますよ。手が空いてますから」
ベテランの河津八郎(かわづ・はちろう)が、戸籍証明書申請書を受け取った。
河津が端末機に筆頭者の生年月日を入力し、プリンターから出力された戸籍謄本を見て、
河津「どれどれ、松島博之、松島奈美、松島海斗と」
ひとり言を言いながら、内容を確認していた。
由利「どこかで聞いたような名前だな?」
税務課に戻りかけた由利は、社会科見学での事故が数か月前だったので、すぐには思い出せなかった。そこで由利はロビーで待っている客を見渡した。母親と子が座っていた。
由利「あっ、そうか。税務課の前で倒れて、救急車で運ばれた子の名前だ」
その言葉に、今度は河津が反応した。
河津「倒れたんじゃなくて、高校生に倒されたんですよ」
河津が由利に言った。
由利「そうだったね」
河津は、ちょうど税務課の反対側から、その事件を目撃していた。
河津「何か月も経つけれど、お子さんは良くなったのかな?」
由利「さぁ、どうでしょう?」
河津がプリントアウトされた奈美の戸籍謄本を交付担当者に手渡した。交付担当が再度戸籍謄本の内容を確認して奈美の番号を呼び出した。
奈美が待合席に海斗を残したまま交付窓口にやって来た。
窓口担当が戸籍謄本を奈美に手渡し、
窓口「この謄本で間違いないですか?」
奈美「間違いないです」
窓口「では、450円になります」
奈美が会計皿に千円札を置いた。
そのときに、河津と由利が横から入ってきて、
由利「すみません」
奈美「はい」
由利「私、税務課の由利と申しますが」
奈美「はい」
由利「以前、お子さんが社会科見学でここに来て倒されたとき、急いで救急車を呼んだ者なのですが、その後お子さんはいかがですか?」
奈美「そうでしたか。その節はお世話になりました」
奈美が軽く頭を下げた。
由利「どういたしまして」
奈美「一時は記憶が無かったんですが、それも回復しまして」
由利「そうですか」
奈美「マスコット人形に蹴飛ばされて倒された日のことを除けば、すべて記憶は戻りました」
河津「えっ! マスコット人形に蹴飛ばされた。それは違いますよ!」
奈美「違うんですか?」
河津「お子さんを倒したのは別の人物です!」




