【49】 海斗を蹴飛ばしたのは、あなただったのね!
坂口大輔も驚いた。目の前に奈美が立っていた。
奈美「あなただったのね」
坂口「……」
奈美「あなたが海斗を蹴飛ばしたのね! 偽善者!」
奈美の顔が鬼の形相に変わっていた。
坂口「それは、」
奈美は、ツンと横を向き、出口へと急いで走って行った。坂口は、言葉も出ず、呆然と奈美の後ろ姿を見ていた。
坂口(終わった……)
しばらくして、
坂口(すべてが終わった。でも、これで良かったんだ)
奈美は市役所の自動ドアを出て、外を歩いていた。
奈美(偽善者め! いい子ぶって、自分が海斗を蹴飛ばしておいて、まるで自分が助けたようにふるまって。なにさ!)
信頼してきた分だけ怒りがあふれ、自分の感情を抑えきれなくなっていた。涙が止めどなく道路に落ちた。
◇
奈美が坂口大輔と別れて3か月が過ぎた。
奈美のケータイに電話が入った。独身時代に一緒に韓国ソウルを旅行した友達の土江順子からだった。奈美は、順子には、夫が失踪したことも話してあり、良き相談相手だった。
奈美「もしもし」
順子「土江です」
奈美「久しぶり!」
順子「元気?」
奈美「でもないの」
順子「いったい、どうしたの?」
奈美「いろいろよ」
順子「『いろいろ』か? なんか、訳がありそうね」
奈美「電話では、話せないわ」
順子「そうなんだ。複雑なのね」
奈美「うん。ところで、なに?」
順子「もうすぐ春休みでしょう?」
奈美「うん」
順子「どこか、安い海外ツアーが出たら、一緒に行かないかと思って」
奈美「子供がいるから無理よ」
順子「お子さんも一緒でよ」
奈美「でも、お金が無いわ」
順子「すべて、私が持つわ」
奈美「そんなの悪いわ」
順子「キャンセル便や、席が埋まらない便の超格安ツアーを探すから大丈夫よ」
奈美「そんなに安いの?」
順子「信じられないような金額になるわよ。その代わり、急な出発になるけれど」
奈美「そうかぁ~」
順子「仕事は、お子さんが居るから、休もうと思えば休めるんでしょう?」
奈美「まぁね。でも、どうしても休めないときもあるわよ」
順子「ねぇ、行けるかどうかわからないけれど、パスポートだけ取っておいてよ」
奈美「そうね。旅行も全然行ってないし、気分転換になるかもね」
順子「そうよ。人生楽しまなくちゃ」
奈美「わかったわ。子供の分も合わせてパスポートを取るだけは取っておくわ」
奈美は戸籍謄本を取るために市役所へ行かなくてはならなかった。




