【39】 博之の最後の姿
そう思ったが、抵抗しなかった。
博之(殴られたら警察を呼べば良い。こちらは暴行罪で訴えるだけだ。いつものことだ)
客は博之の顔に自分の顔を近づけ、
客「お前その言葉、一生覚えておけよ。俺もお前の顔と名前は、一生覚えておくからな。自分の子供は、注意してよく見ていることだな。元気に育つといいけどな。ははははは」
そう言い捨ててお客は帰って行った。
その日、税務署で博之の所属する担当の飲み会があった。博之にとって嫌な上司が『親睦』と称して、月一回『自由参加』と称して行っていた。しかし、『自由参加』とは言うものの、参加しないと後でいろいろ不当な扱いを受ける羽目になるのだった。
博之は、飲み会に気が進まなかったものの仕方なく参加した。すると、その飲み会で、
上司「お前なんか、とっとと帰れ。そんな不景気な顔を見たってちっとも酒がうまくない。さっさと家へ帰ってかみさんと子供の顔見て寝てしまえ!」
酔いが回った上司が悪態をついた。いつもは、それでも我慢していた博之だったが、この日は、
博之「帰ります!」
そう言うと、さっさと帰ってしまった。博之も酒が回り、理性が抑えられなかった。昼間のことで、気持ちが不安定だったことも手伝っていた。
博之は、税務署まで車で通勤し、税務署の近くに月極駐車場を借りていた。飲み会の日は、帰りタクシーで帰り、車を置いていくのが常だったが、この時の博之は、荒れていた。
博之「冗談じゃねぇ、あんな奴。なんで金払ってまであんな奴と飲まなくちゃいけないんだ!」
博之(早く帰って、妻と子の顔を見て、さぁ、気分転換だ)
博之はそう思った。それが、博之をマイカー運転に導いた。
車を運転しての帰り道、
博之「なんで、国民の子作りまで、私が注意しなければならないんだ?」
酔った頭で思い出し、運転しながらぼやいていた。
酒気帯び運転だったが無事家に着いた。博之は翌日から2泊3日の中堅職員研修があるので、妻と子の顔を見ずにすぐに寝てしまった。
そして、この日を最後に、博之は奈美の前から姿を消したのだった。




