【30】 プロポーズ?
日本に帰ってきて二人は会った。確定申告を書くために喫茶店で待ち合わせをした。
博之が確定申告の用紙を持参し、奈美は博之の言うとおりに記入していった。住所、名前、電話番号と。
奈美「ねぇねぇ、単純なこと聞いていい」
博之「なんでもどうぞ」
奈美「確定申告って、2月から3月15日までの間じゃなくてもできるの」
博之「いつでもできますよ」
奈美「なら別に3月15日までと区切らなくてもいいんじゃない」
博之「奈美さんのように税金が戻る方は良いのですが、逆に確定申告によって税金を納める方は期限を過ぎると延滞税が加算されます」
奈美「そうかぁ、延滞税がね」
博之「そうです。ついてしまいます」
奈美「ねぇ、『延滞税』ってなに?」
博之「あっそうですよねぇ、延滞税なんて聞いたことないですよね」
奈美「ゴメンね、バカで」
博之「とんでもありません。もっとおバカな質問される方もたくさんいらっしゃいますから」
奈美「それ、やっぱり私のことバカだと思ってるってことですよね」
博之「えっ、そうですか?」
奈美「そうです」
博之「まぁ、いいじゃないですか。奈美さんがおバカでも私は奈美さんのこと、とっても好きですよ」
奈美「それってプロポーズ?」
博之「えっ、えーーーっ。プロポーズ?」
奈美「私と結婚したいの」
博之「そんなことは言ってませんけれど」
博之がやさしく言った。
奈美「『言ってませんけれど』、考えてるってこと」
博之「そう来ましたか。確かに奈美さんのこと好きですが『ラブ』ではなく『ライク』といいますか、」
奈美「『ラブ』ってテニスで『ゼロ』の意味よね」
博之「はい、そう言いますね」奈美「私への愛情が『ゼロ』ではなく『ストライク(・・・)』なのね」
奈美は自分の体のど真ん中に、博之の愛情が投げ込まれたイメージで言った。
博之「えっ!?」
奈美「こんな私で良ければ、ふつつか者で、おバカさんではありますが、」
博之「まぁ確かに、すごく頭が切れるひとよりは、ぼくは天然系おバカさんの方が好きですが」
奈美「私たち相性ばっちりですね。結婚しましょう?」
博之「僕は、仕事も私生活も、命令されて生きる人生なのかな?」
奈美が確定申告の用紙を指さしながら、
奈美「ねぇ、ねぇ。『収入』と『所得』って同じ意味なのになんで両方使うの?」
博之「突然話が飛ぶんですね。『収入』と『所得』は、同じ意味ではありません」
奈美「えーっ! 本当?」
博之「残念ながら本当です」
奈美「『収入』も『所得』も、入ってくるお金のことでしょう?」
博之「はい」
奈美「同じ二文字熟語でしょう?」
博之「はい」
奈美「同じ『し』で始まる熟語でしょう?」
博之「はい、でも税法上の意味は違います」
奈美「どうしても」
博之「残念ながら」
奈美「そう」
博之「『収入』は入ってきたお金すべてで、『所得』はそこから経費を引いたお金です」




