【25】 悪い女性だな。魔性の香りが
リンクの周りには、カフェやファーストフードの店も並んでいる。二人は注文したコーヒーを受け取り、フードコートで飲み始めた。
博之「僕、博之と言います。『ヒロユキ』と呼んでください」
奈美「じゃぁ『博之さん』って呼びますね」
博之「はい」
奈美「私は奈美、『ナミ』と呼んでいただければいいです」
博之「わかりました、『奈美さん』ですね」
奈美「それにしても助かったわ。博之さんのお陰です。ちょうど足首も痛くなった頃だし」
博之「それは良かった、僕もスケートに飽きていたところです。抜け出すチャンスができて助かりました。無理矢理手を引っ張っちゃってすみませんでした」
奈美「ううん全然。それに、私スケートそんなに上手くないし」
博之「僕もです。でも世の中には、スケートが好きな人間って居るもんですね」
奈美「本当。ほら、あの二人手をつないで仲良く滑ってますよ」
リンクにいる順子と洋次を指さした。
博之「ほんとだ。スケートって手をつなぐには最高のスポーツなんですね」
奈美「ほんと、ほんと!」
奈美が楽しそうに言った。
博之「あの二人、いい感じで、他から見たらもう恋人にしか見えませんね」
奈美「手をつなぐスポーツなんて、他にあまりないですものね」
博之「そうですね」
奈美「足をつなぐスポーツってあるのかしら?」
博之「レスリングとか、格闘技でしょうね」
奈美「ははははは」
奈美が豪快に笑った。それが、博之には魅力的に見えたのだった。
奈美「順子と北井さん、私ならあそこでわざと転ぶのにな」
博之「それは、どうして?」
奈美「転ぶときに相手を巻き込んで、氷の上で偶然に抱きつくの。そして顔も近づけて」
博之「悪い女性だな。魔性の香りがしますよ」
奈美「ふふふふふ。そうかしら」
博之「僕もこれから趣味、スケートに変えようかな」
奈美「それいいかも。博之さん、今までは趣味なんだったんですか?」
博之「特にないです。しいて言えば仕事かな」
奈美「それは体に悪いわ」
博之「そうですね。もっと人生楽しまないといけないですよね」
奈美「ええ」
博之「明日はどこへ行く予定なんですか?」
奈美「特に決まってないんです」
博之「ならば、一緒に『Nソウルタワー』に行きませんか?」
奈美「わぁーっ、いいですね。観光に来た感じがしていいわ」
博之「そうですよね。日本に帰って誰かに『どこ行ってきたの?』って聞かれたときに、『スケートリンク』なんて言えないですからね」
奈美「『何しに韓国まで行ったのよ』って言われちゃうわ」
博之「まったくそのとおりです。じゃあ、そうしましょう」
奈美「私、順子を説得してみるわ」
博之「僕も洋次を説得してみます。今日は連中にお付き合いしたんですから、明日は僕らに付き合ってもらわないとね」
奈美「そうそう」
二人はすっかり意気投合していた。




