【20】 抱きしめられて、気を失った
翌朝。布団の中で。
奈美「目が覚めた?」
大輔「うん。良く寝た。松島さんは?」
奈美「抱きしめられて、朝まで気を失ったみたい」
大輔「そうですか」
奈美「今、朝食を作るから待っててね」
奈美は起きると、海斗の顔に自分の顔を近づけた。海斗は、寝息を立てていた。奈美は、 トーストとサラダと目玉焼きとウインナー炒めを作り始めた。
大輔は起きて、本棚に置かれた奈美と夫との写真を見つけた。
大輔「こちらがご主人なんですね」
奈美「そうよ」
大輔「どんな方なんですか?」
奈美「とにかく真面目。赤信号はぜったいに守る人。どんなに急いでも赤信号では渡らない」
大輔「そうですか」
奈美「私が明るく前向きなのに対して、あの人は暗くて後ろ向きな人」
大輔「仕事柄じゃないですか?」
奈美「博之はまじめで不正が大嫌いでした。ちょっとした不正も見逃すことができませんでした」
大輔「仕事が仕事ですからね」
奈美「家に帰ってきても、頭の中は、仕事のことでいっぱいだったんでしょうね」
大輔「私もそういうときがありますから」
奈美「家に帰ってきても『ショチョウ、フチョウ、トクチョウ、ツイチョウ』と、『長、長、長』って誰か職場の偉い人のことについてブツブツ言ってました」
実際には『署長、普徴(普通徴収)、特徴(特別徴収)、追徴』であり、『署長』以外は、税金の徴収についての単語だった。
大輔は、朝食を済ますと自分の住むワンルームマンションへ帰り、自宅で着替え気持ちを切り替えると、いつものように美浦市役所へ出勤した。




