【17】 電気、消しますね
奈美が風呂から寝室に戻って来た。大輔が目をつぶって寝ている。奈美は、大輔が寝ているのか、起きているのかわからないので、
奈美「電気、消しますね」
大輔「はい」
大輔が返事した。
奈美がリモコンで部屋の豆球を消した。部屋が真っ暗になった。しばらくの間、静寂が続いた。
突然、奈美がリモコンで豆球を点けて言った。
奈美「すみませんが、海斗を越えてこっちへ来ていただいてもいいですか」
大輔「えっ?!」
大輔がびっくりした。が、でもすぐに奈美の言葉に従った。ただ、海斗の上を超えていくことはできず、海斗の足元をぐるりと回って行った。
奈美が少し横にずれ、大輔は、奈美と海斗の間に横たわった。
大輔が奈美の横に横たわると、奈美は、また、部屋豆球の灯りを消した。
奈美「ごめんなさいね、自分勝手なことばかり言って」
大輔「いいえ」
それから奈美は、天井を向きながら、ひとり言のようにしゃべり始めた。
奈美「学生時代に友達とか、結婚してからは主人が居たけれど、気持ちの上で、私は、昔からずうっとひとりで生きてきたのかも?」
大輔「……」
奈美「主人とは旅行先で知り合って、その時は、私が若かったから勢いで結婚しちゃったけれど」
大輔「……」
奈美「結婚した時、主人はすでに税務署に勤めていて、自分は国民から嫌われる職業だからだから、結婚するのはどうかな? と言ってたわ」
大輔「……」
奈美「私は『そんなの気にしないから』と言って、私から押しかけて行ったのよね」
大輔「……」
奈美「でも、結婚したら違った。日が経ち、月が経ち、年が経ち、主人は勤務年数が長くなればなるほど、そして仕事をすればするほど黙り始め、私や生まれた子供とも距離を置くようになったわ」
大輔「……」
奈美「きっと、仕事のことだけで頭がいっぱいだったんでしょうね」
大輔「……」
奈美「だから私は、常に自分しかいないような感覚だった。『孤独』という言葉が、自分に当てはまりすぎて、人からあまり喜ばれる言葉ではないはずなのに、『孤独』という言葉を聞くと、自分が落ち着き、どんどんその言葉に身を沈めるようになった」
大輔「……」
奈美「すぐそばに主人が居るのに、お互い自分の心を開くことは無かった」
大輔「……」
奈美「なんでだったんだろう?」
大輔「……」
奈美「でも、いつかは、そんな自分を変えなくては。もっと感情を出して、誰かに頼ったり、頼られたりして生きていかなくては。と、思った」
大輔「……」
奈美「そばに主人が居るんだから、この人に甘えて、頼って、自分をさらけ出して生きて行こうと」
大輔「……」
奈美「そう思った時に、主人が消えたわ」
大輔「……」
奈美「なんでだったんだろう?」
大輔「……」
奈美「なんで消えたんだろう?」
大輔「……」
奈美「支え合って生きていくことが、人間らしく生きていくってことなんだろうと思い始めたのに、その相手が消えた」
大輔「……」
奈美「主人が消えてから、徐々に、私はうつ状態になって。主人を含めて誰もが信用できなくなった。誰も」
大輔「……」
奈美「私が人生のどん底に落ちた時に救ってくれたのが海斗だった」
大輔「……」
奈美「海斗がそばに居て、寝顔を見るだけで私は救われた」
大輔「……」
奈美「私が海斗を支え、海斗の成長が私を支え、それで初めて『支え合う』という言葉を知った気がする」
大輔「……」




