【12】 なぜ主人は私の前から姿を消したのか?
奈美が返事をしないので、大輔はついつい話を大きくしてしまった。そのことに大輔が気付き、
大輔「ごめんなさい。聞き過ぎですよね」
大輔が頭を下げた。
奈美「大丈夫。何を聞かれても大丈夫ですから。それと敬語は使わなくて大丈夫よ。私もそうするから」
大輔「ありがとうございます」
奈美「『ありがとう』でいいのよ」
大輔「そうですよね。でも、なかなか。すぐには難しいです」
奈美「そうよね。……主人は、私から消えたんだと思うわ」
大輔「『思う』って、―――どういうこと?」
奈美「私の前から姿を消してもう3年も経つわ」
大輔「『3年も』って、それって大変なことじゃないですか?」
奈美「そう、大変なことになったわ。でも、もうそれは過去の話。今はもう落ち着いたし、なんとも思ってない」
奈美がしんみりと語った。
大輔「そう……」
大輔が小さく頷いた。
奈美「主人が居なくなってしばらくは大変だったわ。それはもう……、想像を絶するような出来事の毎日だった」
大輔「ふむ」
大輔が小さく頷いた。
奈美「だって、ある日突然居なくなったのよ、何も言わずに。朝『仕事で二泊三日の研修に行くから』と言って出たきり、三日後帰ってくるかなぁ、と思ったけれど帰って来なかった。主人の勤め先は税務署だったの。帰ってこなくなった翌日に、勤務先から電話があったわ」
大輔「なんて?」
奈美「『今日、ご主人お休みですか?』って。逆にこっちが聞きたかったわよ! 『昨日、主人は、ちゃんと帰りましたか?』って。でもそのときは聞けなかった、私は、取り繕うので精一杯だったから」
大輔「大変だったんだ。苦労しましたねぇ」
奈美「主人が行きそうな所は全部電話したし、電話がないところは探しに行ったわ。でもまったく見つからなかった。手がかりさえなかった」
大輔「それは大変だったでしょうね」
奈美「なぜ主人は私の前から姿を消したのか、考えたわ。昼も夜も、そして朝になるまで」
大輔「で?」
奈美「わからない、それが結論」
大輔「それが結論?」
大輔がオウム返しに呟いた。
奈美「1、私がいやになって家を出て行った。
2、以前から女が居て、その女と日本のどこかで暮らすことになった。
3、これからの子育てに不安を感じて飛び出した。
4、仕事がいやになってホームレスになった。
5、仕事の関係で恨みを買い殺された。
6、何が理由かわからないけれど、とにかく自殺した。
……考えれば考えるほど私は暗くなり落ち込んだ。どれをとっても暗い理由ばかり。私の方がこの世から姿を消したかったわよ」
大輔「それは、相当辛かったでしょうね。大変な思いをされましたね」




