【11】 主人は消えました……
【11】 主人は消えました……
由夏「いいえ、とんでもございません。すべて悪いのは私共の方です。お母様のおっしゃる通りです」
由夏が奈美をなだめにかかった。
その時ちょうど、
会計係「松島さーん」
奈美が立とうとすると、
大輔「ここは、私が支払いますから」
大輔が奈美の目の前に両手を出し、奈美が立つのを制止した。
由夏「坂口さん、いいのよ。私が支払いますから」
由夏が先に会計へと歩いて行った。奈美は椅子に座ったまま残った。大輔が由夏を追いかけて行った。
会計の前で、
会計係「1万4千7百円です」
由夏が財布から2万円を取り出した。
大輔「これを使ってください」と、一万円札を出して由夏に渡そうとした。
由夏「いいのよ」
由夏が大輔の手を押し返した。
大輔「でも、私の責任ですから」
由夏は仕方なく大輔の出した一万円札を受け取り、自分の一万円と合わせて会計に出した。
会計係「では、おつり5千3百円です」
由夏は、おつり全部を大輔に渡し、
由夏「じゃぁ、ここから5千円を『ここへ来るまでのタクシー代として』と、言って、あとでお母様に渡してくれる?」
大輔「はい。係長、帰りは?」
由夏「ここからバスで市役所へ帰るわ」
大輔「送っていきますよ」
由夏「いいの、いいの。坂口さんは、松島さんとお子さんを、ご自宅まで丁重に送ってあげて」
大輔「いいんですか?」
由夏「こういうときは、女同士よりも、男女で帰った方がうまくいくものなのよ」
由夏が大輔にウインクした。
大輔「それは、なんとなくわかりますが、」
由夏「じゃぁ、うまくやってよ」
大輔「わかりました。いろいろありがとうございます」
大輔が由夏に軽く会釈した。
由夏と大輔が、待合所で座っている奈美の所に戻ってきた。
由夏「私は、急ぎの仕事があるので、このままバスで帰ります」
奈美「そうですか。いろいろありがとうございました」
由夏「いいえ、ご迷惑をかけてすみませんでした。あとは、この坂口を残していきますので、ご自宅まで送ってもらってください。何かありましたら、国民健康保険課の小竹まで、いつでも電話をくださいね」
奈美「はい」
由夏「では、お大事に」
奈美に会釈して由夏は去って行った。
大輔、奈美、海斗の3人が、市役所の車に乗った。
大輔は車の後部座席を平らにして毛布を敷き海斗を寝かせた。大輔が運転をして奈美が助手席に座った。病院から奈美の自宅までは、2、30分の距離だった。
出発してすぐに、大輔は道路左側のコンビニエンスストアを見つけた。
大輔「ちょっと、コンビニに寄りましょう。お昼、食べてないですもんね」
奈美「はい」
車が停まった。
大輔「どうぞお先に買ってきてください。私は後で行きますから。一緒に車の中で食べましょう」
奈美「あなたが先に行ってください。私は、後からでいいです」
大輔「そうですか。では、お言葉に甘えて。お先に」
そう言うと、大輔は車を降り、コンビニに入って行った。おにぎり3個とペットボトルのお茶を買うとすぐに戻ってきた。
大輔「すみませんでした。では、どうぞ。海斗君を見ていますから安心して行ってきてください」
奈美「はい、わかりました。どうぞ先に食べていてください」
大輔「ありがとうございます。では、そうさせていただきます」
奈美がコンビニに入って行った。
奈美は、三角形のサンドイッチとカップのホットコーヒーを持って戻ってきた。
車中で。
大輔「お子さんは、おひとりなんですか?」
奈美「はい」
大輔「今日、ご主人は?」
奈美「昔に消えました」
大輔「えっ!」
奈美「……」
大輔「消えたって? いつ? どこで?」
奈美「……」
大輔「ご自宅から?」
奈美「……」
大輔「日本から?」
奈美「……」
大輔「まさかこの世から?」
奈美「……」




