第95話 未熟
ランチ後にギルドに鑑定結果を聞きに立ち寄る。
例によって部屋に入るなり、雅代から渡されたタブレットで園子が飲み物をオーダーする。というか、部屋のドアをカードキーで開けると、雅代はそのまま部屋に入ることなく「わたしのもお願いしますぅ」とか言いながら園子にタブレットを渡して鑑定の終わっているはずのアイテムを引き取りに行ってしまった。
「小佐原さん、このあと駐車場で魔鉄鋼を渡しますね」
「ああ、さっき言ってた今日のドロップ品ですね。量はどれぐらいでしたか?」
「えーと、五十キロです」
「ごっ! 五十キロォ?! 二千五百万円!」
「とりあえず現金化する必要がないので全部預けますね。アイテム作製に使ってください」
「わ、わかりました。これは腕が鳴りますな!」
ピピ、ウィーン
ノックもなにもなく急に自動ドアが開いてカートに飲み物を載せた雅代が戻ってきた。
「おかえりー」
みんな口々に雅代に声を掛けるが、どうも雅代の表情が微妙だ。
飲み物を取ってみんなに配る。
「雅代、どうしたのよ。ブレスレットは?」
珍しく園子の表情に不安が過ぎる。
「うーん、ここにありますよぉ」
カートのロックを外して中からブレスレットを取り出すと園子に渡す。ブレスレットを手渡された園子はどこかホッとした表情だ。手元に戻って来たことに安堵したようだ。
「それで? 鑑定の結果は?」
「あー、はいぃ。園子先輩に言うまでもないですけどぉ、ブレスレットってレアどころかレジェンダリー級のアイテムなんですよね。浅い階層じゃあまず出ないです。浅いってのはまぁ、四、五十階層より上とかそんな感じです。で、すごぉくお高いです。身に着けた瞬間に効果が出るし、汎用性が高いんです。本来は」
本来? じゃあ、例外もあるってこと?
「え? なぁに? もったいぶらないで教えなさいよ」
「えーとですねぇ、それ、汎用性が微妙でしてぇ。効果がですね『スキルの使用回数が倍になる』らしいんですよぉ。まぁ、回数増えるからいいと言えばいいんですけどぉ、バフ系のスキルとかだと効果が無いんですよねぇ。倍になるのが威力とか効果じゃなくて、回数なんで。だから剣とか槍とかのスキルにも効果が無いみたいでぇ、ってみんな聞いてますぅ?」
「いや、聞いてたよ。スキルの使用回数が倍になるって言ってるんだよね?」
「はいぃ。それでぇ、その効果のブレスレットは過去にドロップの記録がありませぇん。だから値段が付けられなくてぇ。とりあえず売りに出すならオークション」
「ダメよ! これはわたしのだわ!」
「わぁ、びっくりしたぁ。先輩、どうしたんですかぁ、そんなに興奮してぇ。誰も盗らないから大丈夫ですよぉ?」
園子はもう話を聞いていなかった。飛び切りの笑顔で鈍い銀色のブレスレットに左手を通すと誇らしげに太陽に手のひらを翳すように頭上に掲げた。ブレスレットは照明に反射したのかキラリと輝くと、細い園子の手首にぴったりと寄り添うようにサイズを変え、傷一つない美しい鏡面の白銀に変わった。
「わぁ、きれい。そんなにキレイならアタリですね!」
雅代にとってはアクセサリーとしての価値しか見出せないアイテムだが、園子は嬉しそうに白く輝く新しい相方に目を細める。
その効果を激しく欲したアイテムが、想像もしない美しさも持っていたことで喜びも一入なのだろう。
「園子、良かったな。園子が、いや、俺たちにとって一番欲しかったものが手に入ったぞ!」
ブレスレットを愛おしそうに撫でる園子だが、今となってはその効果より美しさに喜んでいるようにも見える。
「おー! 園子ちゃんのスキルが倍も使えるようになるん、ものごっつヤバいやん!」
「あらあら、これはずいぶんと冒険が捗ってしまいますね」
「これでますます俺たちは園子の世話になりっぱなしだなぁ」
「ん~? 園子先輩のスキルって、アレですよねぇ? なんでこんなに大騒ぎになるんですぅ?」
「あー、それはやなぁ、雅代ちゃん、契約ん時に話しよやー」
お? 葵がちょっと大人になったか?
「あー! 契約書! 今作ってますぅ。今夜おうちに持って行っていいですかぁ?!」
「今夜は約束があってちょっとダメなんだ。立神さんと話しをすることになっていてね。明日、帰ってくるとは思うんだけど、まだどうなるかわからなくてね。時間が出来たらすぐに連絡するから待っていて欲しいんだ」
「あーん、残念ですぅ。そろそろ、ござるのオークション始めようと思うから早めにお願いしますね!」
「雅代、いくのね?」
「せんぱい! いきます! もう出来てますよね?」
「出来てるって?」
「そうね、それもちょっと話し合いたいのよ。Renegadesの公式サイトを立ち上げる相談よ。Renegadesの名前は各所押さえてあるんですけどね。顔を出すどころか、タックネームも出さないわ。構成も人数もね。要するにクラン名と取り扱ってる商品だけね。私たちのことは勝手にネットで宣伝してくれていますからね。そっちを使わせてもらうわ」
「なるほど、配信者とかミュージシャンが顔を隠す感じの先を行くんだな。元々冒険者はプライバシーを隠すのが普通だしな。Titansみたいになんでもかんでも晒す方がウケはいいかもしれないが少数派だからな。それと、俺たちは個人の名前が売れたところで意味なんてないしな」
「そうなのよ。動画とか配信サイトで人を集めて収益を得たいなら別ですけどね。わたしたち、単純に身バレが嫌で隠そうとしてたけれど、返ってそれがミステリアスだってウケちゃったのよね」
「周りが恐れて俺たちに触れ辛くなればそれでいいだけだからな」
まだだ。俺は、他人を巻き込んでその人の人生まで背負えるほど何かを成したわけでも、その実力があるわけでもない。俺のスキルが特殊とはいえ、あくまでパーティー単位までしか手が届くものではないのだ。今、ここにいる人の人生が掛かり始めているという事実だけでもとても重いのだ。
「千里、あなたが全部背負う必要はないのよ。わたしが勝手に付いて行っただけだもの。最初に確認したでしょ。ダンジョンに潜るのは自己責任なのよ。あなたはわたしの人生に責任を負う必要は無いわ」
「そうですよ、千里さん。ずいぶんと深刻なお顔をされていますけど、貴方が選んだのではありませんから。私が選んだのが貴方なのです。ですから、なにがあってもそれは私だけの責任の範疇の出来事です。何があってもです。貴方は私のことを便利に使っていただいていいのですよ。そして、それこそが私が望んで飛び込んだものなのですから」
「せやで、兄やん。ウチのことかてなぁ、十八歳はもう立派な大人で成人の女やからな。制服はまだ似合ってまうけどやな、もう学生でもないねん。だからウチのことは子供扱いせんでええからな。兄やんは兄やんでオトンやと思うたことはないで。あ、兄やんいうのんもアッチの呼び方で兄妹の意味とちゃうからな!」
「うん、そうだね。星名さんはみんなのことを大事に考え過ぎかもしれないね。もちろん、メンバーを大事に思う気持ちは大切だ。だけど、それに囚われ過ぎて自分を殺し過ぎな部分があるかもしれないね。もっとメンバーに対して遠慮が無くなったら更にもう一段階上の次元の関係が築けるかもしれないね」
みんなからとても、とても大事なことを言われたと思う。今すぐには、もらった言葉の意味も、この先自分がどうあるべきかもわからない。自分ではずいぶんとみんなと明け透けな関係を構築出来ていると思っていた。だが、彼女たちにはまだ俺が遠慮しているように思われているようだ。
そうだとすると、俺はこの十年、他人に対してどこか壁を作って生きてきたのかもしれない。「どうせ」とか「自分なんて」という気持ちを常に持っていたように思える。それはつまり、相手を心から信じていないということなのではないだろうか? 自分が提供できるものはどんどん出したいと思うのに、相手から発せられるものを無意識に拒絶しているのか?
彼女たちも、寅吉さんも、小佐原さんも、俺にもっと好き勝手やれと言う。それは、俺と言う人間の可能性を信じてくれているからだ。リミッターを外せ!
だが、どの部分のリミッターなんだ? ダンジョン探索をガンガン行け、ということではない。
今はまだ、俺という人間が、男が、未熟であるということと、秘めた可能性があるということがわかったことを喜ぼう。その両方が、俺という人間が枯れた年寄りではないという証でもあるのだから。
【パーティー名:Renegades】
L:星名千里:SEN(Lv18)【高度戦術支援地図】Lv.3/5(Exp.2/5)
2:寅吉勝利:タイガー(Lv.65)【剣術】Lv2 (Exp.1/10)
3:岩沙香流:クローザー(Lv22)【絶対領域】11/12/Day
4:西宮園子:マネージャー(Lv19→20)【瞬間移動】19/24/Day
5:川下葵:エース(Lv17→18)【範囲攻撃魔法:地獄炎】11/12/Day




