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最弱スキル【地図】が【こうしえん】になった!? - 高度戦術支援地図で最強クランに成り上がれ!  作者: 秋乃せつな


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第94話 カレーは飲み物

 代々木第一ダンジョン、第二十六階層は第十一階層に次いで安地になっている。第二十五階層からの階段口を中心に半径百メートル内が安全地帯(セイフティーゾーン)だ。第十一階層の十分の一の面積しかない。


 安地の造りは第十一階層と同じで、十字路の先にそれぞれ四か所、第二十七階層への下り階段がある。


 竜騎兵(ドラグーンズ)の店は、ここでもやっぱり一番通りにあるそうだ。冒険者ギルドの建物を過ぎて一番通りの先、下り階段口の目の前に『万屋(よろずや) 竜の寝床』はあった。


「やっぱり、良い場所にあるなぁ」


「ここなら下の階層で稼ぐ冒険者が少しでも楽に往復出来ますね」


「そうね。戦利品を運ぶのに苦労はしたくないものね」


 周りに比べても立派な店構えで、年季も入ってそうだった。年季は入っているが、軒先は綺麗に掃き掃除がされているし、ガラスに汚れもない。さすが元陸自隊員の経営する店だ。


 寅吉さんが万屋の暖簾(のれん)をくぐるのに続いて店に入る。


「らっしゃい。お? タイガーか! なんだお前、ここまで来るのずいぶん早くないか?」


 先日のお疲れ様会に参加していた寅吉さんの陸自時代の同期、阿芽寿美(あめとしみ)さん、タックネーム『マスター』がカウンターの向こうにいた。


「よう、二十六階層に来たから約束通り寄らせてもらったぞ」


「マジか。こりゃ驚いたな」


「こんにちは。お邪魔します」


「お? ヒゲのおっちゃんやん! じゃますんでー!」


「わはは。相変わらず元気があっていいな! 何か食うか? 初回サービスで奢るぞ。といってもここでのメニューはこんな感じだけどな!」


 全員が挨拶を終えるとメニューを差し出されたが、そこに書かれた値段に驚愕した。


 まず、この建物だが、一階部分は屋号である『万屋(よろずや) 竜の寝床』の『万屋』の部分と『寝床』の受け付けがある。


『万屋』の部分はコンビニだ。およそダンジョンで必要なものがいろいろ売っている。


『寝床』はホテルだ。建物の裏に回ると庭になっていて、宿泊者はまず、水道を使って装備を洗うことになっている。シャワールームと大浴場も併設していて、魔石燃料による電気や給湯器も完備されている。


 冒険者たちはここで装備の手入れをし、身体を清めてから屋内に入ることになる。建物の裏庭には、宿泊者と関係者以外は入れない結界が張られている。


 宿泊料金は、一部屋五人までの素泊まりで一泊、三十万円だそうだ。ひとりあたり六万円の計算になる。これは、部屋単位での貸し出しなので、五人以下で泊まっても一泊三十万円は変わらないそうだ。


 店内には喫茶店もあって、食事も提供していた。ほとんどが冷凍モノだが、一部メニューは調理が必要なものもある。


 ここではあらゆるものの値段が恐ろしく高い。第八階層では地上の値段にゼロがひとつ足されるぐらいだった。ここではそのさらに三倍だ。生鮮は無い。あるのはインスタントやコンバットレーション、缶詰など長期保存ができて嵩張(かさば)らないものだ。


「カレーライスが七千円ですか」


「そう! しかもルーは市販のレトルトな。うちは良心的だから米は多めだぞ。だいたい一合な」


「それ、ルーが足りないわよね?」


「なかなか鋭いね! お嬢さん、料理する人かな? そうなんだ。だからだいたい追加でいろいろ頼むことになる。ルーか缶詰を一個足して合計で一万円だね」


「かー! めっちゃエグいな! ぼろ儲けなんちゃうん?」


「まぁなぁ。売る物があればな」


 なかなか大変なんだぜ? と言う言葉には実感が籠(こも)っていた。


「ここまで商品になるものを運ぶのがどれだけ大変かって話なんだが。お前さんら、ずいぶん軽装だな。俺らみたいな野郎ばっかりだとよく食うからな。毎回、食い物を運ぶだけでえらい大変でな」


 俺たちも全員、リュックを背負っている。怪しくない程度にカムフラージュする必要があるという寅吉さんのアドバイスだ。中には行動が阻害されない程度の重さのものが入っている。万が一のサバイバルのための水や食料だ。


「ここに潜る連中は限界まで物資を運んでギリギリまで食い物なんかを絞って滞在日数を伸ばして稼ぐ。持って帰るアイテムの重量がいっぱいになったら終了、あまった物資を下取りに出して帰るんだ」


 俺たちは、食事は済ませたばかりということにして飲み物だけいただくことにした。俺と寅吉さんはコーヒー、女性たちはアイスティーだ。


「よし! じゃあコーヒーはこれだな!」


 マスターは豆から挽いたコーヒーを淹れてくれた。この店での値段は一杯五千円だ。一流ホテルのコーヒーの倍ほどの値段だから、安くはないが高いとも言えない。


「ここで買取してもらえる素材もあるんですよね?」


「うん、あるよ。この前みたいに薬草の素材とかね。あとはね、思うように稼げなかった冒険者が買い取るんだよ」


 優秀な冒険者はここで地上より安い値段で売ってまた潜りに行くのだそう。


「ま、その買取やってんのがウチなんだけどな」


 ここで高値にならないアイテム。ネームド以外の武器防具、魔石などだ。それを七掛けで買い取る。地上に運べば七十万円が百万円になる。


「じゃあ、人によっては潜り続けることも可能なんですね」


「ああ、いるぜ? 棲(す)んでるヤツがな」


 そう言うとマスターは意味ありげに、そして少し悲し気に薄く笑った。


「うーん、それやと毎日インスタントとか缶詰ばっかしなんやろ? それはちょっと、嫌やなぁ」


「ははは! 違いない。それでいい。その感覚は大事だぞ。地上に未練があるヤツの方が潜るのに向いてるんだ。戻れるからな」


 そう言うこの人(マスター)はどっちなんだろうと思った。


「ほんで? ウチらに来い言うた人は今日はおらへんの?」


「お? そうだったな! 来るぞ。今日は荷下(にお)ろしの日だからな。昨日、二十階前後で一泊して夕方までには到着するはずだ。お前ら、時間大丈夫か? たぶん一泊していけっていう話になると思うんだが」


 みんなで顔を見合わせた。


『今日、帰りたいという人は遠慮なく言ってください』


エース:泊まりエエでー

マネージャー:大丈夫

クローザー:大丈夫です

タイガー:連絡しないとマズイ


 寅吉さんは家に連絡入れないとそりゃヤバいな。最悪の事態があったと思われたら大騒ぎだ。


『このまま下の様子を見に行くから、泊まれるならまた戻るってことにして一回出ましょう。で、一度出て真由美さんと此花(このは)ちゃんに連絡を入れて確認しましょう』


タイガー:ありがとう。


「マスター、俺たちここに来たのが初めてでな、このまま少し先の様子を見させてくれ。今夜泊まれそうなら戻る。そのまま進む場合はまた後日にさせてくれ」


「わかった。団長は輜重(しちょう)部隊の頭をやってるんでな。明日にはまた上に戻る予定だから、今夜ダメならまた十一階でもいいから顔出してくれ。地上ではもう俺らの事務所も無いんでな。なにかあったら直接メール入れておいてくれ」


「わかった。コーヒーごちそうさん」


 みんなでお礼を言って店を出て下り階段口に向かうが、店とは目と鼻の先だ。


「みんな、ストップ。この下は第二十七階層で、さっきのボス部屋と同じオーガが単騎だ。うろついてるからな、まれに合流して二匹とかの場合もあるかもしれん。気を引き締めよう」


『すぐに小部屋を探して駆け込もう。マネージャー、なにもなければ一階に頼む』


マネージャー:了解


「よし、行こう」


 寅吉さんを先頭に階段を下りると、途中の踊り場で階段を上るパーティーとすれ違ったのだが、視界に入った瞬間に寅吉さんが右手を上げた。


「お疲れさん、通るぞ」


 低く落ち着いた声音だ。だが、有無を言わせぬ迫力もある。身構え掛けた冒険者たちが「あっ」と声を出して反射的に右手を上げる。


「レネゲイズ?」


「せやで!」


 エースは手を振っていた。虎の威を借りるのがうまくて調子が良い事この上ないが、まったく嫌味がない。


 突然の邂逅に呆然と手を振って見送るベテラン冒険者たち。


 通り過ぎて次の踊り場を回り込んでお互いが見えなくなる頃に上の方で「ホンモノだ!」と歓声が上がっていた。


 そして、程なく第二十七階層に到着。


「ここも空振りやな」


「ま、こんなもんだろ。でも、あれ以来ランダムエンカウントだけでも結構、稼いでいるからな。よし、マネージャー、頼む」


 ◇


 一階に【瞬間移動】してホールから階段を上がってロビー到着。


「エース、ほい」


 背中を向けてしゃがむ。


「うーん、大丈夫! 自分で歩くわ」


「お、偉いじゃないか。よし、肩だけは貸すから掴まれ。最初から無茶はするなよ」


 五分ほどの休憩の間、チラチラとは視線を感じるが、声を掛けてくるような輩はいなかった。


「うーん、もう行けるでぇ」


「ははは。よし、よく言った。今日のところは大人しく乗っておけ」


 そう言って背中を向けると遠慮のない勢いでドサっと乗ってきた。


「マネージャー、行けるか?」


「ゆっくり向かうわ」


 そう言うと香流に肩を借りながら歩き始めた。寅吉さんが殿(しんがり)で誰にもあとは追わせない。というかそもそも追おうとする者もいなかった。どうやら午前中の騒動が噂となって良い牽制になっているみたいだ。


 葵を車に放り込んで急いでアーマーを脱いで園子の元に駆け付ける。


「よし、いいぞ」


 園子を背負って車に戻って全員で乗車する。


「千里、ありがとう」


「兄やん、おおきにやでー」


「千里、なんか、軽々と運べるようになってない?」


「そうかな? 園子が軽くなったんじゃないか?」


「うっ。それは嘘でもうれしいわ」


 わざわざ全員で車に戻ったのは一旦、ランチを食いに行くためだ。


「雅代さん、すぐ来てくれるそうです。小佐原(おさわら)さんもいるそうなのでアイテムを渡しても大丈夫そうですよ」


 装備を脱いで着替えが終わったころにドアがノックされた。


「小佐原さん、雅代、わざわざすいません。調べて欲しいのはこれです。それと魔石はこれです。ハイ・オーガのものです」


「うぐっ?! ぶ、ぶれすれっとぉぉぉ?!」


 雅代が大声を出しそうになるのを必死でこらえた。


「先輩、なんでこんなものが出て来るんですぁ」


「しょうがないでしょ。葵が拾っちゃうんだから」


「野良猫を拾ってくる子供みたいに言わないで欲しいんですけどぉ? これ、わたし持って歩くの怖いからござるが持っててよ」


「もちろんでござる。これはすんごいですなぁ。効果はなんでしょうな。楽しみでござる」


 ござる?! いつの間にかだいぶ気安い仲になったようで良いこと、だよな?


「あ、これからランチ行くけど一緒に行きます?」


「いいですな! ちょうど腹が減ったでござる」


「行く! 行くでござる!」


 雅代、大丈夫か? 小佐原さんと一緒にいる時間が多くなって感化されてないか?


 寅吉さんが、今夜は立神(たつがみ)さんの宿で泊まり掛けになることの了承を得たあと、無事にクールダウンも終わった全員で歩いて、まず雅代がブレスレットを鑑定に出しに行き、そのままイタリアンレストランに行ってパスタ、ピザ、生ハム、ステーキを食べた。


 まるで、今夜の食事が寂しいものになりそうなことを乗り越えるための儀式のようだった。



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