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最弱スキル【地図】が【こうしえん】になった!? - 高度戦術支援地図で最強クランに成り上がれ!  作者: 秋乃せつな


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第90話 敵対的動議による全権移譲決議

 今日は代々木第一ダンジョン、第二十五階層のボス戦だ。小佐原(おさわら)さんは自宅工房で作業なので寅吉さんと潜る。


 まずは駐車場で装備を身に着けつつ最終確認。


「二十五階層のボスはオーガの上位種のハイ・オーガで、護衛にオーガが二匹付いて合計三匹だ」


「なんかあれやな。なんも思わへん」


「まぁな。ハイ・オーガのヒットポイントがどんなもんなのかってところか。油断だけはせず、慎重に行こう」


「まぁ、怖がれっていうのも変ですから言いませんけどね。極端なのよね。レベルと顔に見合わないほど強力な攻撃力と、レベルには見合わないけど顔見て納得の超絶の防御力。でもワンパンであの世行きなのよね」


「顔に見合わんてなにぃ?」


「大丈夫よ、一部パーツに見合って強力よ」


 みんな違ってみんないい。って言ったらぶっ飛ばされそうだから寅吉さんを見習って気配を消しておこう。


 今日は第二十六階層の安地にある『竜騎兵(ドラグーンズ)』の店が最終目的地だ。待ってるとは言われたが、今日行くつもりなことは伝えられていない。ダンジョンに潜っている人には連絡の取りようがない。俺たちは、一度行けば次からはいつでも好きな時に行けるので、とりあえず一回行けばいい。


 現地に誰かいるかもしれないので念のため【瞬間移動】の回数を節約するために別荘経由を止めて朝練を自宅で済ませてから、いつもより遅い午前十時にダンジョンダイブ開始だ。


 寅吉さんを先頭にロビーに入る。大手ショッピングモールのフードコートのように広いロビーには、時間が遅くなったせいでいつもより人が多い。ラッシュアワーにぶつかってしまったか。緊張が走る。


「なんかみんなこっち見とんな」


 葵がこそっと俺に向かって呟く。隠密が効いているはずだが、それでもやたらと視線を感じる。


「えっ! あれ、レネゲイズじゃね?!」

「どこどこ? ホントだ!」

「やっぱりレネゲイズだってよ!」

「マジか!」


 先頭の寅吉さんは声を無視してズンズンと進んで行く。


「ねーねー! 聖騎士(パラディン)さん!」


 俺の前を歩く香流(かなれ)に向かって右から手が伸びてくるのが見えた瞬間、反射的に足が出た。


 ドガッ! ガラガラガッシャ!


「なんだなんだ!」

「キャー!」


 手を出してきたヤツが吹っ飛んでアルミ製のイステーブルに突っ込んでひっくり返って辺りが騒然とする。


 シャキィィィン


 寅吉さんの抜いた日本刀がそいつの喉元に突き付けられる。


 俺は腰の忍者刀に手をやりながら反対側に目をやる。近寄って来ようとした野次馬たちの足がピタリと止まった。


「ゆっくりとメットを脱げ」


 静かに告げる寅吉さんの低い声が部屋に広がる。


「空挺(レンジャー)は売られた喧嘩は高く買うことぐらいわかってやっているよな」


 空気が凍った。


 こういう馬鹿に付ける薬はある。誰からもわかるようにメットの録画をスタートさせる。


 ロビーでの撮影はマナー違反だ。冒険者の素性を暴こうとする盗撮行為だからだ。素性を暴く行為に関しては生命のやりとりに関わるので謝って済む話ではない。


 録画を始めたメットで周囲をゆっくりと見渡す。ここで引いたらずっと舐められるだろう。気合を入れろ! 大丈夫だ。こっちには寅吉さんがいるのだから! 俺はリーダーとして、メンバーとパーティーにとって正しい判断をすることだけを考えればいい。


 軽いノリで他のパーティーを気に掛けるような奴らがいないかとグルリと見渡す。


「遊びで来てるような奴らに構ってる暇は無いんだがな。お前らいい歳して今まで何を学んで来たんだ。ここに潜るのは十年早いんじゃないか? みなとみならいの一階からやり直せ。俺たちの動画を上げている連中にも言っておけ。バレないと思ってるならめでたいことだってな」


 反論はなかった。剣を突き付けられてひっくり返ってるヤツを見る。


「お前、メットを外せって言われたの聞こえなかったのか」


 ズイっと一歩踏み出すと慌ててヘルメットを脱いだ。右手を差し出すと観念したのかヘルメットを差し出したので受け取ると園子に渡す。園子がメットを調べると溜息混じりに俺を見た。


「ランプは点灯してないけど録画されてるわ」


「こいつの仲間はどこだ」


 周りを見渡す。


「こいつです! こいつ、そいつの仲間です!」


 左前でひとりの男が突き出された。


「こいつも!」


 またひとり、どこかのパーティーが男を捕まえて前に引き出す。


「あ! 待てこら!」

「はなせごらぁ!」

「てんめぇ! ざけんな!」


 怒号が飛び交い騒然とするが多勢(たぜい)に無勢(ぶぜい)。盗撮野郎たちは目を付けられていたパーティーらしく、他の冒険者たちに捕まって全員がロビーに素顔のまま正座で並ばされている。


寅吉さんが抜き身の日本刀を持ったままだ。最初の男の首元に日本刀を突っ込んでドッグタグを引っ張り出す。男はガクガクと震えながらアゴを上げていた。


「誰か受付職員を呼んで来てくれないかね」


 静かだが低い声がそう言うと、取り囲んでいた冒険者たちを包む空気の緊張が解けたのがわかった。


 今ここで行われようとしていたのは『私刑』だ。こいつらのやっていることは全ての冒険者に対する裏切りだ。許してはいけない。だが、寅吉さんが受付を呼びに行かせたことにより、私刑はなくなったのだ。ここからはルールで裁かれる。


 正座させられているヤツらもホっとしていた。このまま階段を突き落とすだけでよかった。そこからはダンジョンだ。ルールはない。死体は消えるのだ。


「道を開けてくださーい。うわ、なんですかこれ。え?」


 抜き身の日本刀を構える猛者を見て事態の深刻さを悟る係員。寅吉さんが盗撮グループから目を離さずに職員に告発を始める。


「こいつらに盗撮された。ランプを消して録画して近付いてきたんだ。余罪がたっぷりありそうだな。現時点を以(もっ)て懲罰動議の発動を宣言する。こちらの組織とコイツらの所属、関係組織に対して敵対的動議による全権移譲決議を申請する。証人希望者を求む!」


「俺!」

「俺やります!」

「すっげ! やりまーす!」

「オレオレオレ!」


 周りの連中がこぞって手を挙げる。隣にいる香流(かなれ)が囁く。


「今のは組織の全ての財産を懸けて白黒付けるという宣言でした。負けた方は全てを失います。刑務所に入るわけでも、司法における前科がつくわけでもありませんが、もう二度とダンジョンに関わる職業に就くことはできません。二度とドッグタグが支給されることはありません。希少なスキルを保有するなど、特例が認められた場合のみ、嘱託のパートタイマーとしてダンジョン攻略に関わることは可能です。冒険者機構に紐づいた資産は結審するまで凍結されます。もちろん、こちらもです」


 今後の人生においては、首輪付きならダンジョンで働けるが、準公務員でさえない、ただのアルバイトというわけだ。時給で働いて、拾ったアイテムは全て機構なり国のものだ。


「今月に入ってから全ての監視カメラの二十四時間録画が稼働しているはずだ。俺のタグを読んだら証人から話を聞いておいてくれ。自分はこれからダイブがある。時間が出来たら聴取に応じる用意があるので連絡を待つ」


 職員が端末を寅吉さんのドッグタグにかざす。


 ピピッ


「空挺(レンジャー)徽章(きしょう)付きのS級!? 失礼しました! あとはこちらで進めさせていただきます! お気をつけて行ってらっしゃいませ!」


 職員が端末で緊急事態を宣言して呼び出しを掛けると、どこにこんなにいたんだという数の職員が血相を変えて飛び込んで来て、正座している連中をしょっ引いて行った。代々木の受付はいつも眠そうに仕事をしているのだが、図らずもやる時はやるってことがわかった。


 寅吉さんは周りの野次馬たちをゆっくりと見た。


「諸君らの献身に感謝する」


 そう言って颯爽と敬礼して階段に向かって歩き出すと周りから拍手が起きた。なんだこれ?


 葵は今回何もしていないはずだが、ドヤりながらギャラリーに向かって手を振って歩いていた。ギャラリーから好感の視線を感じる。助かるけどね。


 階段を上がってくる冒険者が、俺たちを見てぎょっとした後、取り囲むように拍手をするギャラリーと、がっくりうなだれて連行される連中を見て何事かと震えていた。


 ダンジョンに入ると走って小部屋に飛び込む。


「いくわよ! ジャンプ!」


 俺が命じる前に園子が第八階層の別荘に跳んだ。気持ちはわかる。一度立て直す時間が必要だ。


「うん。園子、ここに跳んだのはナイス判断! まぁ、なんというか、疲れたね」


 ヘルメットを脱いで溜息ひとつ。


「ぎゃははは。あいつらアホやな! トラのおっちゃんに叱られてシュンなっとったで!」


 葵はたぶん『全権移譲決議』をわかってない。


「そうだな。これでもうあいつらとは二度と会うことはないだろう。俺たちに手を出したらどうなるかを世間に知らしめるいい機会だ。寅吉さん、思いっきりやっちゃってください」


「うん、そうだね。ここまで来たら君たちも表に出た方がああいう輩から身を守ることになると思うよ」


「香流、大丈夫か?」


「はい。なんともありませんよ。うふふっ。千里さんに守ってもらっちゃいました」


「あらあら、すっかり乙女になっちゃったわね。ここでゆっくりお茶を飲んでから向かっても遅いということはありませんからね。ちょっとお休みしてから行きましょう」


 葵にミルでの豆の挽き方を教えながらコーヒーを淹れた。その間、寅吉さんは離れたところで日本刀をゆっくりと振り、園子はスマホのスピーカーから小さく音楽を流しながらサマーベッドに寝転んで本を読んでいた。香流はコーヒーの淹れ方を葵にレクチャーする俺たちを楽しそうに眺めていた。


「香流、お湯を。あ、もう沸かしてくれてたのか。ありがとう」


「やっぱり香流ちゃんは出来る女やなぁ。ウチが男やったら惚れてまうわ」


「それはそうだな。香流には悪いけど、香流に惚れない男はいないだろうからな。ただな、香流が惚れる男だってそのうち出てくるだろ。どんなにモテたところで自分が惚れた相手に好かれなきゃなにも意味なんか無いように思うよな」


「おーおー、モテたことのあるモンの言いそうなことやなぁ。ほんでも、その通りやと思うけど」


「きみら三人は大丈夫だよ」


「おーん? ウチも?」


「もちろん。葵もだ。どんどんいい女になってるぞ。香流と園子に影響受けてるだろ? 磨きが掛かってるぞ」


「おー! それはそうやな! 香流ちゃんと園子ちゃんになればモテモテ間違いなしやもんな!」


「まぁ、そうではあるが、俺が言いたいのはな、香流になるのでもなく、園子になるのでもなく、良いと思えることを吸収しろよってことだから。葵は葵なんだから。この前、園子が俺に『変わらなくていい』って言ってくれてたろ? 俺も葵に同じ言葉を贈るよ。そのまま変わらずに変わり続けな。そうすれば『イイ女』が『すごくイイ女』になるから。そうしたら自然と、お前が惚れた相手がお前に惚れる相手になるよ」


「ふーん。なんや難しいような簡単なような話やけど、今やってんのってガッコウで習うことより簡単でオモロイし、なんも苦しゅうないし、こんなんでホンマにええんかって思うけど、兄やんがそう言うんやったらこのまま続けるわ。惚れてもらえるんやろ? その言葉には責任取ってもらうで! 男に二言はないやんな?」


「あははは。おう、いいぞ。葵に惚れないやつなんかいないからな! その代わり、香流と園子と取り合うなよ? 男も女も相手はひとりだからな! 取り合ったらこの話は根底が崩れる! わはははは」


「おおう。香流ちゃん、堪忍やで。正論ぶちかまされて墓穴掘ってもたわ」


「うふふふ。葵さん、気にしてはダメですよ。愛するというのは相手にどう思われるかではないでしょ? 自分の気持ちの問題なのだから。愛されないなら愛さないということではないと思うのよ。私が愛する時は相手のことは考えないわ。それでも、私のことを見ていただける時があればそれで充分、幸せだと思うわ」


「うーん、香流、気を付けろ? 愛することで幸せは確かに感じるだろう。だけど、その見返りとして少しでも見てもらえればいいというのはよくないぞ? それ、不倫とかに溺れている人の想いに重なるぞ。本気で愛した相手には自分が相手に想うのと同等の愛を求めた方がいいんじゃないかな?」


「それは理想ですわね。ん~、でも私も自分で言うのも変なのですが、だいぶ変わった育ち方をしてしまいました。もう今さら普通の殿方ではお相手として見ることができないのです」


 俺は心理学はまったくわからないからなぁ。自分に無い気持ちを持つ人にするべきアドバイスは難しいな。


「うん、俺は香流が良いと思うならそれを全力で応援するよ。ただね、それと同時に、悲しい想いをするようなことだったら嫌だなと思うんだ」


「ああ、それでしたら問題ございません。私が悲しい想いをするよう方々とは一緒にいる気はありませんから。今が充分理想と思えるほどには楽しいですよ?」


「そうか。だったらいいかな? 君らが幸せになってくれることが第一だと思っていたけど、それ以上に、不幸を感じない人生でいてくれることを願うよ。若い女性の所属する組織を率いる者として心底そう思うよ」


 社長、監督、ボス、リーダー。人の上に立つ恐怖を知る、だなぁ。



なろうは不定期で遅れて更新になっています。


最新話(今のところ毎日)更新はカクヨムになります

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