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最弱スキル【地図】が【こうしえん】になった!? - 高度戦術支援地図で最強クランに成り上がれ!  作者: 秋乃せつな


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第89話 異世界別荘

【パーティー名:Renegades(レネゲイズ)】

L:星名千里(ほしなせんり):SEN(Lv18)【高度戦術支援地図】Lv.3/5(Exp.1/5)

2:寅吉勝利(とらよしかつとし):タイガー(Lv.65)【剣術】Lv2 (Exp.0/10)

3:岩沙香流(いわさかなれ):クローザー(Lv22)【絶対領域】10/11/Day

4:西宮園子(にしのみやそのこ):マネージャー(Lv19)【瞬間移動(テレポート)】7/11/Day

5:川下葵(かわしたあおい):エース(Lv17)【範囲攻撃魔法:地獄炎(ゲヘナ)】10/11/Day

「よし、先に進もう。ん?」


「どないしたん?」


「ああ、今のボス討伐でレベルが上がったんだけど。タイガー、なにか違和感ありませんか?」


「ん? 私かい? いや、レベルは上がっていないと思うが」


「タイガーのスキルにレベル表示が出て来ました」


「え? スキルの話かい? レベル?」


「そうです。【剣術】レベル2と表示されています。で、現在は経験値ゼロです。おそらくレベル1から2に上がったということだと思います。レベルアップに伴って隠しパラメーターが出てきたように思います」


 寅吉さんは眉間にシワを寄せるとみんなから少し離れた。


 スっと腰を落とすと左手を鞘に添えて右手で柄(つか)を握る。


 空気が凍ったような緊張が疾(はし)る。


 チャキンンンン


 剣を抜き放って横薙(な)ぎ一閃(いっせん)、先ほどと寸分違(すんぶんたが)わぬ姿勢の寅吉さんがそこにいた。剣先はよく見えなかった。


「ぷぅ。少し待ってくれるかい」


 そう言うと今度はゆっくりと刀を抜いて、両手で正眼に構える。毎朝見ている寅吉さんのルーティンだ。毎朝見ているが、これが始まると全員が直立不動になり固唾(かたず)を飲んで見守る。例え背中を向けていても寅吉さんが正眼に構えた瞬間、なぜかそっちを向いてしまう。俺が感じているのではない。寅吉さんから放たれる何かに当てられているだけだ。


 ひゅん、ひゅん、ひゅぅぉん。


 素早く動いているようには見えないが、ハっとする時、その刃が迅雷の速さなことに気付かされる。


 ひゅひゅひゅぉん。きぃん。


 なんだ? いつもより速く、いつもと音も違うように思うのはダンジョンの階層が深いせいか? とりあえず寅吉さんに斬られたら、いつ斬られたかわからないまま真っ二つにされるってことはよくわかった。


「ふ、ふふ、ふっふっふっふ。そうか、これは僥倖(ぎょうこう)!」


 今はもう眉間のシワは無く、満面の笑みでこちらに向き直る。


「ああ、すまんすまん、とりあえず出ようか。次の人たちが来そうだ」


 地図を見ると、階段で追い越した冒険者パーティーが近付いて来ていた。


「よし、第二十一階層に急ごう」


 寅吉さんを先頭にボス部屋の奥の壁のパネル前に集合してドアを開けて中に入る。部屋の中には下りの階段が口を開けていた。


 後ろの扉が閉まったことを確認して階段を下りる。


 二十一階層に踏み出して宝箱を検索。このフロアには何もないことを確認。


「もう一階層進んでしまおう」


「跳べるわよ」


 この階層のポイントはもう用意していたようだ。


「よし、たのむ」


「レディ、ジャンプ」


 【瞬間移動】で階段近くに跳んで第二十二階層に下りたところで宝箱の有無を確認して今日の探索終了の判断を下す。


「宝箱はなし、と。【瞬間移動】は残り六回だな。今日はここ、二十二階で終了にしよう。ちょっと早いけど別荘に戻って休憩にしようか。みんなお疲れ様。マネージャー、頼む」


「跳ぶわよ。レディ、ジャンプ」


 ◇


 カンカンカン、カンカン


 第八階層の安地に直接【瞬間移動】で帰還。湖畔の少し離れたところから小佐原さんが槌(つち)を振るう音が聞こえる。


 寅吉さんに手伝ってもらって夜中にこそこそと搬入した簡易炉を使って何かを打っている小佐原(おさわら)さん。集中しているのか我々が戻ったことにも気付いていなさそうだ。


 清涼な空気。水底(みなぞこ)が見えるほど澄んだ泉。緑の葉が茂る木々。あとは小鳥の声が聞こえれば完璧だが、虫一匹さえ鳴いていない。


 女性陣がタープの下でお茶の準備をしている。昼食にはまだ早い時間だ。


 園子と香流(かなれ)が手際よく準備しつつ、葵が習いながら手伝っている。葵にとって、手本となる、本当にいい姉たちだ。眺めていると自然と頬が緩む。いかん、これではおじさんを飛び越えて好々爺(こうこうや)だ。


「兄やんはこれな!」


「おう」


 葵にコーヒーセットを渡される。ミルに豆をセットして手回しで豆を挽(ひ)く。


 カンカンカン ゴリゴリゴリ


 カンカンカン ゴリゴリゴリ


 時々聞こえる楽しそうな女の子たちの話し声。


「ふふふ。ここがダンジョンの中か。思わずアーマーを脱ぎそうになるよ」


「わかります。俺も同じことを思ってました。ここが地上のどこよりも素晴らしいリゾート地に思えます」


「いや、それは間違いないな。完全にプライベートな空間だからね。地上のどこにこれに匹敵する場所があるのか。できることなら娘を連れて来たいとさえ思ってしまう」


「そうですね。このシチュエーションですからね」


 そよ風と湧き水特有の波紋が漂う水面(みなも)に陽光が反射する。


 だが、どこか不自然だ。美しすぎる。


 カフェオレ用に細かく挽(ひ)いた豆をドリッパーにセットする。


「兄やん、お湯沸いたでー」


「じゃあ、頼むよ」


 葵がコーヒー用の、注ぎ口が長く細い専用のケトルで慎重にお湯を注ぐ。


「そうそう。最初はゆっくり。うん、上手になったなぁ」


 真剣な表情でお湯を注いでいて返事もしない。こだわりのあるバリスタのようなしぐさに寅吉さんの笑みが広がる。


「ふう。できた!」


 時間を掛けて落とし終えたらコーヒーをマグカップに注ぐ。


「いいね。美味しそうだ。それは誰用かな?」


「ん~、ってこのカップ兄やんのやんか」


「じゃあいただきまーす」


「ちょー待った!」


 そう言うとマグカップの中に牛乳を入れてイスにドカっと座るとゆっくりと飲み始めた。


「なぁに? 自分で淹れて自分で飲んでるの?」


 切り分けた手作りのアップルパイを持つ園子が、微笑(ほほえ)みながら葵を揶揄(からかう)う。


「んー? ちゃうねん! これはやなぁ。味見! ほい、兄やん、めっちゃ美味しいで」


 だいぶ飲みかけのカフェオレが目の前に置かれる。うん、美味しいものは美味しい。


「それで寅吉さん。さっきの【剣術】スキルの件はどうでしたか?」


 葵がみんなの分のコーヒーを注いでいる。


「葵くん、ありがとう。そう、それなんだがね、たしかに違っているよ。レベルアップで身体強化の強度が上がった時に感じるものとは別のものだ。今まで乗り越えることが困難に思えていた壁を軽く飛び越えたような感覚だ。もうここが限界でピークなんだと思っていたんだがね。あとはその技量を落とさないようにと研鑽(けんさん)は積んでいるつもりだったが、どこか諦(あきら)めてもいたんだ。ふっふっふっふ。なんとも、なんとも不可思議(ふかしぎ)な気分だよ。今なら誰にも負ける気がしないね」


 寅吉さんが誰かと比べて何か発言するなんていうのは本当に珍しい。見た目より随分と興奮しているのかもしれない。


 ということは、通常のスキルにも【こうしえん】は影響を及ぼすということだ。じゃあ、たとえば小佐原さんの場合はどうなるのだろう?


「ガッツのおっちゃーん。お茶淹れたでー」


 葵が小佐原さんに向かって声を掛けていた。小佐原さんが気が付いて手を振り返している。


「葵、あとで今日ゲットしたアイテムを小佐原さんに見てもらってくれ。って、もう園子に渡したんだったな」


 今日からは、確保したアイテムは基本的に全て小佐原さんに渡すことになった。加工するものはそのまま小佐原さんが持って帰り、手を加えないものは雅代に回す。雅代はそれをオークションに出すか、下取りに出すかを判断する。雅代とは、手数料や税、パーティー資金を引いた後の金額の五パーセントを報酬として支払うという内容で近日中にも契約を締結(ていけつ)する。


 雅代は今ごろ担当クランとパーティーに専属契約を取り付ける話に奔走中(ほんそうちゅう)だろう。その契約条項に、自分が『Renegades(レネゲイズ)』に所属することを許諾(きょだく)すること、それが認められない場合は担当替えになる旨(むね)も添えて通達するそうだ。つまり、『Renegades(レネゲイズ)』入りは既定(きてい)路線だ。


 それはそうなんだよな。『Renegades(レネゲイズ)』に加入すれば税制優遇などがえらいことになる。社会保険料その他もS級クラン待遇となって、日本でも最高峰の優遇措置を得られる。


「雅代の交渉、うまくいくといいな」


「ん? 雅代? あぁ、そうね」


「ずいぶんとあっさりだな」


「ん-、たぶん、雅代の方で声を掛ける相手を絞ると思うし」


「え? 担当全部に声を掛けるんじゃないのか?」


「昨日はウチだけじゃ足りないなんて話をしたんですけどね、正直、今のペースならウチだけでも問題ないと思うのよね。だから、雅代も有力クランから声を掛けて、収入と拘束時間なんかを考慮して、忙しくなりすぎないようにするんじゃないかしら。それに」


 園子が香流を見る。


「寅吉さんと香流のネームバリューで雅代に箔が付くわ」


 ん? どういう意味だ?


「寅吉さんの素性はもう隠しようがないわ。ネットにもね、もう出てるもの。もちろん、本名なんかは出ていないわよ? でも、攻略組の前線出身とか、タックネームなんかはそれとなく流出しているのよ」


 寅吉さんが苦笑いだ。


「まぁ、これはしょうがないね。逆にね、これぐらいの情報は表に出る方が余計な火の粉を回避できるんだよ。元陸自、元空挺にちょっかいを出すなら同じ肩書を持つ連中の全てを敵に回すことになるからね」


「なるほど。抑止力ですね。では、香流は?」


「それはSNSの方の話ね。ちょっと変な目立ち方しちゃったわね。もうすっかり有名人よ。隠密の効果も地上では本領を発揮しきれないし。でもまぁ、今のところ実害はないから手の打ちようもないわね」


「まあ、いつまでも、なにもかもを秘密にはできないさ。園子もなにか良い手を思いついたらアドバイス頼むよ」


「そうね、考えてみるわ」


 先手を打てるなら打つべきか。ただ、なにができるのかをよく考えなければならない。


 それよりもまずは『竜騎兵(ドラグーンズ)』の立神(たつがみ)さんに呼ばれているんだよなぁ。二十六階層で待ってるって言ってたけど、いったいなにが待っているのか。


「それじゃあみんな、明日は予定通り、一気に第二十六階層の安地を目指そう」

なろうは不定期で遅れて更新になっています。


最新話(今のところ毎日)更新はカクヨムになります

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