第85話 お金大好き
「はーい、ここに座ってください!」
強引に座らされると目の前に園子たちが座っていて、右に俺を引っ張ってきた咲耶ちゃん、左に掛井さんが座っていた。
「イエーイ! イケメンゲットー! 千さーん、おじさんのところにばっかりいたらおじさんになっちゃうっすよ!」
「いや、俺はもうとっくにおじさんだからそれは手遅れだよ?」
「いやいやいやいや! 千里さん! なんでそんなこと言うんですかぁー! 周りをよく見てください! 今この会場の中で独身男性は千里さんだけなんですよぉ! 独り身のかわいい女の子たちを放っておかないでくださいよー!」
掛井さんが変なことを言っている。
「そーですよー! 千さんまだまだ若いんだからー! はい、かんぱーい!」
両隣からコップを合わされて強引な乾杯。ふたりともだいぶ酔ってるな。とりあえずひと口だけコップに口をつける。目で向かいに座る園子たちに何事なのかと合図を送る。
「うーん。やっぱり引力なのよね」
「ほんでもこれはもう放っといても大丈夫なんちゃう?」
「そうかもしれませんが、やはり精神衛生上はよろしくありませんから」
悟りを開いた菩薩のような三人の生暖かい視線を感じる。
「はっ! いや、俺だけじゃないよ。小佐原さんも独身だよ?」
「うーん、あの人、籍こそ入ってないけど、嫁がいますからねー」
「いや、掛井さん、それは言葉の綾というやつで」
「あー! あー! あー! やっぱりー!」
掛井さんが俺を指差して抗議の声を上げる。
「え? なになに? なんですか?」
「千里さんってばわたしにだけ敬語で距離があるぅー! そういうのよくないと思いますぅ!」
「距離? いや、だって掛井さんは仕事先の方だし、普通では?」
「そういう普通はいらないんですぅ! そういうのは普通の人がやってりゃいいんですぅ!」
「俺はいたって普通のおじさんなのだが? 園子、これ、大丈夫なのか?」
「ん~、もう少し様子を見てみましょう」
なんのことだ?! なにか観察実験でもしているかのような口ぶりだぞ?!
「あー、千さん、それは雅代ちゃんがかわいそうっすよ。ここ、飲みの席っすからね?」
咲耶ちゃんからの指摘だ。なるほど、そう言われたらそうなのかもしれない。女性を不愉快にさせるのは紳士のやり方ではない。俺はおじさんではあるが無礼にも無神経にもなるつもりはない! 俺だってヒットさんのようなイケオジになりたい願望はあるのだ!
「なるほど。じゃあ、掛井さんがいいならそうさせてもらうよ。冒険者だしな。俺のことも好きに呼んでもらっていいからね」
「ホントですかぁ?! じゃあ、ちゃんでお願いしますぅ」
「ああ、はい。それで雅代ちゃん、園子から聞いたかな?」
「先輩のことは呼び捨てかぁ。うーん、それまた味がありますねぇ。どっちがいいかなぁ。園子先輩! 先輩はなんで呼び捨てにしてもらったんですかぁ?」
「えっ?! えーと、なんでだっけ?」
園子が俺に聞いてくる。
「え? なんでだ? 自然と? いや、最初の頃にその辺のことをパーティで話し合ったことがあったような?」
「うふふふ。もう切っ掛けも忘れるほど自然にそうなっていますね」
「くっ! さすが同棲してる強みね。手強いわ。千里さん、やっぱりわたしも呼び捨てで!」
「ちょっと待って欲しいっす! その前! 同棲? 今、同棲って言ったんすか?! 誰とっすか? 千里さんこの中の誰かと付き合ってんすか?!」
「いやいやいや! 俺、嫁も彼女もいないよ。今はもう葵の保護者みたいなもんだしな。すっかり未婚のお父さんだよな! わっはっはっは!」
「なんでやねん。もっぺんセーラー服着てベッド潜りに行ったろか」
「懐かしいなぁ。そんな夜もあったなぁ」
「ぶっふー!」
「きゃー! 雅代! なにしてんのよ!」
「いやいやいや! そんなご立派でセーラー服なんかズルすぎですよぉ! 若さと大きさのツインアピールは反則ですぅ! そんなのわたしでもガマンできませんよ!」
「雅代ちゃん、あとでウチ来たらエエやん。制服貸したんで。ちゃんと兄やんのクロゼットに入っとるから。前に園子ちゃんと香流ちゃんもそれ着て写真撮ったしな」
「葵ー! それは言ったらダメなヤツでしょー!」
「うふふふ。あの夜も激しくて素敵でしたわよね」
「おおう、鼻血が出そうだわ。そ、園子センパイ、そこまで攻めて。必死ですね」
「ち、ちがうわよ! ちょっと飲み過ぎただけよ!」
「雅代、それでちょっと相談があってさ」
「おおぅ、千里さんはなんでそんなに冷静なんですかぁ」
「ん? いや、君らみたいな若い女の子に囲まれておじさんは今、人生のピークを味わって大変幸せで緊張しまくりだよ? それでね、園子から聞いてるかもしれないんだけど、『Renegades』と専属契約を結ばないかっていう提案なんだけど」
「えーっ! まーじーでーっ!」
ガッシと左腕を抱き抱えられる。だいぶ酔っているのか顔が赤い。
「園子、これ、このまま話してもいいのかな」
「まぁ、明日になって忘れてたらまた話せばいいんじゃない?」
そんないい加減な。
「雅代、酔ってないか? 大丈夫?」
「酔ってるけどいいですぅ! 続きをくださいぃ!」
「あ、はい。えーと、うちの小佐原さんの作品をいろいろ面倒見てもらってる話を聞いて、オークションと獲得アイテムの査定なんかの管理をしてもらえばいいんじゃないかって。オークションとか得意なんでしょ?」
「はい! お金が大好きなので!」
「そ、そうなんだ。だったら大丈夫だよね。ほら、寅吉さんが機構を抜けるし、雅代が機構に所属したままウチと専属で仕事してくれたらお互いに良いことなんじゃないかって話になったんだ」
「せ、せんぱ~い。これでわたしにもお金が~」
「雅代ちゃん、めっちゃうらやましいっすね! これでもう『Renegades』じゃないっすか!」
うらやましいの? なんで?
「え? わたしも『Renegades』になれるんですか?!」
「そうだね。ただの委託じゃなくて、職員だってクラン所属になれるんだよね? 雅代が良ければそれでもいいよ。ただ、そうすると他のクランやパーティーの担当の方はどうなるのかな?」
「あー、さすがにウチに入るってことは問題ないけど、お金を扱う立場とかオークションを仕切る立場とかになると対外的に印象がよくないわね。雅代、ウチの仕事だけでどれだけの収入になるかまだ不透明だから、当面はウチには所属せず専属契約だけにして他のクランとかパーティーにも専属契約を持ちかけてキープしておきなさい。専属を断られたらもうそこは切って他の子に回していいわ。それと、ウチにはもう香流という優秀な経理がいるのよ。あなたもお金に関して優秀なのはわかってるわ。けど、香流には勝てないから。いじわるで言ってるんじゃないの。もう、本当に純粋な才能の問題ね。うちみたいな小規模なクランだと経理をふたりも雇うわけにはいかないわ。というか香流には無償で経理やってもらっちゃってて申し訳ないんだけど」
「私には負担じゃないので大丈夫ですよ?」
「めっちゃ凄そうっすね。だったらわたしの経理もやって欲しいぐらいっす。というか『竜騎兵』の帳簿も見て欲しいっす」
「え? なんで?」
「『竜騎兵』の経理もあたしがやってるんすけどね。もー、大変でー! あの人たち暴れて酒飲む能力に特化した冒険者だから」
此花ちゃんと小佐原さんも混じってぐちゃぐちゃになりつつある一角を見て投げやりに呟いた。しかし、またどえらい付与が掛かった冒険者たちだな。いや、もはや呪いか?
「そうなんだね。まぁ、さすがにウチでそこまで他のクランの内情を知るのはマズいから無理だろうけどね」
確定申告がほとんど必要のないのが冒険者だ。各種社会保障は冒険者ランクに応じて支払うようになっているから難しい計算は必要ない。なのに、いざ春先から納税が始まるとお金がないと騒ぐのが冒険者だ。そしてそのお金のためにダンジョンに潜る。酷いな。
「ウチはその点も香流に頼り切ってしまってるな。お陰でそういった苦労は感じずに済んでてありがたいよ」
「あら、でもそれは千里さん始めみなさんの生活がきちんとしているからですよ」
「生活! そうっすよ! 結局、千里さん、誰と同棲してるんすか! はっ?! まさかお財布のヒモを握ってる香流さんとか?!」
「いや、同棲っていうか女性メンバー三人と俺の四人で同居? 冒険者マンションでシェアハウスっていうのか?」
「おお~、すごいっす! 映画かドラマみたいっすね! どこのマンションなんすか? ウチは代々木公園っす!」
「あー、代々木公園の冒険者マンションは結局、内見に行かなかったんだよね。ウチはすぐそこだよ」
「おー! 新しいのによく入れたっすね~。あっ、寅吉さんかー」
「せやねん! トラのおっちゃんのお陰でめっちゃええ眺めんとこやで」
「園子せんぱ~い、今夜泊めてください~ わたし、明日休みなんで~ 夜景見せて~」
「あー、もうこうなったらしょうがないわね。今夜だけですからね?」
「それでは、同業ですし経理のお話もありますから咲耶さんも今夜いかがですか?」
「香流さーん! いいんすかー! やったー!」
俺は空気になって気配を消すしかなかった。
なろうは不定期で遅れて更新になっています。
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