第82話 レベル3
残念ながら小説家になろうと本作は相性があまりよくなかったようです。
本作は次回よりカクヨムより遅れての投稿になります。
恐れ入りますが続きを早めにチェックされたいという場合はカクヨムにてお願い致します。
跳んだ先の隠し部屋は二十メートル四方の完全な密室だった。幸いにも光源がある。後ろ姿のオーガが目の前にいる。赤い肌で赤銅色の長い髪がうねっている。ボロ布を纏って、ほとんど裸に近い。裸に近いからその筋肉が異様に発達していることがよくわかる。純粋な力比べで人類が勝てる気がまったくしない。
手には赤錆びて切れ味の悪そうなデカい曲刀を持っている。刃の厚みを見ると絶対に途中で折れそうもない蛮刀で、迫力がすごい。
あの化け物じみた筋肉が生み出す膂力で叩き斬られたら生物はぐちゃぐちゃの肉塊にされてしまうだろう。
その化け物の足元に火がつく。そしてしゃぼんの絶対防壁に包まれる。
オーガは俺たちに気付くこともなく、のたうち回りながらあっさり燃え落ちて消失した。
強化された園子の【範囲攻撃魔法:地獄炎】の天井がまだまだ見えない。
「こんなんやったら園子ちゃんが後ろからひと突きでも良かったんちゃうか」
「うん、まあな。香流、オフで」
「うお! 手甲が落ちてござる!」
魔石とアイテムを葵たちに任せて宝箱に近付く。
「罠もナシか」
それを聞いていた園子が呆れたようにポツリと呟く。
「誰でもできる簡単なお仕事。じゃないハズなのよね、本当は」
園子に振り返り肩をすくめてから宝箱を開けてゴツい刀剣を取り出す。
赤黒い紋様の入った禍々しい握り手は、なぜか手に吸い付くようで持ちやすい。見た目通りずっしりとした重さを感じる。鋭い刃先で斬るのではなく、その重さで断つイメージだろうか。
「これが鬼斬刀か。重いな。こんなの身体強化が強くないと振り回せないよなぁ」
葵から魔石を受けとって、代わりに【斬鬼刀】を渡してみる。
「あかんて! こんなん持たれへんて!」
葵だと持つのも嫌がるほどか。小佐原さんから手甲を受け取る。小佐原さんは重い、重いと言ってる葵から【斬鬼刀】を受け取った。
「ちょっと失礼するでござる」
そう言って離れると両手持ちの上段の構えから素振りを始めた。空を斬る度にブォンという風鳴りがする。
「ぷぅ。うん、ぜんぜんダメでござった! 筋力が足りないし拙者には適性も無いでござる」
けっこう振れていたように見えたけど、本人的には実戦で使えるようなものではなかったっぽい。
香流が歩み寄ると小佐原さんが【斬鬼刀】を捧げるように渡した。まだ香流との距離感が掴めないらしい。
香流は最初、両手で【斬鬼刀】を持ち上げた。刀身を真っ直ぐに立てて頭上に掲げると、クルクルと回りながら振り始める。
ヒュン、ヒュン、と小気味良い音が聞こえる。まるで軽い棒を振るような音だ。目前で繰り広げられる巨大な刃を振り回す映像とまるで合ってない効果音のようだ。
すぐに両手持ちから片手持ちになって、それでも軽快な音は変わらず、横に八の字を描くように刀身の軌道が揺らいでいる。
演舞は唐突に終わった。気が付いたら香流が片手を突き出すようにして刀身を天に向けて持っていた。
「美しくありませんね」
香流の感想はこのひと言だけだった。気に入らなかったみたいだ。
園子を見たら静かに首を横に振った。手にする気にもならないらしい。この場の全員にフラれたかわいそうなネームドウェポン。
香流から【斬鬼刀】を受け取ってマジックバッグに入るか試したらすんなり入ってくれてホッとした。
「寅吉さんにも必要かどうか一応聞いてみるかな。うーん、これ、まだ今日の一階層目なんだよな。まぁ、気を取り直して行こう! 第十四階層を目指そう」
第十四階層に降りる階段の近くをポイントしようとして【地図】を見る。
「うおっ!?」「きゃっ!」
「兄やん、園子ちゃん! どないした!」
今のオーガは隠し部屋にいる隠れボスだった。ボス討伐でユニークスキルに経験値が入ったことにより『高度戦術支援地図』がレベル3になっていた。
「【地図】が全フロア同時表示になった!」
「うわ! ホンマや!」
全フロアの地図を順番に並べることも出来るし、ミルフィーユ上に重ねることもできる。そして任意のフロアを選んでズームすることも、複数枚の地図を並べて置くのも自由自在だ。
「これはすごいわね。わたしたちも自分で好きな地図を選んでズームできるわ。これで常に第一階層の出口近辺とか別荘にジャンプポイントを設定しておけるわよ」
「私たちができるのは地図の選択とピックアップとズームだけみたいですね。表示内容は千さんに設定していただくしかなさそうです」
「これ、ヤバくないか? 常に全フロアにランダムエンカウントの宝箱の出現アラートが設定できるぞ」
「え? ほんなら誰よりも早ぉに宝箱取り放題になんの?」
「そういうことだな」
全員が戦慄していた。ここまでやってしまっていいのだろうか? そんな思いが去来する。
「とにかくまずはここから移動しよう」
「行けるわよ」
レスポンスが早い。園子が先にジャンプポイントを設定していたらしい。
「レディ、ジャンプ」
瞬きの間に階段近くに移動完了。
「うん、いい場所だ。下まで一気に行こう、ゴーゴー」
園子のスキル使用回数の残りから今日は第十四階層に降り立ったところで探索終了とした。
「このフロアは特に何もないな。今日はここまでにして別荘に跳ぼう。園子」
「いつでも。いくわよ? レディ、ジャンプ」
安地に着いてタープの下のテーブルセットでお茶をして落ち着くことにした。清涼な水と涼やかな風に癒される。
「なぁなぁ、兄やん。ここって泳げるんかな?」
「うーん、たぶん大丈夫だとは思うんだけどな。保証ができん。でっかいプール買ってやろうか? 水はあるからな。いくらでも遊べるぞ。ただ、泳ぐにはちょっと涼し過ぎるかもな」
「あー、せやなぁ。兄やん、残念やったな! 美人の水着見損ねたな!」
「いや、マンションのプールで毎日のように一緒に泳いでるだろ」
「ブッブー。そら間違ぉてますー。遊びの時の水着はやな、布っきれの面積が小っさなんねん!」
「あー! そうか! それは失念していた! くっそ!」
「ぎゃはははは」
「またなにか馬鹿なこと言ってるわね」
「うふふふ。でも今年の夏はみなさんでバカンスに行けそうじゃないですか?」
そうだ。香流の言う通りだ! 俺たち、金持ってる自由業なんだった!
「沖縄に行くわよ!」
「園子ちゃんめっちゃノリノリやん」
「え?! そ、そんなことないしそんなことより【こうしえん】すごいことになったわよね!」
「ああ、そうだな。今こうしてる時もすべてのフロアで警戒出来ているからな。園子、あまり慌てて跳ばないようにな。近くにモンスターや冒険者がいる可能性がある。地図には基本的に俺たち、モンスター、冒険者、宝箱は常時表示させておく。仮に宝箱を逃しても、チャンスはこの先に何度でもやってくる。踏破、いや、新しい階層を踏むだけでいい。階層が増える度に宝箱ゲットの確率が上がるんだ」
「ふぅ。まだ実際に回っていないからわからないでござるが、いったいこの先どうなるんでしょうなぁ」
「ガッツのおっちゃーん、そんなん決まってんでー。めっちゃ楽しなんねん!」
「ははは。違いありませんな! わっはっは!」
まぁ、アラートが鳴っても慌てることはないと肝に銘じよう。
「ところで小佐原さん、これなんですけど」
合成のベースになりそうだと取っておいた魔鉄の大剣を取り出して見せる。
「おお! これはいいですな~。大型の武器はなかなか確率的に出にくいですからな! これは合成のしがいがありますなぁ!」
「これ、ブランド作品の目玉になりそうね。小出しのオークションで名前を上げて、満を持して出品という流れね」
「だったら合成用に今日のオーガの魔石は小佐原さんに預けてしまっていいかな」
「今日の報酬は【斬鬼刀】だけで充分過ぎますわね」
「あと、この手甲って普通じゃないよね?」
リュックに入れていた手甲を取り出す。黒地にくすんだ赤が刺し色で入った迫力のある手甲だ。
「これ、オーガの固有ドロップの手甲だわ。【鬼手甲】ね。魔鉄鋼だからとても高価だけど、近接戦闘向け装備ね」
園子が右手の手甲を外して【鬼手甲】を装着する。
「ん? 目の錯覚かな?」
「いま、なんか縮んだやんな?」
「これ、装着する人のサイズに合うように変形するでござるよ。ネームドの防御装備は大抵こうなってますな。たまに相性が良くない人もいて、その場合は変形しないでござるが」
小佐原さんが左手に装着、できなかった。
「おおう?! フラれたでござる! 無念っ!」
カシュ!
園子が右手を繰り出すと手の甲の部分から真っ黒い幅広の刃のようなものが突き出た。拳を引くと刃が引き込まれた。
「園子ちゃんなんやそれ! めっちゃかっこエエやん!」
「魔鉄鋼製ですからね、防御力もすごく高いわよ。見た目ゴツいのにとても軽いし。近接戦用にこんなギミックもあるのよね。寅吉さんにいいんじゃない?」
「そうだな。これも本人に聞いてみよう。ちなみに香流はどうする?」
静かに横に首を振っていた。うん、美しくないんだよね。
「じゃあこれもとりあえず一度、鑑定に出そう。それから寅吉さんに【斬鬼刀】と一緒に確認だな」
「じゃあ、今日はこれからギルドに行って【斬鬼刀】の確認と手甲の鑑定ね。その後、ランチに行ってから明日の準備ね」
さて、喜んでもらえるだろうか?
【パーティー名:Renegades】
L:星名千里:SEN(Lv16)【高度戦術支援地図】Lv.2→3/5(Exp.0/5)
2:岩沙香流:クローザー(Lv20)【絶対領域】9/10/Day
3:西宮園子:マネージャー(Lv17)【瞬間移動】4/10/Day
4:川下葵:エース(Lv15)【範囲攻撃魔法:地獄炎】9/10/Day
5:小佐原道夫:ガッツ(Lv38)【合成(強)】




