第81話 Named
寅吉さんは今日が冒険者支援機構、代々木公園前支部に最後の出社日となる。夜は機構の送別会があるそうなので、クランのお疲れ様会は明日やることになっている。奥さんの真由美さんとも相談していろいろ企画中。
代々木第一ダンジョン、第八階層の安地で行う日課の朝練では、園子と香流が模擬戦に勤しむ姿をよく見る。街の若い娘さんならジムかスイミングあたりで絞るんだろうが、俺たちは冒険者だ。ちょっと物騒な気もするけどこれでいい。
「ああ! もうっ!」
園子が闘争心剥き出しで悔しがっている。香流に敵うわけがないのに、負けて毎回本気で悔しがる。至らない自分を叱咤し、思い通りに動かない身体をもどかしく思う気持ちの表れだ。園子らしくてとても良い。
彼女は決して直情型ではない。他人に対して苛立ちをぶつけるタイプではない。向上心が強い。本人は嫌だろうが、彼女がくやしがる姿を見るのはとても元気とやる気がもらえる。あそこまで本気で自分に厳しい人を見ると、自分も頑張らなければと思える。彼女もまた『Renegades』には欠かせないムードメーカーのひとりだ。
「園子、今度は俺と頼む」
「いいわよ! 負けて泣いても知らないわよ!」
とてもいい笑顔で急所を突いてくる園子が可愛いと思える俺はどこかおかしいのだろうか? いや、冒険者なら普通のことだろう。こんな女性が彼女だったとして、一緒にダンジョンダイブが出来たら最高だろうな。
ドガッ!
「痛てっ!」
回し蹴りが思いっきり胸の真ん中に入ってぶっ飛ばされた!
「あはは。もうっ、組手の最中に気を抜いちゃダメよ」
男に回し蹴りをぶち込んで爽やかに笑う園子が、それでもやっぱり可愛いと思う俺も冒険者なのだろう。
「いいわね。咲耶のおかげで遠慮なくぶち込めるものね!」
『竜騎兵』の薬師の咲耶ちゃんに低級にもならないポーションを安く大量に売ってもらった。打ち身や切り傷、打撲ぐらいはすぐに治る。これを手に入れてから模擬戦が楽しくなってみんなの技量向上が止まらない。良いことだ。
「兄やん! 次はウチとヤろや!」
この安地のことは、今では別荘と呼んでいて、だいぶ施設も充実してきた。魔石を燃料とする電源を利用して給湯シャワーとトイレも設置。水は池の水が生物の何も棲まない純水だからそのまま利用可能。飲むこともできそうだが、それはさすがに試していない。シャワーを浴びても今のところ体調に変化はないのでこのまま使い続けて大丈夫そうだ。
排水方法は安地の『竜騎兵』で聞いてきた。なんと、安地外に垂れ流して捨てればいいだけだった! 溜めたものを捨てに行ってもいいし、水があるなら流してしまえばいいそうだ。安地外では生物由来のものは瞬時に消失、物質も放っておけばいずれ消えてなくなる。ウチの別荘は湧き水による池があって水が豊富だ。電動ポンプでタンクに池の水を引き込んで、ただ排水パイプを安地外まで引いて流すだけでトイレもシャワールームもシンクも設置することができた。大型のテントも設置して、中には冷蔵庫や電子レンジも完備。ガスコンロもあるし、もうここに住める勢いだ。
第八階層の草原フィールドには太陽が存在する。夜は恐ろしい。とてもフィールドを歩けたものではないし、野営も無理だ。今度試しに安地で夜を明かせるか実験する予定。一応、二十四時間録画しっ放しでチェックもしているが、夜に侵入者があったことはない。
朝練を終えて寅吉さんを送りに第一階層に跳んでホールで別れると待っていた小佐原さんを連れて小部屋まで歩く。
「安地の前に今日も少しずつ下層に行こう」
まずは第十二階層を表示。宝箱が無いことを確認したら下り階段近辺のジャンプポイントをマーク。
「いつでも」
すかさず園子から応答。
『さん、にー、いち、ジャンプ』
全周警戒態勢。
『やりたかったらクローザーも前衛に立っていいよ。その場合は、左翼をシールドを持つクローザーが、右翼をガッツで。移動の時の基本はガッツが先頭、次にクローザー、マネージャー、エースの順番で。前衛、中衛は道幅がある時は並列でもいいよ。そのあたりは各チームで臨機応変にやりやすいようにしてくれていい。では、階段はすぐそこなのでゴーゴー」
階段は簡易的な安地だ。モンスターは侵入して来ない。ただし、ダンジョンのルールのみが適用されて地上のルールは適用されない。火はほぼ使えず、電波も通らない。安地には変わらないので、飲食や睡眠休憩に使うパーティーもいる。モンスターには襲われないが、人はよく通る。
一気に階段を駆け下りて外の様子を伺う。
「何もいなさそうでござる」
葵と園子を階段安地に残して三人で第十三階層に踏み出す。園子が振り向いて背後の階段を見張る。
そして全員の口元が緩む。
『久しぶりの隠し部屋発見だな。エース、マネージャー、出てもいいぞ』
園子は後ろの階段を見張ったままだ。いい動きだ。各人が隠し部屋に気を取られ過ぎることなく決められた役割をこなしている。
『罠なし、ボスモンスターありか。ボスは単騎のオーガ。ちょっと会議がしたいからそこの小部屋に入ろう。ガッツ、先導よろしく、ゴーゴー』
近場の広くなった場所まで進むと防御隊形で会議だ。ダンジョンマニアの園子を中心に作戦会議開始。
「オーガは本来、代々木第一ではもっと下層の第二十階層のボスからの出現よ。オーガはオークの上位モンスターで成人男性並みの身長、というかタイガーをもっと大きくした感じかしらね。近接攻撃特化で武器も使いこなすとんでもない化け物よ」
「二十階層のボスオーガはレベル三十だよな。ここの隠しボスのオーガはレベル二十だ。単騎の物理攻撃特化のモンスターってことは俺たちにとって好都合というか、脅威では無さそうだ」
「うむ。そうでござるな。なんなら拙者単独での討伐もぜんぜん余裕でござる」
「ボーナスステージみたいな感じかな。宝箱の中は、えーと【斬鬼刀】だってさ。デカい刀だよね?」
「うっほ?! ででででーもんすれいやぁ~ですとお!?」
「お? ガッツさん、わかりますか?」
「マネージャー殿!」
「ええ、もちろんわかるわよ! 有名なネームドウェポンですもの! まさに、対オーガ用みたいな武器よ。ここでオーガを倒して【斬鬼刀】を手に入れて階下のオーガやトロールをヤれって言われてるみたいだわ。それが隠し部屋にあるっていうのがちょっと意地悪よね。売るなら絶対にオークションに出すべきだし、いくらになるかしらね? オーク狩り、トロール狩りの実戦用からコレクターまで日本中で欲しがる人がいるわよ? 魔鉄じゃなく、魔鉄鋼製ですからね、二、三千万円にはなるんじゃないかしら?」
「うひゃー! それがガッツのおっちゃんひとりでも勝てるようなんが守ってんのん? めっちゃラッキーやん!」
「そうだな。で、それって売るより俺たちで使った方がいいとかってこともあるのかな」
「うーん、確かに人型のモンスターに対して強烈なバフが掛かってるんだけど、ウチは同じモンスターを周回しながら倒して稼ぐスタイルではないから微妙よね。ガッツに魔鉄鋼と魔石で合成して作ってもらったワンオフの武器の方が汎用性が高くて使いやすいものにしてくれるし、そうなると余計に使いどころが限られる付与しか付いてない【斬鬼刀】を装備する理由はないのよね。ねえ、【斬鬼刀】に合成して何かいいものが作れたりするの?」
「うーん、そうですなぁ。合成自体は可能なんですけど、そこまで伸びないというか。ネームドは大概、天然由来のバフが強すぎて、追加の付与の乗りが悪いでござる。投資する魔石に見合った性能アップが厳しいとなると金を掛けても割り増しにはならないでござるなぁ。本気で愛刀にするなら自分好みに速度アップとか軽量化で少しでも使い勝手を良くするのもアリといえばアリです」
「なるほど、だったらこれを買った人が自分で好きなようにモディファイしてもらった方がいいよね。うーん、ガッツ製作の『Renegades』ブランドの方ってどうなってるんだっけ?」
「ガッツが良い仕事を続けてくれてるから評判は上々よ。ちょっと前からウチがネットで話題になっちゃってるのもあるんだけど、代々木公園ギルドに『Renegades』のナイフがあるっていうのがネットで広まって、毎日それを見せろっていう人が集まって凄いって雅代が言ってたわ。あまりにもうるさいから預けた作品は今、七階に飾ってあるんですって」
冒険者支援機構、代々木公園前支部の七階はA級以上のライセンスがある冒険者かパーティーじゃないと入ることができない上級者向け販売フロアだ。
お金の無い若手冒険者でも買えるようにって思ったけど渋くて実用性もある方向に振ったのが功を奏したのか?
「そうか。やっぱりネットの影響力はすごいな」
「で、さっき追加の作品を納品したのよね?」
「そうでござる。ここに来る前に雅代殿に渡してきたでござる」
「昨日、大剣と弓を拾ったからそれも合成後に追加ね。ちょっとラインナップが武器に偏ってるけどまぁ、最初は派手でいいかもね。雅代、なにか言ってた?」
「全部いっぺんに表に出すと購入希望者が分散してもったいないと言ってたでござる。今はナイフが盛り上がっているので、まずはこれだけでスタートして、落札直後に第二弾としてシミターあたりを出すとか、小刻みに出品して値段を吊り上げるとか言ってましたなぁ。値段が上がるのがわかりきってるから委託販売じゃなく全部オークションでいいって言ってたでござる」
「いいわね。【斬鬼刀】もオークションで落札したら希望者は素材を持ち込んでくれたら『Renegades』ブランドとして技術料だけもらって合成することも出来るとかでもいいわね。ま、いずれにせよウチの販売は雅代に任せても良さそうね。ねえ、千、あの娘も冒険者機構とは契約なのよ。で、本人はダンジョンに潜って暴れるようなことには興味が無いのよね」
「ほう、なるほどね。オークションなんかの管理は彼女に丸っと委託してはどうかって話だな? タイガーが中の人じゃなくなるからな。彼女がそのまま機構に在籍したままでいろいろやってくれるなら好都合だな。俺からもお願いしたいぐらいだね」
「千がそう言ってくれるなら彼女をシフト勤務から外して、専属担当にしてしまえると思うの。他の担当パーティーとも連携取ってもらって、週休二日の十時~十八時勤務とか、思い切って仕事のある時だけ出社とかね」
「うん、彼女が働きやすいようにしてもらっていいと思う。俺たちはまぁ、毎日のように潜り続けるやり方はしていないから時間の融通は利くしな。よし、近々話し合いの場を設けよう」
園子がホっとした様子だった。可愛い後輩に少しでも楽をさせてやれそうで安心したみたいだ。掛井さんには今までの働きぶりや言動に接して、人となり含めて好印象しかないし、『Renegades』のためにちゃんとやってくれそうな人が機構にいるのは心強い限りだ。
「さて、話が脱線してしまったな。隠し部屋だが、【瞬間移動】で入れそうなんだよな。もし暗かったらすぐに出ればいいし、直接殴り込んでみないか?」
「うふふふ。いいですわね。たまには乱暴なのも刺激的ですわ」
「ウチはいつでも過激なんイケるで!」
うーむ、先日の話の刺激が強すぎたのだろうか? なんかやたらとそういう方向の発言が増えてきている気がする。小佐原さんがオロオロしているぞ。まぁ、こういう時は男はどっしりと受け止めてやらないと言った本人が恥ずかしくなって委縮してしまうからな。大人のおじさんリーダーに任せろ!
「男も女もたまにはそういう気分にもなるよな。みんなはまだ若いんだし、もっと我を出してくれていいぞ。それを受け止めるのが年長者の役割だからな!」
「あら、受け止めていただけるのですね? それは良いことを聞かせていただきました。ですってよ、みさなん」
「ふふ。いいわね。燃えてきたわ」
「おーおー、十代の女ナメたら火傷じゃすまへんでー!」
なんか今日はそういう日なのかな? 女性たちがグイグイ来るな。小佐原さんは若干、青くなっている。
「はっはっは、伊達に歳は食ってないぞ?」
「そうよね、修羅場をくぐり抜けた男ですものね。多少、荒れたところでなんとかしてくれるわよね?」
園子がチロっと唇を舐めている。だんだんなんの話かわからなくなってきた。今からやるボス部屋攻略の話だよなこれ?
「う、うん。じゃあ、園子頼むぞ! ボス攻略隊形」
三人の前にしゃがむ俺の後頭部に視線が集中している気がするのは気のせいか?
「いくぞ! さん、にー、いち、ジャンプ!」
どうも小説家になろうではブックマークも応援も反応が薄いですね。
現在ブックマーク15人ですw
やはり異世界転生モノじゃないとダメなのでしょうか?
PVはそれなりなので、相変わらずなろうはログインせずに読んでるROM専が多そうです。
なろうってこんな感じだからドカンと人気出ない場合はみんな書くのやめちゃうんですよね。
読者反応無いなら連載する意味はないので手仕舞いかなぁ。
でもなろうはスマホからのアクセスが多いのが良い傾向…なんですよね
などと思ったり。




