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最弱スキル【地図】が【こうしえん】になった!? - 高度戦術支援地図で最強クランに成り上がれ!  作者: 秋乃せつな


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第72話 命知らず

「右は俺たちでやるぞ! 葵! 【地獄炎(ゲヘナ)】は使うな! 園子! 誰かが危なくなったら奴らを無視して俺たちだけで跳べ! 命令だ!」


「はい!」


 タックネームどころじゃなくなった。香流が盾を葵に渡すと身体能力を解放して音も無く加速する! 白いマントを(なび)かせ、あり得ないほどの前傾姿勢だ。鎖から解き放たれた白い狼が現れた。


「どぉおおおけえええええいいっ!」


 若い素人パーティーが寅吉さんの怒声にビクりとして身体を硬直させた。


「なんでこんな初心者がこんな下層に!」


 冒険者一ヶ月ほどの自分のことを棚に上げたくなるほど目の前の若者たちは明らかにレベルも経験も足りていなかった。なんでボス扉前にいるんだ?!


「うおおおおおおおっ!」


 左の通路から獰猛な獣の咆哮が聞こえる。だがそれは狼ではなく寅の咆哮だった。再び若いパーティーが身体をビクリと震わせる。寅吉さんの【咆哮】と【挑発】だ。レベルの上昇と繰り返しの過酷な戦闘で身に着けた『特殊技能(アーツ)』だ。


技術(スキル)』がひとりひとつ無条件で与えられるのに対して『特殊技能(アーツ)』はダンジョン内で繰り返すことにより身に着けることができる本物の技だ。


 俺たちが朝練をダンジョン内で始めたのも将来的にこれの発生を期待してのことだ。


「お前らどこのクランだ! 命が惜しかったらこのモンスターを俺たち『Renegades(レネゲイズ)』が引き受けることに今すぐ同意しろ!」


「どど、同意します! 俺らは『Titans(タイタンズ)』所属のパーティーです! た、助けてください!」


 よし、俺はまだ冷静だ。ダンジョン内で自分を襲ってきたモンスターを他人になすりつける『トレイン』と、他人が戦う敵を倒して経験値やアイテムを奪う『横取り』行為は敵対行為とみなされる禁忌だ。あとで揉めないようにしっかり言質は取ったし録画もしている。これはリーダーの仕事だ。


(あおい)、園子、後方待機。抜けたヤツにだけ対処してくれ』 


エース:りょ

マネージャー:了解


 香流がひとりで突っ込んでいった。俺は葵と園子を追い抜きざま速度を上げて角を右に曲がる。腰の忍者刀に手を当てて前方を注視。香流が左の壁を駆け上がりながら槍を突き出し左端のグラスウルフの右肩口から背中を大きく切り裂いていた。


 俺は右端の一匹を狙って速度を上げる。上半身を起こし気味にしてグラスウルフを誘うとその動きをあざ笑うように五メートルの距離を爪と牙を剥いて飛び掛かって来た。


 気配を消しつつ先ほどの香流をイメージして全能力を駆使して限りなく前傾姿勢になって爪と牙の下を潜り抜ける。グラスウルフが左上を通過するのを感じながら左手に持ち替えた(やいば)を上向きに突き出すと黒い刀身が肉を切り裂いていく感覚があったのでさらに上へと突き上げる。


 グラスウルフをくぐり抜けたと感じた瞬間にジャンプして壁を蹴りながら反時計回りに回転して着地と同時に追撃に備える。


 右の視界の端で白い狼が斬り返して走り出すのが見えた。俺の斬ったはずのウルフからの反撃が無いので俺もみんなの元へ向かって再び全力で戻る。


 俺の斬ったグラスウルフが(はらわた)と濁流のように吹き出す血を撒き散らしながら倒れて消えた。香流の斬ったグラスウルフは既に消えていた。


 葵が盾を構えた瞬間、生き残ったグラスウルフが青白い炎に包まれる! パニックになったグラスウルフが身を(よじ)って炎を消そうとする。あっという間に燃え広がると思われた炎が一瞬で収束して消える。身を捩っていたグラスウルフが我に返って葵目掛けて襲い掛かる! 俺の視界には白刃が横切ったようにしか見えなかったが、それはグラスウルフの後ろの両脚を切断していた。


 その長い長い槍が斬り返すと、信じられないものを見るように振り返ろうとしたグラスウルフの首を()ね飛ばした。


 香流の手元へと戻る神槍を横目に若いパーティーの横を通り過ぎて四匹のグラスウルフに突っ込んで行った寅吉さんの元へと駆ける!


 このまま突っ込んで一匹ぐらいは斬ってやる!


 だが、そこで見たのは最後の一匹を斬り捨てて反転攻勢に駆け付けようと身構えた寅吉さんの姿だった。


 慌ててブレーキを掛けて急停止。


「お怪我は」


「大丈夫だ。そちらは?」


『怪我の申告を』


エース:なんもなし!

マネージャー:ナシ

クローザー:ありません


『全員の無傷を確認。敵の殲滅も確認。引き続き周囲を警戒しつつ魔石を回収する。そちら、三人で回収よろしく』


【こうしえん】を元にアイテム回収を進める。寅吉さんが見張りをしている間に魔石四個を回収。急いで三人の(そば)に駆け付ける。


「よし、全員無事だな。引き続きリポップに警戒。お? エース、なに持ってんの?」


「なんかこんなん落ちとったんよ」


 葵の小さな手には収まりきらないほど大きな牙だ。


「それ、ウチのものじゃないのかしら?」


 今ごろノコノコ出てきて何をふざけたことを言っているのか。葵から牙を受け取ると見えないようにマントの中のマジックバッグに魔石と共に収納してから振り返る。


 地下ダンジョンなのに顔の半分が隠れそうなハイブランドのバカでかいサングラスを掛けた偉そうな女が眉根を寄せてこちらを睨んでいる。


 周りには女を守るように五人の屈強な冒険者が睨みを利かせている。


「あんたたちに言ってるのよ。それはウチのものでしょ。今すぐ渡すなら悪いようにはしないわよ」


 その、相手の都合などまったく意に介さない傲慢(ごうまん)な物言いに胸の奥がチクりと痛むのを感じる。


 地図でこいつらが隠れてこっちを覗き見ていたのはわかっていた。俺たちがグラスウルフを殲滅(せんめつ)してからノコノコ出てきたのだ。


 寅吉さんが俺の少し前に立つ。物凄い殺気だ。相手がその場から一歩も動けなくなるのがわかる。


 こちらの女性たちは俺の後ろにいるが警戒マックスで臨戦体制に入った。


『こいつらこの若いパーティーと同じクランだと思う』


 警戒全開、殺気全開で何も言わず相手を見据える。こういう輩に対する心構えはもう全員が出来ている。一歩も引く気はないし、葵だっていざとなればスキルを使うことの覚悟はあるはずだ。園子は【瞬間移動】の準備完了を知らせて来た。


「アイテムを渡す? 何を根拠にそんなことを言うんだ。そもそもおたくたちには関係がないだろう」


 女は薄暗いダンジョン内でバイザーが透明になっている俺の顔を覗き込むように見ている。


「は? あんた、千里じゃないの?」


 さっき美容院に行ってきたばっかりですと言わんばかりのヘアスタイルが崩れるのを嫌がって、迷宮内なのにヘルメットも被っていない。恐ろしく軽装で胸元を開けて女性らしさの象徴をアピールしまくりながら、最初から人を見下すような態度を崩さない立ち居振る舞い、そしてこの声は……


元子(もとこ)なのか?」


「なんで能無しのあんたがこんなところにいんのよ! それと今さら呼び捨てにしないでくれる? あんたのことを可愛がってあげたのなんてもう十年も前の事なのよ」


 自分は俺のことを呼び捨てにしておいてこれだ。


「CEO、こいつら、『Renegades(レネゲイズ)』じゃないですか?」


 俺が「元子」と呼び捨てにした時にすごい目で睨んできたおっさんが耳打ちしていた。


「はあ? あの噂の『Renegades(レネゲイズ)』が能無し? おっほっほっ。なによ、能無しの千里が? ふぅん、中身を知れば実際はこんなもんよねぇ。見た目だけは相変わらずなのねぇ。ほほほほほ」


「なんやおばはん! さっきからウチらのリーダーになにしょうもない因縁付けとんねん! 喧嘩売っとんやったらいつでも()うたんで! ウチはなーんも知らん高校卒業したばっかしのぴっちぴちの十八歳やからなぁ! 怖いもんなんてなんも無いねん! おばちゃーん、そろそろしっかり守りに入っとかんと目尻のシワばっか増えてまうで~?」


 ライトアーマーの胸元を開きながら俺と寅吉さんの間に割り込んで腰に手を当ててアゴを上げて仁王立ちだ。止める間も無かった。


 相手の全員がポカーンとしていた。


「じゅ、じゅうはっさいのじょしこうせい、だと?!」

「アイドルデュオって女子高生だったのか?!」

「いや、あっちの赤い娘はJKだけど、こっちの黄色い方のそのデっかさはさすがに違うだろ?!」


 園子が何かを比べられて女子高生って言われてる。お前ら命知らずだな。


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