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最弱スキル【地図】が【こうしえん】になった!? - 高度戦術支援地図で最強クランに成り上がれ!  作者: 秋乃せつな


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第69話 うらやましくない

 いつになく俺たちの神妙な顔に掛井さんが身構える。


「な、なにかあったんですか」


「はい。ちょっと大変なことになった可能性がありまして」


「え、え、え、なんですか、ちょっと待ってください! すーはー、すーはー」


 掛井さんは何度か深呼吸を繰り返したあとにファイティングポースを取った。


「はい! ドンと来やがれです!」


 掛井さんが何歳かわからなくなってきたなぁ。そんなことにはまったく興味がなさそうな園子がタブレットを操作して飲み物の発注をしていた。各人の発注品はもう頭に入っているようだ。そんな光景を横目にマジックバッグに手を入れる。


 透き通った黄色の球体を二個と水色の球体を三個の合計五個をテーブルに置く。


「うわ! 魔晶石(ましょうせき)! 五個も!?」


「これって珍しいんですか?」


「あ、忘れてたわ。そんなのもあったわね。最初の宝箱のやつよね?」


「あー、せやったな。あったなぁ、そんなんも」


「え? え? え? だって、これ、希少素材ですよ? 魔法使い用の汎用触媒として最高のアイテムじゃないですか! だって、これ」


 そう言うとどこからかサッとメジャーを取り出して大きさを測る。


「直径七センチもあるじゃないですか! デッカ! 黄色が雷、青色が水系です。うわぁ、買取かなぁ、これはオークションかなぁ、悩みますねぇ。あ、買取ならたぶん一個百万円ぐらいですぅ。相変わらず凄いですねぇ」


「ふーん。そしたら全部で五百万ぐらいなんや」


「ううう。葵ちゃん、まだ十八歳なのに五百万円って聞いてもなんとも思わなくなっちゃったのね」


「え? いやぁ、なんちゅうかもうずぅっと現実感無いねん。正直な、今、口座の残高見てもな、自分のもんやって思われへんねん」


「それはわかる。俺たち、冒険者になってそろそろひと月は経ってるけどな、その間に稼いだ額がひとり頭数百万円だからな。もう残高も確認しなくなってしまった。それと掛井さん、これなんだけど」


 掛井さんの目の前に魔金を五つ並べる。


「え? これはまたずいぶんと小さい……ん?」


 じーっと見つめたあと、じわじわと後ずさる掛井さん。


「いやぁ~、これはちょっと、さすがにですねぇ。あのぉ、園子先輩、わたし、これ、普通の金に見えないんですけどぉ」


「一応、窓口職員だけあるわね。わかってるじゃない。それ、たぶん魔金なのよ。合計五百グラムの」


「はぁ~~~~~~~~~」


 力が抜けたのか尻もちをつくようにペタンと座り込んでしまった。白いものが見えてしまって俺と小佐原さんが慌てて横を向く。


「ちょっと、雅代(まさよ)


「あーーーーいいですよ別になにが見えたって。だってもう勝ち組の人たちじゃないですかーーー」


「なに言ってんのよ。別にこれで一生食べていけるほどのものじゃないわよ。しっかりしなさい」


「はいはい」とか言いながら立ち上がる掛井さん。ツカツカと歩いてデスクから小型のケースを持って来るとロックを外して透明なフタを開ける。手袋をすると魔金をひとつずつ丁寧に入れてからロックを掛けた。俺たちにその写真を撮らせてからカートの引き出しに魔晶石と一緒に入れてそこもロックした。


「じゃあ、ちょっと鑑定に出して来ますねぇ。最優先でやらせますぅ。数が少ないからすぐに結果が出ると思いますぅ。これ、たぶん全部オークション行きですよね。利用価値があるから必要としてる人の間で絶対に値段が釣り上がりますよ」


 そう言うとカートを押して部屋を出て行った。


 高価なものが自分の手を離れたことに安堵した。それはみんな同じ気持ちらしく、アイテムのことを離れて話題は自然と『安地』のことになる。


「まぁ、とりあえずはあそこが安地として固定すると仮定して話そうか」


「もしそうだったら秘匿一択ね」


「そうでござるな。とりあえず鍛冶場が作れるかどうかでしょうか」


「たしかに。鍛冶場にして音が外に漏れるならすぐに誰かに見つかりそうな場所だな。バレたら木を切り倒してでも公開の安地にする価値があるだろう。でもまぁ、鍛冶場に出来なくて安全にダンジョン内で訓練が出来る場所として独占的に使わせてもらうだけでも充分だよな」


「鍛冶が出来なくても周りを気にせず合成が出来るだけで価値はありますな」


「問題は工房からの距離ですか。いちいち代々木公園まで来るのも面倒でしょう」


「それでもみなさんの訓練の時間に合わせて来るのは意味がありそうです」


「まぁ、一週間ぐらいは様子を見ますか。我々は毎日通って確認と訓練に当ててみます。鍛冶場やキャンプ地にするにしても、翌日来たら置いてたものが無くなったり、誰かに置いてあるものを盗まれる可能性も考慮して持ち込むなりテストするなりしましょう」


「鍛冶道具って火ぃ使うんやろ? どうやって持ち込むん?」


「おおう! それはそうでしたな。まぁ、リュックに詰めて少しずつ持ち込むしかありませんな」


「燃料なんかはマジックバッグに入れれば大丈夫ですね。鍛冶場も造るなら原材料ならけっこう入るかもしれませんね」


「水が使い放題なのはよさそうですな」


「太陽電池が充電出来るなら湯沸かしすればお風呂も入れそうですわね」


「あとはまぁ、排水の問題か。既存の安地の施設とか設営とか調べてみなきゃな」


「それもそうだけど、とりあえずどこかのボスを倒したいわね。【こうしえん】のレベルアップは最優先よ。レベルアップまであと二体でしょ?」


 そうだった。【こうしえん】のレベルアップによる追加効果があればパーティー全員に影響がある可能性が高い。


「そうは言うても目の前に宝箱あったら無視は出来へんからなぁ」


「それはそうなのよね」


 目の前にある大金を捨ててまでレベルアップを急ぐ必要も無いのは確かだ。


「危険の少ない浅い階層のボスを広く討伐してパーティーの戦力アップというのは当初から一貫して最優先事項なんだけどな。稼働時間、収入、危険度、今のペースでも悪くは無いよな」


「千里、悪くないどころではないわ。わたしたちのレベルと稼働時間でこんなに稼いでる冒険者なんかどこにもいないわよ」


 元冒険者ギルドの最前線、窓口担当の園子が言うのだから間違いない話なのだろう。


「そうですね。日本一なのですから実質世界一のパーティーですね」


 深層に潜っているパーティーの方がよっぽど稼いでいるだろうが、日帰りどころか午前中だけで数百万、数千万の報酬を得ている俺たちは、ある意味、世界トップクラスの冒険者と言えるかもしれない。


「あんま強ないのになんやけったいやな!」


「ん? 葵殿、それは正確ではありませんな。というか、皆さんを相手にどうやったら勝てるのか拙者にはわかりませんぞ。皆さんは無敵ではござらんか? 【絶対領域】の中に入るには【瞬間移動】しかござらん。みなさんはその【瞬間移動】を何度も使えます。【範囲攻撃魔法】は防ぐのが困難です。しかもそれが長時間、複数回です。はっきり言って現状でもダンジョン内では無敵でしょう」


 高レベルの冒険者に言われて改めて自分たちの異常さに気付く。俺と葵は特にその辺りの自覚に欠けている。冒険者として基本的な知識が足りないからだ。


 ただ、園子や寅吉さんのようなダンジョンのプロが、一瞬で仕事を辞めてもいいと思うほどの異常さがあることをもっと自覚するべきだろう。


 その後は小佐原(おさわら)さんのアドバイスも交えながら、次に狙うべきダンジョンボスの打ち合わせなどをして過ごした。


「ほな、お昼は寿司やな!」


「ボスの話からなぜ寿司に?」


「査定が何時まで掛かるかわからなから今すぐ予約を取るのは難しいわね」


「お寿司なら渋谷でなくても良さそうですね」


「あ、そうか。車で行けばいいのよね」


 こういう時は気配を消しておくのがいいと小佐原さんとアイコンタクトを取った瞬間にドアにノックがあった。


「おまたせしましたー。ちょっとお昼時でスタッフが出払ってて遅くなってしまい申し訳ありませぇん。貴重アイテムっていうことでこれでもかなり強引に捩じ込みましたからね!」


 カートのロックを外して天板に魔晶石と魔金を並べる。


「こうして見ると壮観ですねぇ。これを同じ日にゲットとかもう意味わかんないですねぇ。えーと、魔晶石ですが、黄色は一個百五万円、青は百十一万円です。ぶっちゃけ、オークションの方が儲かります。オークション手数料は落札価格の十パーセントが基本ですが、みなさんはSランクの最高割引が効いて五パーセント引きになるのも大きいです。もちろん、別途税金も引かれますけどね」


「先々月に水色の六センチがひとつ出てたのね。それが百二十一万円で落札されているわ」


「それが今日の魔晶石のギルド買取価格と同額ってことか。俺たちの確保した魔晶石の方が大きいから百二十万円以上で落札されるだろうと考えればオークションに出した方が良さそうだな」


「はぁ~。羨ましいお話ですねぇ。みなさん、すぐにお金いらないからオークションに出せるってことですものねぇ」


「まぁ、そうね。私たち、世帯所得でいったら今までの収入だけで普通に暮らす分には二、三年は無収入でも余裕で暮らせるものね」


「うふふふ。いいですね。四人で何して暮らしましょう」


 まったく夢のある話しだ。だが、


「仕事の無茶は若いうちに出来ることはやっておいた方がいいぞ。もちろん、君たち若者が仕事以外で若い内にしか出来ないことをやるのも大事だろうけどな」


「兄やん、言うてることがおっちゃんすぎんで」


「葵、俺はおじさんなんだぞ?」


「えぇ? 兄やん、鏡ちゃんと見てるかぁ? ウチもそうやけど兄やんも冒険者なってからだいぶ変わったで?」


「お? わかってくれてたか! そうなんだよ、葵に筋トレ付き合ってもらってるからな、見ろ! この力こぶ! わははは!」


星名(ほしな)さん、最初会った時ってもっとひょろっとしてましたよね? 顔色も悪かったし。冒険者になってずいぶんと健康的になってませんか? だって」


「あっ!」


 園子が大きい声を出していた。掛井さんが俺の腹を触る。


「ほら! これ、割れてますよね! すっご! おぉ、胸板もなかなか」


「雅代ー!」


「あたたたた! ひー、すいませんすいません、つい出来心なんですぅ」


「あ、ホントですね。割れてますね。千里さん、見せてくれないから気付かなかったですね」


「あれ? みんな知らんかったん? ちょい前からなっとったやんな?」


「って、葵はなんで知ってんのよ! わ、割れてるってどんな感じなのよ」


「園子ちゃんも触らしてらえばええやん」


「葵、あなたいつも触ってるの!?」


「え? 夜の筋トレの時にたまにチェックしとるやんな?」


「そうだな? 効果あるのかイマイチわからないから葵といろいろサイトとか調べながらやってるからな?」


「ほれ、園子ちゃん」


「ほ、ほんとね、す、すごいのね。カッチカチじゃない、おぉ」


「園子、実は今すごく力を入れてる。そろそろいいか」


「あ、ああっ! ごめんなさい!」


「なんで力入れとんねんな」


「いや、そこは男として少しは見栄を張るところだろ」


「いやー、なんか、園子先輩って、いまさら青春してるんすねー」


「う、うらやましくなんかないでござるよ!」


「雅代! まだ魔金の査定聞いてないわよ!」


「あー、はいはい。えーっと、お預かりしたものは魔金で間違いありませんでしたー。で、魔金の本日の買取金額はグラムあたり十一万五千円です。先月のオークションにおける魔金の平均落札価格はグラム十四万三千円です。これはですね、結局、取引価格とか言ってますが、モノがないんですよ。だから今回のようにまとまった量を売りに出すと大手が確保に動くんですね。で、それによって相場の価格も変動します。魔金はここのところオークションに出れば最高値更新で値段が上がる一方です。でもさすがに五百グラムは手が出せないところも出てきますからねー。まとめるか小分けにするか悩みますね」


「これ、バラで売ると裏でお宅とウチで二本ずつで、とかなりそうじゃないか?」


「まぁ、そう思われてもしょうがないわね。実際、それをやっても罪には問えないですし。でもまぁ、今回は大丈夫よ。五百グラムじゃあやっぱり分け合うほどの量じゃないわ。みんなで奪い合いよ」


「だったらバラ売りでいいかな」


「そうね。五千万は出せないけど二千万なら出すっていうところもあるでしょうしね」


「みんなはどうだろう」


「結果が楽しみですね」


「好きにしたってやー」


「ふおおおお。夏どころか秋冬にも間に合いましたぞー!」


 今、俺たちって現金化してないものってどうなってんだっけ?



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