第67話 派手になって目立たない
【パーティー名:Renegades】
L:星名千里:SEN(Lv15)【高度戦術支援地図】Lv.2/5(Exp.3/5)
2:岩沙香流:クローザー(Lv20)【絶対領域】8/8/Day
3:西宮園子:マネージャー(Lv16)【瞬間移動】8/8/Day
4:川下葵:エース(Lv15)【範囲攻撃魔法】8/8/Day
5:小佐原道夫:ガッツ(Lv38)【合成(強)】Lv1(Exp.2/5)
前回のダンジョンダイブから三日経った。全員の装備一式をアップグレードのために小佐原さんに預けてある。その合成作業が終わったということで今日も代々木第一ダンジョン。ロビーでは目立つので、駐車場時の車内で打合せをすることにした。
前回は第六階層まで進んでいるので今日は第十階層のマザー・グラスウルフ討伐が目標。
「これが新しいみなさんの装備でござる」
そう言って渡されたのは前回預けたバリスティック社製の装備一式だったのだが、見た目が変わっている。元々の真っ黒はそのままに、襟元と腰の両側にひらりと黒狼の毛皮が足されている。そしてアーマーの縁取りに彫金が施されている。黒色は艶があるのかないのか絶妙な光沢だ。脇腹や関節部分は独特のヌメリ感のある質感だ。エングレービングも黒なのでパッと見の派手さはないが、その禍々しさというか迫力がすごい。
ヘルメットはよく見れば原型を留めてはいるが、全体的に鋭さが増して、やはりエングレービングが美しくも恐ろしい。
忍者刀の刀身を見ると真っ黒になっている。鞘もアーマーとお揃いのグレービングが入っている。しかし、一番の特徴は魔石を組み込むことで誰でも魔道具として刀身延長の付与が発動できるようになっていることだ。
最後に黒い毛皮のマントを渡される。黒狼の毛並みが美しい。
「うーわ、兄やん、誰?」
「いや、俺だよ」
「うん、リーダーらしくていいんじゃない」
「リーダーらしいか? 悪い組織の親玉な気もするが」
「うふふふ。あとで黒と白で並んで写真撮らせてくださいね」
そういう香流は白狼のマントの首元と裾がふわりとした毛並みが美しい。ヘルメットの頭頂にも飾りの毛が付いている。神々しい聖騎士に美しさと強さの雰囲気が追加で漂う。
うーむ。俺と並ぶと、なんとなくペアルックっぽい。正と邪という印象は真逆なんだけど。
みんなの装備にスネークの隠密、索敵とウルフの攻撃性が属性付与され、更にウルフの群れ効果で連携力が強化されているらしいのだが、それよりもその獰猛さが前面に現れていて、だいぶ派手になった。
園子と葵のゾディアックのペアルックも完全にオリジナルデザインになった。園子のハーフマントの襟元、袖口、裾には赤茶、葵のジャケットにはライトグレーの狼の毛並みが可愛らしかった。
「アーマーの関節部分の動きが軽くなった気がするな」
「それ、スネークじゃない?」
「そうですね、合成で関節部分の強度と可動域アップになってます。うむうむ。星名殿は背が高いから黒が似合いますな! そのマントを着ていれば傷は付かないのでアーマーには傷防止の代わりに温度調整の付与を付けました。みなさん毛皮で暑く見えますが見た目の割に快適に過ごせるはずです。全ての装備にスネークの魔石から隠密と索敵の効果が乗ってます。特に星名さんのアーマーはジャイアントスネークの魔石を使っているので効果絶大なはずです」
「千里、小佐原さんの好意でパーティー用装備はほとんど無償で加工してもらってるわ」
「え、いや、それはいくらなんでも公私混同だろう。きちんと請求してください」
「ああ、いや、星名さん、これは拙者の技術向上にもなります。それに、完全にタダというわけでもないです。損はしていません。拙者の装備もお陰様でさらに手を加えることができました。今でさえ完全に拙者がもらい過ぎです。それに今作ってる装備も今まで自分が作っていたものとは比べ物にならないほど良いものだと確信できるものです。これを園子殿が市場に出せばまた収入に繋がりそうなんです。だから気にしないでください」
「そうね。まだブランドとして出すには数が足りないのよね。今ね、最初に作ってもらったナイフだけギルドに非売品で並べているのよ。『Renegades』のブランド予告としてね。最初は三階の一般の販売カウンターに置いて、今は七階の上級者向けのカウンターの後ろに展示してあるわ。言っておきますけどわたしがやったのは最初の三階での展示だけよ。そのあとはそれを見た人が売ってくれって殺到してるのよ。たぶん冒険者ギルドの店頭カウンターオークションになるわ」
「へー。なんかすごそうだね」
「小佐原さんの手が空いていればこだわらないけど、基本的にはダンジョン産の魔鉄より上のアイテムの加工、合成品のブランドにするつもりよ」
ちょっとそっちの話はまだ俺にはよくわからない。ダンジョンで拾ったアイテムの有効活用ならドンドンやるべきだろう。それは儲けがどうこうよりも、より優れたアイテムを装備することにより、その人の生存率が上がることに繋がることが大きいと感じるからだ。
「園子と葵用の盾が欲しいな。俺たちはまず、攻撃より守備が大事だよな」
「ま、見つけたらね」
中途半端なものを買うつもりもないらしい。前回は骨折までしたのになんというメンタルの強さ。
「じゃあ、行こうか。打ち合わせ通り今日は第十階層のボス攻略がメインクエストだ。途中のモンスター討伐は可能な限りスルーで」
「了解!」
装備が新しくなると、どうしてもそれを試したくなる。今日は今までで一番深い階層になるので無駄なことはしない方針だ。
入場料を払ってロビーに寄ることなく階段を降りてホールへ。前回、レベルがふたつも上がったのでまた自分の状態が変わっている。
「葵もレベルふたつ上がったよな。みんなも調子がいいと感じても調子に乗らないようにしよう。俺たちはまだまだ弱い」
「そうね。自分は弱いって思うのは大事だわ」
「はい、肝に銘じておきます」
「あっぶな! 今ちょうど、今日めっちゃ調子ええなぁって思っとったわ!」
「至言です。己は弱く、己は未熟。うむ。忘れずにおきましょうぞ!」
「せやな。ウチも調子乗りやすいからなぁ。兄やん、掛け声かけてーや」
「え?! 掛け声? えーと、俺たちは」
「弱い!」
全員がハモった。なんかいつかどこかで聞いたようなフレーズだがたぶんなにか決定的に間違ってる。若い葵はきっと知らないだろう。それでも迷いなく言ったんだからきっと普遍的なセリフってことでオーケーだ!
「よっしゃー! 気合入ったでー! 兄やん、ボス前にまたよろしゅうな!」
弱いって言って気合が入るんだろうか。
「お、おう。じゃあ園子、あっ!」
「三階! 行けるわ!」
地図を第一階層に戻してチェックしながら走る! 敵とモンスターのいない最寄りの部屋に飛び込む!
急いで第三階層に地図を切り替える。左下!
「誰もいないわ! いきます!」
園子がそう言った瞬間、目の前に宝箱があった。
「罠! 正面に毒矢だ! ガッツ頼む! 全員離れて!」
小佐原さんが宝箱の裏側に回る。その他のメンバーで宝箱の斜め後ろ、十メートルの距離を置く。俺が香流の盾を預かって正面に構える。三人が俺の後ろに一列にしゃがんで整列する。盾は斜めにして万が一、矢が飛んで来ても逸れるようにしておく。
『ガッツ、絶対に解除で無理をしないように。後方、周囲の索敵報告よろしく。ガッツ以外、マップ上のリポップ情報にも警戒』
『毒矢は正面に向かって射出されるので解除はしなくて大丈夫でござる。ヒンジのロックですな。これを上げた瞬間に鍵穴から小型の毒矢が射出される場合もあります。毒矢の罠しかないことがわかっているから裏から鍵穴に身体を晒さないように開けるだけですな』
小佐原さんは腰のポーチから鈎爪のような細い鉄棒を取り出すとヒンジに引っ掛けて上に引っ張りあげてロックを外した。
『毒矢は出ていません。ということはフタを開けたら発射されます』
「ガッツが開ける。毒矢が出るはずだ」
後ろの三人に口頭で警告。
『敵も冒険者もいません。ご安全に』
小佐原:了解!
ガッ、バシュシュシュ!
フタを開けた瞬間に扇状、三方向に矢が飛び出した。
『追加の罠はナシです!』
盾を真後ろの香流に返して、小佐原さんに向かってダッシュしながら報告を入れる。小佐原さんはそのまま太刀を抜いて警戒態勢に移行。
宝箱を周り込んで中を覗くが、明らかに今までより軽快に自分の身体がイメージ通りに動いている感じがある。
宝箱の中を覗き込むと直径五センチ以上はありそうな黄色の球体が二個と水色の球体が三個転がっていた。ざっと見たがそれ以外なにもなさそうだ。地図にも罠の表示はない。
マジックバッグの口を開けて球体をひとつずつ掴んで収納していく。
『収納完了、ガッツ、集合です』
念のためにすぐに宝箱から離れて香流の盾の後ろにしゃがむ。
盾の後ろ、最後尾で地図を確認する。
『他のフロアには何もないね。マネージャー』
一間の後「行けるわ」と園子から声が掛かる。
『ジャンプ』
俺が声を掛けた次の瞬間、第六階層のジャングルの密林に囲まれた空間に瞬間移動していた。
現在地の把握より先に、周囲の安全を確認。周りに危険が無いことが判明すると同時に【第七階層への安全ルート案内】を指示。ルートがハイライト表示される。
パーティーメンバーが無言で進行方向に向けて行軍陣形を取る。こういった連携はダンジョンに行っていない時に練習している。朝練で寅吉さんと鍛錬しながら、そこから午前中に小佐原さんの工房に行って練習、昼を一緒に食べて解散、小佐原さんは工房に入り、我々は自宅に戻って運動や鍛錬をして夕方まで過ごすというルーティンだ。朝が早いので夕方前には自由時間だ。
かなり身体を動かすのでそのあとの食事を何にするかの打ち合わせはとても楽しい。買い物に行く時間も食べに行くのもかなり自由にすごしている。
そういった日々の鍛錬の成果が出ているのを実感する。無言で行動しても問題ないが、きちんとコミュニケーションを取ることを重視する。行軍陣形の準備が出来た人から『準備完了』のテキストメッセージが入る。だが、やはり各人の行動や思考が今まで以上に視界や頭に入ってくる。
『オーケー、行軍開始、慌てず行こう。ゴーゴー』
第六階層は複数体のカラースネークだ。魔石は五千円。五人パーティーで十匹倒せばひとり一万円弱。これが最低ノルマだ。実質、このフロアで安定して長時間活動できる冒険者が仕事として成り立つ最低レベルとなる。
レベルでいうと早くてレベル十、スキルに恵まれなくてもレベル十五前後になればなんとかなるだろう。
会敵しないルートを通っているので徐々に進行速度を上げる。
『ジョギング程度で進みましょう』
状況は刻一刻と変わるので時々ルートが変更される。
『その角を曲がったら階段に到達するルートに入ります。他の冒険者の動向にも注意しつつ、そのまま階段を下りましょう。下りたら階段へのルートを進みつつ、各種確認します』
あっさりと階段に到達。右側通行で階段を下りる。第七階層もジャングルのままで、複数体のカラースネークにカラーバードも混ざる。遠距離武器のない我々は不利なので会敵しないルートを進み続ける。
『隠し部屋、あるね。けど宝箱が無いみたいだ』
全員のガッカリ感が後ろ姿からまるわかりで笑いそうになる。このフロアに隠し部屋があったという報告はどこにも上がっていない。ということは、見つけたパーティーが報告せずにアイテムを隠匿したということだ。売り捌くより自分たちで使った方がいいと判断したのだろうか。
『ま、我々も他人のことはどうこう言う権利が無いからね』
エース:ウチらだけで全部取ってたらバチあたりそうやしなー
『そういうことだな。なにせ宝箱もほとんど俺たちが取ってしまうしな』
パーティー内に楽観的な雰囲気だ漂う。そうだ。さっきもお金になりそうなものをゲットしているんだ。
マネージャー:千里が拾ってたアイテムが少し見えたけど、まぁまぁお金になるわよ。今日の日給でいったらもう充分稼いだわ。
『へー。それは気楽になったな。さぁ、次は第八階層、草原エリアだ。単体のグラスウルフになる。当然無視して走り抜ける。第八階層に出たところで少し離れて小休止をしながらフロアチェックにしよう』
二十分ほど掛けて第七階層を走破。そのまま階段を下りて出た先は昼の光の草原エリア。視界が抜けているところもあるが、地面に凹凸もあるし、ところどころ林もあって、見渡す限りの地平線というわけではない。すぐ目の前の丘の向こうにグラスウルフが伏せているかもしれないという怖さがある。
もちろん俺たちはその恐怖とは無縁だ。寅吉さんの言ってた「冒険じゃなくなる」部分だ。敵が強くなればなるほどその言葉の重さがわかる。そして、それはとてつもないアドバンテージであることを実感する。敵の居場所がわかる俺たちはここでお弁当を広げてピクニックだって出来てしまう。
「右前方の丘の上を目指そう」
後方から声に出すが地図上で星印の点滅とルートのハイライトで共有済みだ。
五十メートルほど進んで丘の上に到着。虫一匹いない草地の上に腰を下す。バッグから出すフリをしてマジックバッグから冷たいペットボトルを出して配る。各人の希望に合わせて水だったりお茶だったりスポーツドリンクだったりだ。
微かに吹く風に草の匂いが混じる。リアルだ。草を引っ張れば千切れるし本物なことは確かだ。
「あるわね」
「ありますわね」
「どないなっとんやろなぁ」
みんなが水分補給をしながら余裕の表情で意味ありげな会話をしている。隠し部屋があった。




