第66話 第66話 結果が良ければ?
代々木第一ダンジョンから車を出してすぐ近くの冒険者ギルド代々木公園前支部の地下駐車場にイン。事前連絡を入れていたので直接個室に入る。
「『Renegades』のみなさん、こんにちは。今日は新しい方もいらっしゃるんですね」
専任担当者の掛井さんが今日も明るく出迎えてくれた。
「小佐原と申します。よろしくお願いします」
「ご丁寧にどうも~。専任担当者の掛井雅代です。そうそう、星名さん、クラン設立おめでとうございます~」
「ああ、そうですね。ありがとうございます。まぁ、手広くやるつもりはないので活動内容は変わらないと思います」
「あらー。そうんなんですね~。広~くやるなら教えてくださいね~。きっと事務員とか必要になりますから~。優秀な人材は早めに確保するのがいいですよ~」
「雅代。話が長引くならタブレットちょうだい。飲み物ぐらいわたしがオーダー取るわ」
「あ、園子せんぱーい! ありがとうございますぅ! はい!」
そう言ってあっさりタブレットを園子に渡す掛井さん。タブレットを渡された園子は驚いていたようだったが、あっという間にオーダーを通してタブレットを掛井さんに突き返していた。
「ふっ。わたしの腕もまだまだ後輩なんかには負けてなかったわね。はぁ~あ。どこかに優秀な事務員がいないものかしらねぇ」
「うっ。そーだ! 星名さん! 今日はどんな御用ですかぁ?」
「あ、はい、これです」
小佐原さんのアドバイスで、ボスとスネーク系の魔石で合成に使いそうな分は確保。余剰となるカラースネーク、カラーバード、グラスウルフの魔石を査定に出す。カラースネーク十五個、カラーバード二個、グラスウルフ四十七個だ。
「それでアイテムがですね」
「ちょちょちょちょい! ちょい! 多い! 多いから! なに?! なんなの!? 魔物暴走でもあったんですか!?」
「え? スタンピード?」
「カラースネークはいいです。多いけど。まだわかります。多いけど! でもですよ? グラスウルフの魔石多すぎです! これ、何日分ですか?!」
「いや、さっき討伐したやつで」
「はぁぁぁぁぁ? ですよね? 一日分ですよね? 園子先輩! これ、どういうことですか!」
「あー、そうね。これ、イレギュラーエンカウントでスタンピードとは言えないと思うのよ」
「え? そんな報告は」
と言いながらタブレットを操作する掛井さんが突然ガックリと膝を着いた。
「ううう。五分前にレポートが来てるし」
「ん~。まぁまぁ、わたしも今報告しなきゃなーって思ってたのよねー」
「ウソ! そんなのウソ! 先輩、忘れてたでしょ!」
「千里、この魔石、今回売るのはやめておきましょう。この報告と絡めてこっちに事情聴取とか入って正体が露呈するのは避けたいわ。というわけで雅代、グラスウルフの魔石は忘れなさい」
「いやー、それはどうなんですかー」
「千里、小佐原さん、グラスウルフの魔石とアイテムの査定は後日にさせてちょうだい。痛くも無い腹を探られるのはやっかいだわ」
「小佐原さん、それでいいですか? 園子のこの手の話は全面的に乗るのがクランの方針でもありますので」
そんな方針は無いけど今、そうなった。
「ああ、はい。ぜんぜん問題ありませんよ。都合の良い時で」
「ありがとうございます。じゃあ、掛井さん、グラスウルフの魔石は今日は見なかったことに。日を改めて少しずつお願いします。あとはスネークのアイテムをお願いします」
カラースネークとジャイアントスネークのアイテムのキュアポーションの原料となる『血清』は全部売却。カラーバードの羽は弓矢の素材として優秀なのでキープ。
あとは現場に落ちていたドロップアイテムだ。剣やナイフ、盾、胸当てなどの防具、そして蛇革のバッグ。蛇革のバッグや小物入れは今となっては製造も輸入も大変面倒なものだ。ドロップ品なら所有も流通も問題ない。パーティーメンバーで欲しい人がいないか聞いたら、誰も趣味じゃないからいらないということで全部売却することにした。
鋼鉄製の武器防具も、ドロップ品は性能も良く初心者向き装備として人気だ。今回はボスドロップでジャイアントスネークからシミター、マザー・グラスウルフからはレイピアが出た。この二点も査定に出す。
◇
今回は査定に少し時間が掛かった。量が多いからしょうがない。待っている間に掛井さんは他の担当冒険者が冒険から帰ってきたりして忙しそうだった。俺たちはその時間を利用して装備を着替えたりしてゆっくり過ごした。
そうして二回目の飲み物のお代わりを飲んでいる頃に掛井さんが査定結果を携えて戻ってきた。
「はい、査定の結果出ました~。鋼鉄製の武器防具は全部買取ということでここには持って帰って来てません。それで~、カラーバードの魔石は一個あたり二千五百円、カラースネークは五千円ですぅ。鋼鉄製の武器防具は合計百八十五万円、血清は合計で二百六十万円」
「二百六十万円?!」
「はい~。これ、ボスから出たんですよね? 量もさることながら、純度が高くて、ハイ・キュアポーションの原料になるから高いんですよぉ。薬師の売れ筋商品の必需素材です人気なんですぅ。だからぁ、ここまでで魔石の合計がカラーバードが五千円、カラースネークが七万五千円で、鋼鉄の武器防具、血清の合計は四百五十三万円ですぅぅぅ。五パーセント引いて四百三十万三千五百円のお支払いになりますね~って、相変わらず凄いことにぃぃぃぃ」
「はい、入金たしかに確認いたしました。では、今回は各人に七十二万円、パーティー資金に七十万三千五百円にしますね」
「ぬおおお!? 半日ダンジョンに潜っただけで七十二万円ですとな?! しかもまだまだ交換していないアイテムがあるのに?!」
「うわーん。小佐原さんがうらやましいですぅ~」
「確かにとんでもない金額ですね。でもね、掛井さん、やっぱりみんな命懸けなんですよ。今日、園子は左腕を骨折してますからね」
「えええ!? 先輩! 大丈夫なんですか!」
「ああ、そうね。そんなことあったわね。ポーションがあるから問題ないわよ」
「いえいえいえ、だって! 骨折ですよ! 痛いじゃないですか!」
「んー、でも、その時ちょっと痛いだけだわ。傷跡のひとつも残れば責任問題にでも出来たんですけどね。文字通り完治ですからね。っていうか骨折する前よりも綺麗になっちゃうんですもの。変な話よね」
あっけらかんと笑いながら話す園子を見てみんなも笑っていたが、俺は笑えなかった。あの場面を思い返す度に俺は背筋が凍る思いだ。
本来なら今日の録画データを見返すにはまだ時間が掛かりそうだ。だが、反省のために俺だけでも見返して反省点を洗い出さなければならない。グラスウルフを迎え撃つために直接の接近戦をするべきではなかったし、マザー・グラスウルフを倒した後のアイテム回収も焦る必要はなかった。園子の治療に集中し過ぎて【地獄炎】の延焼、【絶対領域】の管理も出来ていなかった。他の冒険者に犠牲者が出ていたらこんなところで笑っていられなかった。おそらく俺は冒険者を辞めることになっていただろう。
それは全て俺のせいだ。あらゆる事態を想定できなければ適切な指揮など出来はしない。リスポーンの条件から勉強し直しだ。
「それで買取しないっていう武器の査定なんですけどぉ~。ジャイアントスネークのシミターは鋼鉄製で八十万円、マザー・グラスウルフのレイピアは魔鉄製で二百五十万円になりますぅ」
「へ~、本当に魔鉄製だったのね。第十階層のボスからならアタリね」
「もぉ~、なんでそんな冷静なんですかぁ」
「せやなぁ、雅代ちゃんの言う通りやなぁ。なんかもうウチもよぉわからんよ。銀行の残高が出掛けるたびに増えて使こても使こてもぜんぜん減らへんねん」
「おおおお、一度でいいからそんな風になってみたいぃぃぃ」
うん。人の成功を間近に見る仕事もなかなか辛そうだ。でもまぁ、仕事っていうのはあるだけでも幸せなんだけどね。
「さて、お嬢様たちは今日の夕飯はどこでなにが食べたいのかな?」
「兄やん、今日はパーっと焼肉でもいこやー!」
「お? 他にリクエストはないかい? よし、じゃあ若い子の胃袋を満たすために派手に打ち上げだな」
「いいわね。じゃあ、ここなんて良さそうね。個室だし気兼ねなくやれそうだわ」
園子は相変わらず仕事が早い!
「みんなもそれでいいかな? オーケー、じゃあ予約を頼むよ。そうだ、掛井さんは仕事何時までですか? 時間が合うならたまにはご一緒しませんか」
「合います! 時間なら絶対に合わせます! やったー! お肉ー!」
「小佐原さんも大丈夫ですか?」
「ええ、拙者もぜんぜん大丈夫です。車なのでお酒が飲めないのが残念でござるが!」
「我々はその分しっかり食べましょう! よし、今日の晩飯代は俺の驕りだ」
「えー! なんでやの? パーティーで行くんやからパーティー資金でええんちゃうの?」
「いや、今日は俺にとっては反省会で禊も兼ねてるからな! せめて驕らせてくれ。寅吉さんの都合はどうだろう?」
「今日は引き継ぎの会合があるみたいでダメですって」
十七時の夕方オープンと同時に気合の入店! 俺の驕りと先に言ってしまって遠慮させるのは本意ではないので、率先して注文しまくって焼きまくって食べまくって酒もオーダーしまくった。会社員時代には出来なかったことだ。これが冒険者だと思ったし、これを続けるためには自分は足りないものだらけなことも痛感していた。
掛井さんはなぜだか俺の話を聞きたがったが、俺は小佐原さんの話が聞きたかった。若い頃の冒険の失敗談はどれも勉強になった。若い頃の失敗の話なんか誰も話したくはないだろうが、俺があまりにも真剣に聞くからなのか、いろいろ教えてくれた。
「千里さぁ~ん、ごちそぉさまでしたぁ~。また遊んでくださいね~」
「雅代さん、ちょっと飲ませすぎちゃってごめんね。じゃあ、また」
酔っぱらってしまった掛井さんを自宅まで送っていくことになった。園子とふたりで玄関まで行ってしっかり部屋のドアを施錠するところまで確認してから車に戻った。
「ちょっと飲ませ過ぎてしまったかなぁ」
「大丈夫よ。めったに行けない高級店ですもの。はしゃぐのもしょうがないわね」
「園子はぜんぜん酔ってないんだな」
「そお? けっこういい感じよ」
「そうか。今日はすまなかったな。ポーションで治ったからそれでよしとはまったく思ってないし思えない」
「え~? そんなに思い悩むことないと思うわよ? あとになって、あの時にこうしておけば良かったなんて言ってたらキリがないわよ。あの時、わたしが手を伸ばして、盾に引き寄せ効果があったから葵が怪我しないで済んだんですもの。あれがなかったら葵は怪我で済まなかったかもしれないわ。今日の冒険は大成功よ。これ以上ないほど最高の結果だったわ。それでも千里が満足していないなら、次はもっと良い冒険が出来るってことだからパーティーにとってはこれでいいのかしらね?」
そう言って微笑んだ。
次はもっと良い冒険。でも俺の中では失敗しない冒険の方が大事だ。大事なのは怪我無く帰ること。
園子が正しい。落ち込んでいるだけでは意味が無い。次にまた冒険をするなら全ての経験を糧にする強さが必要だ。このパーティーでは年下の女の子しかいないが、教えられることが多いな。おかげで常に慢心せずに済む。
よし! まずは無事に家まで運転して帰るところから再スタートだ。




