第63話 役と役割
今日は園子の盾と香流の槍を確かめるために代々木の第一ダンジョンに潜ることにした。寅吉さんは仕事のため、小佐原氏が納品がてら一緒に潜る。
事前に小佐原さんは【こうしえん】に登録しないことを決めていた。【高度戦術支援地図】の存在と、このパーティーがやっていることを明かすべきか? 最近の夜のもっぱらの話題だ。
小佐原さんとは何回か打ち合わせやアイテム発注で顔を合わせ、その都度、食事などして交流を図っている。小佐原さんの工房兼自宅に食材を持ち込んで料理をして食卓を囲んだりもした。
決してこの部屋には入らないでくださいという部屋があったりしたが、人にはそれぞれプライベートというものがあるからそこは察して触れないでおいた。誰しも心の平穏は必要なのだ。
その日、代々木第一ダンジョンの待ち合わせ場所のロビーに座っていた小佐原さんは、完全に甲冑姿の戦国武将だった。
おふざけではない。これが彼なりの命を懸けられるスタイルなのだ。その思いは、どんなに激しく動いても全く音が鳴らない鎧からも伝わって来た。それに気付くと、この赤く塗られた鎧姿がカッコよく見えてくるから不思議だ。
俺たちがロビーに入るまで、周りの冒険者達の視線を一身に浴びていた戦国武将だったが、香流が姿を現した瞬間に全ての視線を奪っていった。
姿を隠すための純白のロングマントが逆に神秘的なんだよね。その神々しいまでにド派手なデカい盾。腰に見える片手剣。
「パ、聖騎士!?」
若い冒険者の声が聞こえてきた。
「え?! あのサムライとパラディンって同じパーティー?!」
「いや、逆に違うパーティーだった方がヤバいって!」
「うお! あの後ろのデュオは?!」
「うーわ! アイドル?」
「赤のコの足! 腰!」
「黄色のコ、でっ!」
ロビーがざわついてきた。東京の代々木第一、第二ダンジョンといえば、ここを根城に潜り続けるパーティーもたくさんいる日本でも有名なダンジョンのひとつだ。冒険者ギルドがすぐ近くにあるのも訪れる冒険者が多いという証拠だ。ちょっと時間が悪かったかな。今日は冒険者が多い。
「こちらが仕上げた槍になります」
小佐原さんと挨拶を交わすとテーブルに置いてあった槍を香流が受け取る。
槍は香流のフルアーマー姿を見た小佐原さんの提案により白の神槍になった。もうそうとしか言えない派手さと神々しさがその槍にはあった。
左手の大楯、右手に持つ神槍。
目の前にいるのは神話から抜け出てきた神の使い。
派手なベテラン連中もウヨウヨいる中、俺たち(俺を除く)は急激に注目を集め始めていた。
どうしてこうなった? 俺は、目立ちたくないから出来るだけ息を潜める。
「なんか周りがざわついてきたから早めに降りよう」
逃げるように階段を降りてホールで準備運動をしていると階段の上から覗いてきたり、わざわざ階段を降りてホールまで来るヤツが出始めるのを視線で追い払う。明らかにマナー違反だ。ダンジョン内ならその行為だけで正体を暴こうとする敵対行為とみなされて殺されてもおかしくない話だ。俺は皆の前に立ちはだかり、あえて殺意を込めてサングラスバイザー越しに視線を送る。もちろん、ヘルメットカメラは録画中の赤いライトを点灯させている。
『や、やべーよアイツ』
『なんでさっき居るのに気がつかなかったんだよ!』
『気配無かったって!』
『うわ! 暗殺者!』
『四人パーティーじゃなかったの?!』
『ちょ、ダンジョン入ったらここまで殺気飛んで来てるぞ!』
『アイツらの録画データ消せ消せ! 殺されるぞ!』
しばらくすると周りが静かになった。マナー違反に気が付いて冷静になってくれたらしい。さすが東京! 世界に誇る治安の良さ!
「とか思ってなーい?」
園子が怖い。なんでわかるんだ?
「え? 思ってるよ? だってみんないなくなったし」
「いや、さすがに今のはウチでもわかったで」
「監督殿、やはりこのパーティーの影の支配者は貴方でござったか」
「うふふふ」
なにがだ?
「監督殿、一回その防具を預けて下され。ダンジョンで使用して何か影響出てますね。今日、持って帰って調整するんでお願いします。今、完全にイメージ出来ましたから。前にお譲りした忍者刀も合わせます。うーむ。何か良い魔石が欲しいですねぇ」
「魔石ですか。それじゃあボスのいる五階層まで行ってみましょうか」
「確かここの五階層ってジャングルゾーンで、ボスはジャイアントスネークでしたわね」
「うええ。デッカいヘビかいな。ササっとやってもうて早よ下に行けるようにしよや」
「みなさんのレベルがいくつかわかりませんが、第五階層なら拙者ひとりでも余裕でござるから任せてくだされ」
「さすがレベル三十八ですね。頼もしいです。ちなみに我々はクローザーのレベル十九が最高で、わたしとエースが最低のレベル十三です」
小佐原さんが棒立ちになった。
「え? このパーティーはタイガー殿が引っ張ってる状態ってことでござるか? みなさん冒険者稼業の稼ぎでけっこう優雅に暮らしてますよね? ここの五階層もクリアしたこと無いパーティーなのに?」
「まあまあ、そういうことも世の中ありますから。ではガッツさん。斥候よろしくお願いします」
「あ、はあ。では行きますね?」
第五階層あたりまではまだまだ浅いと言われる階層だ。レベル三十八の小佐原さんにはどうと言うこともない。ジョギング感覚でドンドン進んで行く。
【こうしえん】は小佐原さんを除く四人で共有している。地図を見ているので、モンスターはおろか他のプレイヤーの位置も、名前も、スキルも丸見えだ。
『宝箱も無いし、このまま何事もなく進めばいいんだけどな』
葵:宝箱出ない方がいいって言うの変やな
『まったくだ。ただし、宝箱が出た場合、昨夜の打ち合わせ通り、よほどハズレじゃなければ小佐原さんも誘導して確保しに行く。守秘義務契約を結んだ小佐原さんを信じよう』
全員から『了解』のテキストが飛んでくる。
第三階層まで一気に駆け抜ける。
『よし! 何もなし! 階段を降りるぞ』
第四階層への階段を降りながら小佐原さんが声を掛けてくる。
「みなさんレベルの割に落ち着いてますね。連携もスムーズだし良い感じです。ちょっとレベルの割に無言で連携が取れ過ぎている気がするぐらいです。同棲してるのが効いてるんですかね?」
まだまだ余裕があるようで軽口も入れてリラックスムードだ。
「おー、それな! やっぱ、わかりみが違うっちゅーんかな? もうずーっと一緒やし、兄やんのシャツもウチらの匂いになってもーてるぐらいやからなー。これが一心同体ゆうやつなんかな?」
「おふっ! エース殿、それは独り身の拙者には刺激が強過ぎ、いや! 拙宅の大奥にもたくさんの嫁が! 負けぬ! 負けてはならぬこの戦! 必ずや最後には拙者が勝あああつ!」
「あ、ガッツさん、その角を右で」
「あ、はい」
「そこから二つ目の角を左で、すぐ先の角を右です」
「はい」
最後の角を右に折れた瞬間。
「うおおおお! 宝箱でござる! 皆の者! 出合え、出合えー!」
「ガッツ! そのまま通り過ぎて五メートル先で前方警戒体制! 他のみんなは後方警戒! 宝箱は俺が開ける!」
「ふん?! 開ける?! 危険です! それは拙者が!」
「大丈夫! このパーティーは宝箱は俺が開けます! ガッツは罠がある時だけ手伝って下さい!」
「罠がある時だけ?! りょ、了解!」
【こうしえん】で宝箱を確認。罠なし。手を掛けて一気に引き上げる!
中には透き通る黄色の液体が入った細長いガラスビンのようなものが五本並んでいる。地図には【毒消し】と表示されている。ショルダーバッグを開けてマジックバッグに優しく放り込む。
「アイテム回収完了! ガッツ、ゴーゴー、その先を左へ!」
戸惑いの顔で一度振り向いた後、ジョギングを始める小佐原さんの後を付いて進む。
「一本目の角を右へ。それで本線に合流出来ます」
「あー! なんだよ! もう開いてるよこれ!」
先ほどの場所からそんな声が聞こえて来たが、みんな無言で進む。
本線合流後、第五階層へ降りる階段の近くで水分補給を兼ねた小休止で作戦会議。
「監督、ここのボスはランダムエンカウントでどこにいるかわかりません。方向の指示をもらえますか?」
小佐原さんが少し思い詰めたような表情で俺の目を見ている。さすがに感じるものがあるのだろう。
「ええ、もちろん。それが俺の役割ですから」
そろそろこの人を信じて全てを打ち明けても良さそうだ。




