第53話 おかわり
【パーティー名:Renegades】
L:星名千里:SEN(Lv12)【高度戦術支援地図】Lv.1/5(Exp.4/5)
2:寅吉勝利:タイガー(Lv.65)【剣術】
3:岩沙香流:クローザー(Lv18)【絶対領域】3/4/Day
4:西宮園子:マネージャー(Lv14)【瞬間移動】4/4/Day
5:川下葵:エース(Lv11→12)【範囲攻撃魔法:地獄炎】3/4/Day
「兄いやん、レベル上がったで!」
「おっ、ホントだ。俺と同じレベル十二だな。おめでとう」
レベルが上がると必要になる経験値が増えるから、だんだんレベル差は埋まっていくんだよね。
「よし、アイテム回収だ。みんな全周警戒よろしく」
魔石を拾ってマジックバッグに入れる。青いモヤの掛かった液体の入った細長いビンを拾う。地図で自分を検索して所有物を調べて報告する。
「ハイ・ポーションが一本落ちてたよ」
「えっ! 見せて!」
「なんだと?!」
ダンジョンアイテムマニアの園子だけじゃなく寅吉さんも食らいついた。アイテムを手渡すとライトで透かしたりして観察している。
「すごい! ホンモノだわ」
マジックバッグを開けるとそっと中に入れて真剣な目で俺を見た。
「千里、これは売っちゃダメよ。これを持っていれば怪我で死ぬことはないわ」
「え? そんなに効くの?」
「効くわよ! トラックに撥ねられても全快するわ! 生きている内に中身を振り掛ければですけどね」
「そりゃすごい。保険として持ってよう」
園子がこう言う時は全面的に言う通りにすれば間違いない。というか園子の言うことにノーと言ったことはないけれど。
ポーション類は換金するイメージが湧かない。いくら持ってても足りないよなぁ。売る時は冒険者辞める時かな? いや、日常生活でも持っていたいからやっぱり売れないなぁ。
「さて、当初の目標である、みなとみらいダンジョンのボス討伐は完了です。だけどまだ午前十時前です。どうしましょうか。このままもう一つどこかのボス討伐に行ってみますか」
「そうだな。せっかくだからもう一ヶ所行ってみよう」
寅吉さんは明日からまたしばらく通常出社が続く。四月から引き継ぎが始まり、一週間から十日ほどで再び有給消化に入るそうだ。ダンジョンに行けない日が続くので、それまでは少しでも行ける時に行っておきたい。
「そうね。ここから向かうボス戦メインのダンジョンなら川崎の第二がいいかしら。あそこは第三階層までしかないから」
園子の提案だからほぼ決定だろう。園子はダンジョンマニアなので知識がものすごいのだけど、元職員だけあって軽々しくそれを口にしない。ヲタなのを隠したいというのが本音かもしれないけれど。
香流は実際にダイブする方のダンジョン好きだ。実は性格も一番、冒険者向きだ。槍捌きも一番、様になっている。細く見えるが俺も含めた四人の中で運動能力は一番高いと思う。スキルに頼らずにレベルアップでなんとかしようとしていたガチ勢なんじゃないかと思う。今まで思うような活動が出来なかったんだろうなぁ。
俺と葵は冒険者というものに対しては憧れを持っていたが、どちらかと言えば、今は仕事としてやっている部分の方が大きいだろう。そう考えると引退に向けた目標を持つ方がいいかもしれないな。
とりあえず地上に出ないと携帯の電波が入らないので情報収集のためにも地上を目指す。次戦に向けて園子のテレポート回数を減らしたくないので、駆け足で一気にホールまで戻る。
ダンジョンでは携帯の電波は届かない。携帯だけではない。あらゆる電波が遮断されたかのように不通になる。ホールに降りるためにスマホを持って階段を降りるとよくわかるが、ダンジョンと地上の境目がある。地上とダンジョンの境を越えた瞬間、圏外になる。階段の上と下ではトランシーバーも通じない。可視光は通過しているし、音も声も聞こえる。ただ、電波が通じない。ダンジョン内でも無線通話は出来ない。だからワイヤレス機器も使えない。
さらに致命的なのが火薬が発火しない。銃が使えないのだ。火薬に直接火を近付けても引火しない。それどころか、ガソリンや灯油、ガスにも引火しない。ガスバーナーやライターは使えないのだ。可燃物の紙や木は燃えるが、灯油を染み込ませた紙や木は逆に燃えにくくなる。
ダンジョン内で火を使おうとすると、火打ち石など、火の粉で着火するしかない。もしくは魔法、魔道具を使わねばならない。ただ、いずれにせよダンジョン内は火気厳禁だ。火を使っていると他の冒険者に問答無用で殺されても文句は言えないし、たいてい本当に殺される。排煙装置もないダンジョン内で煙に巻かれれば絶対に助からないからだ。屋外フィールドでは火を使えるが、階段に煙が流れ込む距離での使用は同じように殺されても文句は言えない。階段に煙が入ると人が死ぬからだ。
冒険者は電気式のケトルや電熱器で湯を作ったり食材を温める。ダンジョン用の電池、バッテリー式やソーラー充電、魔石燃料の道具はこの二十年で目覚ましい発展を遂げた。
ちなみに、死んでしまえば肉体のような有機物はすぐに消失するが、無機物は残る。ただ、それもいつの間にか失くなる。すぐに消えないというのがやっかいで、海外のダンジョンの中はゴミだらけだ。それに比べると日本はまだマシだ。というわけで排泄物はすぐに消えてなくなるのだけが救いだ。
ゴミを捨てている現場に遭遇するとだいぶ揉める。普通に殺人に発展するので、ほとんどの冒険者はゴミを持って帰る。一度、目の前でゴミを捨てた若い冒険者がいたが、寅吉さんが烈火のごとくお怒りでガンガンに追い込んだことがあった。あのイキってた若い冒険者は二度とダンジョン内でゴミを捨てることはないだろう。
無線が使えないのでドローンを飛ばしてのダンジョン探索は出来ない。プログラミングや光ケーブルでの有線でなんとかしようという人たちもいるがごく少数だ。同じ理由でレーダー探知は出来ない。音波探知のソナーは洞窟内で使うのは意味がない。そんなことするよりレベルアップによる身体強化の聴力アップの効果の方が大きいからだ。
自転車は持ち込めるが、レベルアップした肉体なら自分で走った方が速い。結局、レベルアップした生身の方が既存の機械より優れた性能を叩き出してしまう。
というわけで走ってホールに到着。ロビーでぐったり小休止しながらの話題は今日の昼ごはんを何にするかだ。みなとみらいで食べてから行くか、川崎に着いてから食べるか。
「ダンジョン近くにはそんなに大したものはないし、せっかくみなとみらいにいるんだから食べて行った方がいいんじゃないか。俺と寅吉さんに遠慮しなくていいよ。どこにでも付き合うし、無理そうなら俺たちふたりでどこかに食べに行くから」
「おお~、兄やん、かっこええ。大人やな」
「そうか? そう言われると悪い気はしないな。こっちはおっさんふたりだからな。その辺でラーメンでも牛丼でもなんでも行けるからな」
お嬢様会議の結果、運河の見えるテラス席のあるレストランに決定。一緒に行こうと言われれば否は断じてない。こういう場合、男に拒否権というものは存在しないからだ。
このあとダンジョンじゃなければ昨日とは別のホテルのランチビュッフェでも良かったねなどと話しているが。
「ビュッフェは俺も寅吉さんも好きに飲み食いできて大変喜ばしいんだけどな。食べ放題は気を付けないとあとで大変なことになるぞ」
「うっ。それはその通りなのよね。まぁ、そうしたら帰ってからマンションのジムに籠るわ。千里、責任取ってプール付き合ってよね」
「プールに付き合うのは(水着姿も見られるし)ぜんぜん構わないんだけど。なんの責任なんだろうか」
無視された。
◇
川崎第二ダンジョンは多摩川の河原にポツンとある小さなダンジョンだ。調べると今日の十五時前後は初心者鑑定の枠も無く、比較的空いてそうだった。今は春休みなので初心者や鑑定に来る若者も多い。
小さめの駐車場に車を停めてロビーへ。鑑定を終えた若者が目的もなくダベっていた。それを横目に階段を降りる。彼らから見たら、寅吉さんや香流と一緒に歩いている俺もベテラン冒険者の風情なんだろう。今は女性陣も先日購入したカモフラージュ用のコートを常に着用している。
第一階層、スライム。第二階層、ゴブリン。
なんの問題もなく、隠し部屋も宝箱もなしであっという間にボスのいる第三階層に到着。
「ここはボス部屋があって、中にはコボルト・ボスがコボルトやゴブリンの子分と共にいる」
などと説明しながら階段を降りる。
「あっ」
油断してた。隠し部屋だ! みんなで顔を見合わせる。高校を卒業したばかりの子供たちがそこら中でコボルト狩りをしている。リポップしたそばから群がってフルボッコだ。
人のいない小部屋に入る。石が整列して並んでいるオーソドックスなダンジョンだ。不意打ちを喰らわないよう壁を背にして小声で作戦会議。
「まさかここにも隠し部屋があるとは」
「渋谷第一と似たパターンだね。ボスをクリアしたら裏ボスか」
「でも変な作りよね。手動でボタンなりスイッチを押さないと開かない部屋だなんて」
「ええ、そうですね。条件が満たされたら自動で開く方が自然ではありますよね」
「まぁ、ウチらにはこの方が都合エエけどな」
それはそうだ。そして、俺と同じ条件を満たせば俺と同じことが出来る奴が世の中に出てきてもおかしくない。二十年いなかったからこの先二十年出てこないとは限らない。
「まぁこれが俺たちだけの特権の内に稼げるだけ稼がせてもらおう。ルール的には全て早い者勝ち、強い者勝ちな世界だから」
「ふふふ。センさんのそういう考え、大好きですよ」
超絶美人に大好きなんて言われると逆に現実感がなくなるんだな。
「それは光栄だ。愛想尽かされないようにがんばって稼がないとね。さて、索敵の続きだ」
ここの表ボスはコボルト・ボス(Lv10)だ。寅吉さんがいなくても物理攻撃で討伐できる程度の強さでしかない。
裏ボスはなんだ? オーク・キング(Lv25)か。
「寅吉さん、裏ボスはどんな感じですか」
「ふむ。レベル差があるからね。俺ひとりでもまったく問題ないな。だが、今回も取り巻きがいるから葵くんに攻撃してもらった方が確実だな」
オーク・キングの他に表ボスのコボルト・ボスが二体とコボルト・アーチャーも二体いる。レベル差があっても複数対複数の戦いになると部隊編成や武器構成などで優劣の計算が難しくなる。それらを全部ひっくり返すのがうちの三人娘だ。気付かぬうちに至近距離に現れて一方的に攻撃して、完全防御の殻に閉じ籠る。これは正直言ってもう戦闘とは言えないだろう。一方的な集団殺戮だ。
「裏ボスの隠し部屋の宝箱だね。検索、オン』
【魔力石】x3
表示された瞬間「ひゅっ」というような音が聞こえた。園子だ。口に手を当てている。
「園子、これって」
「これよ!」
園子は小声で叫んだ。そして語彙が少ない。
「魔法系の付与で便利なやつだよな? クリスタルと並んで有用っていう」
「そう。付与士や合成士の腕次第なところはあるけれどね。これで香流の魔力消費を劇的に下げられるわよ」
「三個もあるで」
「罠はないな。どうしようかな。普通に開けようか。いや、アーチャーがいるんだったな。渋谷と同じで行こう。それで今回は宝箱は敵を殲滅してから回収を前提にする。つまり、部屋の端っこに跳んで【絶対領域】の中にボスは入れない」
「なるほど。いいわね。今は使用回数的にそれでダメならやり直す余裕があるのね」
全員の頭の中にこのパーティーでの戦術が浸透してきているのを感じる。俺が考えなくてもそれぞれの頭の中でいろいろなパターンが生まれてきているだろう。自分を生かす方向でどんどん意見が欲しい。
「うん。いいぞ園子。俺は全体を見ることは出来るかもしれないけど、みんなそれぞれ自分を活かす方法を考えてどんどん意見をくれ。そういう視点の意見は俺には無い発想を生むと思うんだ。遠慮はなしだ。もちろん、他の人を活かす方法も歓迎する」
みんなの目が自信にあふれ輝きを増した気がする。
「よし、行こう」
ボス部屋の前に行くとちょうど前のパーティーがドアを開けるところだった。
「あっ」
俺たちに気が付くと若いそのパーティーに緊張が走った。二十歳にはまだなっていなさそうな連中だった。男四人に女ひとりだ。
「やあ。こんにちは。ここで待ってるからゆっくり行ってきていいよ」
「兄ちゃんたち、キバりやー!」
「うっす、あざっす」
葵のお陰で俺たちが友好的なパーティーだと思われたみたいだ。頭を下げて入っていった。扉が閉まると手を合わせるセンサー部分が赤く光った。




