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最弱スキル【地図】が【こうしえん】になった!? - 高度戦術支援地図で最強クランに成り上がれ!  作者: 秋乃せつな


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第52話 ホブ

 寅吉さんの有給が今日までなので三日連続の横浜みなとみらいダンジョン。ボス討伐は大事だが、宝箱回収を差し置いてまで優先するほどではない。俺たちは金を稼ぐためにダンジョンに潜っている。今のところ隠し部屋とランダム出現の宝箱回収でとんでもないペースで稼いでいる。


 ただし! 階層が深くなればそれだけアイテムの単価も上がる。今稼いでいる額は、今の俺たちには大金だが、この先もそうとは限らない。昨日の夜のデブリーフィングで、みなとみらいのあとはボス戦攻略をメインに進めようと決めた。


 ここまでの稼ぎで当面の充分な生活費が稼げているのが大きい。俺も彼女たちも派手な買い物に興味が無く、生活のペースが合うのは僥倖(ぎょうこう)だと思う。


 昨日、今日は朝練無しで早めのダンジョン攻略だ。朝八時ちょうどにホール到着。香流にマジックポーションを二本渡す。香流はベルトに専用のポーチを追加装備していて、そこに大事そうにしまった。準備運動とストレッチでレベルアップを身体と精神に馴染ませる。


「朝早いのに結構、人おるんやな」


「みんな考えることは同じってことなんだろうな」


 おそらく下層の屋外フィールドでの狩りが目的の中堅冒険者たちだ。みんな良い装備をしている。昼以降に来るナンパ目的の冒険者モドキとは雰囲気が違う。ただ、俺たちの個人装備は定価ベースではすでに数百万円掛かってる。向こうからしたら俺たちこそ上級者に見えているだろう。


 冒険者が少ない方が宝箱を見つける確率は上がるはずだが、第四階層まで何事もなく到達。ここはゴブリンとコボルトの混成部隊が出現する。


 ゴブリンは緑色っぽい肌色のとんがった耳、鉤鼻(かぎばな)をした小学生ぐらいの身長の邪悪なモンスターだ。


 コボルトは犬とキツネを足したような雰囲気の獣人で、全身が灰色や黒っぽい毛で覆われている。ゴブリンより少し大柄で力も強い。


「ここはゴブリンとコボルトの混成部隊だ。ゴブリンが弓を持つパターンもあるから注意」


 思考の中で全員から『了解』のテキストが来る。


 地図を見ると、上りと下りの階段を結ぶルートにしか冒険者はおらず、あちこちにモンスターがいた。クズ魔石しか取れないのでわざわざ狩る必要もない。


 下りの階段まで半分の距離を進んだところで地図に点滅反応が現れた! 寅吉さんが咄嗟に宝箱の方向に進路変更。


『そのまま進行してください。ルート任せます』


寅吉:了解。蹴散らす。


 寅吉さんがジョギング程度に走り出す。太刀を抜いているので後続は五メートルほど距離を取りつつ追跡する。


 寅吉さんは途中のモンスターを完全無視して最短ルートを要求。リクエストに応えてルートをハイライト表示。距離にして百五十メートルほどだ。


 前方に三匹のモンスター。


『コボルト一匹、ゴブリン二匹です』


寅吉:了解


 武装まではわからない。最後の角を曲がる直前に寅吉さんが加速した。慌てて追いかけると後ろ向きに歩くモンスターたちに無言のまま肉薄する寅吉さんの背中が見えた。


 事件は起きなかった。足音もなく肉薄すると、そのまま三匹の首を落として終了した。


『宝箱にトラップなし! 開けて中を確保してください! マネージャー、俺と魔石拾いよろしく』


 全員から了解のテキスト。園子が魔石の近くで全周警戒。他の三人はそのまま走っていった。


 俺は園子に向かって声を掛ける。


「そのまま警戒よろしく」


「任せて」


 目視と地図による警戒体制に入る園子。俺はメッセンジャーバッグのフタを開けながら急いで三個の魔石を拾う。三個目を拾いながら声を掛ける。


「回収完了、ゴーゴーゴー」


 園子が無言で走り出す。地図上ではまたしても寅吉さんがモンスターと会敵しているところだったが、一瞬で通り過ぎていた。


『魔石は俺が回収して行きます。宝箱優先でよろしく』


 三人から了解のテキスト。そしてあっさりと全てのアイテムを回収。


 俺と園子がみんなに追いついた時、寅吉さんが左手にナイフを握っていた。


「普通のナイフに見えるね」


 小刀というには短めのナイフだった。鞘は無しの抜き身のまま。


「一応、エンチャントが付いてますね。硬質化と切れ味が上がってるみたいです」


 園子がナイフを受け取って、角度を変えながらまじまじと見ている。


「特殊効果が無くて付与がその二点だけならまあ、二十万円ぐらいかしら」


 マジックバッグに入れながら言った。


「ちぇー。そんなもんかいな」


「お? 言うようになったな。これひとつで俺たち全員日給四万円ほどだぞ?」


「おー、せやな。それでも大金やな。あかん、調子乗ってたわ。堪忍やで」


 奥歯を噛んで本気で反省してそうだった。何かを思い出したのかもしれない。これがあるから葵は信頼出来る。ヘルメットを軽く叩く。


「お前は大丈夫だ。そのままでいい。さて、今日の稼ぎとしては悪くないのでこのまま帰ってもいいのですがどうします?」


「ふふふふ。そうですね。毎日すぐに仕事が終わって美味しいものを食べ過ぎてしまっていますからね。もう少し運動したいところでしょうか」


「なるほど。その心掛けがクローザーの美の秘訣か。では、そのようにしましょうお姫様。行軍開始。ゴーゴー」


 駆け足で階下に向かう冒険者に混ざってボスのいる第五階層に到達。


 ここのボスは部屋でじっとしているのではなく、ダンジョン内を徘徊しているパターンだ。


 脇道にそれて作戦会議。


「来る時の車内などで何回も話しているけど確認を。ボスはホブゴブリン。身長は百五十センチほど。護衛としてゴブリンが複数体。弓持ちがいるかも。今いるかな」


 ホブゴブリン検索、オン。赤点の点滅を確認。


『いるね。最短会敵ルート検索、ハイライト』


 どうやっても三回も途中にモンスターがいる。ホブゴブリンは魔石を拾っても千円ちょいだ。労力に見合わないのでわざわざ狩る連中もいない。ただ、目の前にいたら倒されてしまうので、リポップまでの時間がもったいないから早く倒したい。


『寅吉さん、最短でいいですよね』


「任せてくれ」


 余裕の表情だ。とても楽しそう。


「了解、任せます。いきましょう」


 寅吉さんが走り出した。例によって間を開けて付いていく。


 俺は寅吉さんにだけ遠話を飛ばす。


『寅吉さん、ボスなのですが、周りに他の冒険者がいなかったら葵にやらせたいです』


『そうだな。ボスで出来なかった場合は別の場所で試そう』


 最初の雑魚敵との会敵だ。敵は三体。寅吉さんが突っ込むのに合わせて角を曲がった瞬間、後方にいたゴブリンアーチャーが弓を射った!


 放たれた矢は寅吉さんの刃の届かないところから香流に向かって一直線に飛んで来た。【絶対領域】の展開を予想した瞬間。


カッ。


 香流がラージシールドであっさり防いだ。その瞬間、寅吉さんがアーチャーゴブリンの首を落としていた。


 寅吉さんが振り返る。


「大丈夫だったか」


「おー、クローザーはんが盾でカンって落としてたで。よゆーやったな」


「ほう? スキルなしで防いだのか。それは素晴らしいな。小言のようで申し訳ないが、少しでも疑念のある時は遠慮無く使うんだ。一番怖いのは温存し過ぎて機を失うことだ。それは慢心や油断と同義になってしまう」


「はい。肝に銘じておきます」


 デブリーフィングの間に俺と葵とで魔石拾い完了。


「お待たせ。次よろしく」


 寅吉さんがうなずくと走り出した。


 残り二度の会敵も寅吉さんがあっさり討伐。レベル六十五の前衛にはこんな浅い階層は準備運動にもならない。


 ホブゴブリンの会敵直前の角の手前で寅吉さんが立ち止まって葵を見る。真剣な表情だ。周りに冒険者はいない。このままボスが進むと、もう直ぐ小部屋に入る。


 命令を下すのはリーダーの俺の役目だ。


「よし。ここで俺たちの通常のボス攻略の手順でいこう。小部屋に入ったらエースが燃やす。クローザーがバリアだ。いいな?」


 このまま寅吉さんが討伐するものだと思っていたメンバーは最初はキョトンとしていた。


 あの無法者を(ほふ)った日以来の地獄炎(ゲヘナ)だ。


 全員が俺の言った意味を理解したはずだ。みんなの顔に決意が見える。ここでダメだとこのあとの全てがダメになる。これは踏み絵であり試金石だ。


 葵の目を見るとそっと目を閉じ、ゆっくりと息を吸った。瞼が開くと何も言わずにうなずいた。うなずき返してヘルメットを二回叩く。葵の右手を左手で握った。力を込めて握り返してきた。こんなに小さな手で。お互いに身体強化が入っているはずだったけど、弱いなと思った。


 先頭は寅吉さん。香流と園子が並ぶ。本来は園子の位置に葵だが、誰も何も言わない。試されているのは葵だ。燃やせるか、燃やせないか。それはこの先も一緒に暮らせるか、暮らせないかと同義だった。


 グローブの中の小さな手が白くなるほど力が入っているのを感じる。


 左下を見ると緊張して前方を見つめる女の子がいた。


(あおい)


 葵の顔を見たまま遠話で話し掛ける。葵がふっと俺を見上げた。


『燃やせ!』


 葵が目を見開いて力強く頷いた。


「ゴーゴーゴー!」


 声に出して叫ぶ! 寅吉さんが無言で走って小部屋に飛び込んで数メートルで立ち止まる。刀は青眼の構え。パーティーが一塊になるのとボスパーティーが振り向き、二体のゴブリンアーチャーが弓を引き絞るのが見えた。


「燃えろっ!」


 ボスの足元が青白く輝いたと思った瞬間にはシャボン玉の中にいた。葵の手には力が入りっぱなしだ。


 虹色の透明の向こう側は地獄だ。ゲヘナの炎に焼かれるモンスターたち。出口に向かおうとするもの、こちらを襲おうとするものが、すぐに倒れてのたうち回る。身体にまとわりつく青白い炎を消そうとしているのだ。すぐに動かなくなり姿が消えた。


『葵! ストップだ!』


 左手は握ったまま空いてる右手で青の左肩を掴んで身を屈めて瞳を正面から覗き込む。


「葵、スキルを止めてくれ」


 葵がその大きな瞳でパチパチと瞬きした。


「葵、炎を消してくれ」


 フッとシャボン玉の外の景色がはっきり見えるようになった。炎が消えた。


 繋がった左手を葵の目の前に出すと慌てて離した。


「兄いやんごめん! (いた)なかった?」


「ははっ。葵の小さい手でいくら握られたって痛くなるわけないだろ」


「むかっ。なんやとー。ウチそんなヤワやないでー」


「そうか?」


 そう言って抱き寄せてハグして、すぐに背中を両手で二度叩く。上からヘルメットを右手で触る。


「だいぶ柔らかいけどな」


「あー! 兄いやんにセクハラされてもたー!」


 みんなを振り返りながら葵の右肩に手を回して引き寄せると葵が嬉しそうに大声で笑いながらしがみついてきた。


「あらあら。ずいぶんと楽しそうなセクハラですね」


「まぁね。それぐらいのセクハラならスキンシップの範囲に認めてあげるわ」


「お? ほな、姉さんたちも一緒にセクハラしよやー」


 そう言うと葵は園子と香流の元に行って三人で抱き合った。それを楽しそうに見ながら寅吉さんが葵の落とした槍を拾う。


「良いパーティーになったな」


「貴方のお陰でもあります」


 そう言うと驚いたように俺を見てから、少し照れたように彼女たちに視線を戻した。


「おーい。槍、忘れてるぞ」


 園子に頭を叩かれながら葵が笑顔で槍を受け取った。

【パーティー名:Renegades(レネゲイズ)

L:星名千里(ほしなせんり):SEN(Lv12)【高度戦術支援地図】Lv.1/5(Exp.4/5)

2:寅吉勝利(とらよしかつとし):タイガー(Lv.65)【剣術】

3:岩沙香流(いわさかなれ):クローザー(Lv18)【絶対領域】3/4/Day

4:西宮園子(にしのみやそのこ):マネージャー(Lv14)【瞬間移動(テレポート)】4/4/Day

5:川下葵(かわしたあおい):エース(Lv11→12)【範囲攻撃魔法】3/4/Day

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