第48話 こんな日もある
隠し部屋のある部屋に飛び込む。洞窟タイプのダンジョンの小部屋は扉がない。隠れて覗かれてもなかなか気付けないが【こうしえん】があれば不意打ちを喰らう心配もない。有能すぎる!
『宝箱検索、オン』
【宝箱(20g 金貨x 10枚)】
全員が顔を見合わせる。二十グラムの金貨ってどんなんだ?
『宝箱、罠検索、オン』
【ダンジョン対角にあるスイッチを押すと一分間扉が開く】
ダンジョン対角のスイッチ? 地図上の対角、左右反対側の部屋の壁にスイッチがあるらしく点滅を始めた。くそ! パーティーを二分しなければならない。それと洞窟のスイッチとはなんだ。
「どうしようか」
「ここと同じような部屋が反対側にあるんだね?」
「そこの壁にあたる部分にスイッチがあると。だけど、ダンジョン発生以来見つかっていいないだろうスイッチです」
「ふむ。こんなデコボコの岩壁にスイッチか」
「自然な感じで見ただけでは、スイッチに見えないってことね」
「石畳の時は大きさが違ってたからなぁ。あれでも見つけやすい方だったのか」
「とりあえず行ってみないとよね」
「うーん。試しに押しても当たりだったら扉が開いてしまうんだよな。しかも開いたかどうかはわからない。園子、ちなみに二十グラムの金貨の買取っていくらぐらいなのかわかる?」
「現在の金の相場でしたらグラムあたり二万五千円ぐらいですね」
香流が答えてくれた。
「えーと、二十グラムが十枚、二百グラムだから、五百万円か」
「また?!」
「いや、葵、それはそう。どうなってるんだこれ」
ダンジョンに潜る度に数百万円稼いでいる。
「それは単純に貴金属のゴールドとしての価値ね。ダンジョン産のホンモノの金、そして誰がデザインしたのかもわからないコイン。ここで希少価値が出るわ。実際には金相場よりもコレクターズアイテムとして価値が高くなるわね」
「そしてまぁ、過去の事例からいっても隠し部屋の宝箱の中身といえばこういう価格になるだろう。ダンジョン発生から二十年、隠し部屋の数そのものが想定よりも多いということだな。そして隠し部屋のほとんどはまだ見つかっていないということだ。【高度戦術支援地図】が全てを白日の下に曝け出してしまう」
「そうね。全部見えてしまうんですものね」
「これがまだ浅階層、地上に近い部分の階層のみの実態というのが末恐ろしいですわね」
実にいい笑顔の香流。
「とりあえず五百万円の仕事が出来ました。じっくりいきましょう。一度、全員でスイッチのある場所を確認しましょうか。どうやって行こうかな。いっそのこと跳ぶか?」
「今日は三回跳べるわ」
「うん。そしてこの仕事も今日一日で片付かなくてもいいと思う。よし、安全策で跳んで行きましょう。ここはとにかく邪魔が多い。みんな、どうだろう」
全員が賛成してくれたので地図を見ながらタイミングを計って【瞬間移動】。
「いくわよ。スリー、ツー、ワン、ゴー」
ビジュアルエフェクトが無い移動なので声を出してもらわないとパニックを起こしそうになる。
「ふぅ。まわりの景色が何も変わらないから移動したことがさっぱりわからんね」
ダンジョンに慣れ親しんでいる寅吉さんが俺のスキルの効能含めて一番驚いているし、その価値を理解していると思う。俺はこのパーティーの能力がデフォルトになりつつあった。
「さて、今のところ、ここに向かって来る者はなし。急ぎます。えーと、地図によるとこの壁です。みんな、怪しいところがあっても触れないでおこう」
「せやな。向こうでドア開いてもうたら大変やもんな」
園子はヘルメットカメラだけでは足りないのかスマホを取り出して写真と動画も撮影していた。
「扉スイッチの場所はどこだ?」
声に出したが、これは【こうしえん】に向けての指示だ。
【壁上部の岩石に偽装】
「寅吉さん、これを」
そう言って俺の長い槍を渡す。
「寅吉さん以外はちょっとこっちに来て、壁から離れて」
全員が俺の意図を汲んで集合する。寅良さんだけが壁に近寄る。地図の現在地と見比べて動く。
「そこやな」
寅吉さんが壁を見上げている。葵と香流が寅吉さんの側に行って一緒に壁を眺める。
「うーん。わっからへんなぁ」
「カモフラージュしてるんですものね。見てもわかりませんよね」
三人の後ろ姿を少し離れたところから園子と見ている。
「上の方だろ? 園子、何か気になるところあるか?」
「そうね。千里、地図を寅吉さんのあたりをもっとズームしてくれる?」
言われた通り壁と寅吉さんの部分をグっとズームアップしていく。
「もっと。もっと。もっと。ストップ」
全員が地図を見ていた。寅良さんが右に動いて止まった。
「ココか!」
寅吉さんが唸る。ズームしまくった地図上で寅吉さんの目の前のどこかにあることがわかった。園子が写真と動画を撮影する。
撮影に満足すると声を掛けてきた。
「さて、どうする? 今の位置であることは間違いなさそうよ」
全員に聞こえるように遠話に切り替える。
『寅吉さん、今の位置で間違いなさそうです。さて、その目の前の壁を適当にぶっ叩いてみるかどうかです』
タイガー:槍で叩いてスイッチが入るかどうかわからないな。
『そうですね。前に石突で叩いた時は組んだ石の壁で、明確にポジションがわかっていたので目一杯叩くことが出来たんですよね。ここのスイッチが力の必要なものかどうかまではわかりません』
香流が手招きをしているので園子と近付く。
「とりあえず一回やってみよう。力がいらない本当に押すだけのスイッチの可能性もあるから」
「なるほど。で、どうやるね?」
「寅吉さんにここにひとり残ってもらって四人で向こうに跳びます。で、寅吉さんに石突で壁を押してもらいます。開いたら回収。開かなくてもその後、全員で第一階層に跳んで撤収です」
「ふむ。他の冒険者のタイミングさえ合えばそれでいけそうだね」
寅吉さんをひとりにすることが懸念といえば懸念だ。
「もし我々が跳んだあとに遠話や【こうしえん】が途切れたら真っすぐ脱出してください。ロビーで集合にしましょう」
「承知した」
「扉が開いたら一分が勝負だ。金貨がどういう形で入っているかわからないな。まぁ、二十枚底に並んでると仮定しよう。慌てて拾って傷は付けたくない。一グラム削れるだけで価値が下がる」
リュックを降ろして口を開けて地面に置く。
「こうして宝箱の前に置くか。で、葵。一緒に拾ってくれ」
「おりょ? よっしゃ!」
「左右に分かれてこう、拾ってリュックの中に入れる。今回はマジックバックは使い辛いし、三人入るのは無理だろうからな。作業は十秒前には終了だ。例え底に金貨が残っていようとその時点で脱出する。これは絶対だ。いいな?」
「うん、わかった」
「香流、タイムキーパーをよろしく。扉が開き始めたらストップウォッチスタートだ。十秒経過ごとに教えてくれ。四十秒経過からは十秒のカウントダウンでよろしく。出る時は葵が先だ。リュックは俺が持って後追いだ。いいな。葵が先に出ないと俺が逃げ遅れるからな?」
これで絶対に時間通り行動するだろう。
「うん。わかった」
「地図は緊急脱出い備えて第三階層のままにしておく。園子と寅吉さんは接近者に留意。園子は第三階層の緊急脱出地点を確保よろしく」
地図は俺が見ているもを共有している。第三階層の地図を表示している時は他の階層への【瞬間移動】は出来ない。
「みんなからは何かある?」
「ふふふ。そこまで想定されたら何もありません。寅吉さんはおひとりなのでご注意を」
「うむ。そのつもりでいよう」
その場で何回か葵と練習をした。
「よし。四十秒は意外と時間があるな。たかが二十枚だ。慌てることはない」
予行演習をしたことで自信が付いた。葵も緊張はなさそうだ。やっぱりブリーフィング、デブリーフィングは大事なんだなぁ。
最後に寅吉さんの位置を再確認。石突で押す場所は俺と葵がシミュレーションしている間に想定済みだ。
「では、寅吉さん、またあとで」
「うむ」
「園子、【瞬間移動】レディ。さん、にー、いち、ごー」
さっきいた場所にいることを地図で確認。寅吉さんがいないことで不安に襲われる。
『寅吉さん、聞こえますか』
タイガー:問題ない
「おお~」
葵から思わず声が漏れる。園子と香流の顔にも安堵が広がる。地図上に寅吉さんの青い光点がる。
葵と壁の前に立つ。
『誰か来る前にやってしまいましょう。こちら準備完了。全員、打ち合わせ通りに。では、寅吉さん、お願いします』
タイガー:了解。スタート
『今押しているが手応えは無いな。ただの壁だ』
俺にしか聞こえてない。
「寅吉さんから遠話だ。押しているが手応えなしだそうだ。触れるだけのスイッチの可能性もある。集中しよう」
『うーむ。かなり広範囲をチェックしたがダメみたいだね。ダブルチェックで最低二階は押してみたが反応は無いな。おっと、誰か来るか?』
地図を見るとたしかに寅吉さんのいる部屋に向かってそうな光点の集団があった。
『作戦中止! 園子! 任せた!』
そう言いながら地図を第一階層に変更。ホールの近くにズーム。
次の瞬間、洞窟の部屋の中にいた。ぐるりと周りを見ながら人数を確認。五まで数えてホッとする。みんなに頷きながら地図で現在地を確認するとホール近くの部屋の中だった。
「クールダウンしたら車の中で検討会ですね」
まぁ、たまにはこんな日もあるだろう。




