表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最弱スキル【地図】が【こうしえん】になった!? - 高度戦術支援地図で最強クランに成り上がれ!  作者: 秋乃せつな


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
42/75

第42話 Lv. UP

 初撃は空振りになった。一瞬肝が冷えたが、葵は冷静に槍を引いて二撃目を放った。


 ガッ!


 しかし、ゴブリンはその穂先もこん棒で払う。思いのほか威力があったのか葵の体勢が外に流れる。そこにゴブリンが追撃のこん棒を落とそうと振りかぶるが、振り下ろされる直前に葵は槍の石突でゴブリンの胸を思い切り突く。


 胸の真ん中を突かれたゴブリンが「ギャッ」と呻いて身体を折りながら(たま)らず二歩、三歩と下がった。ゴブリンの頭が下になって首が見えない。葵は素早く槍を構え直すと石突で突いたのと同じ場所を刃先で貫いた。


 腰の入ったいい突きだった。致命傷ではあったが即死には至らなかったために振りかぶったこん棒がそのまま葵に向かって振り下ろされる。葵は咄嗟に左腕を上げた。


 ゴガッ!


 葵の左腕に装着されたスモールシールドにこん棒が打ち付けられる。葵は体制を崩しながら右手一本で握っていた槍を手放して後方に下がると左の壁に背中が当たって止まった。


 ドガッ!


 疾風が突っ込んできてゴブリンを蹴繰(けたぐ)った! ゴブリンは槍に貫かれたまま三メートルぶっ飛んで地面に転がって消えた。後には槍とこん棒が転がった。


「大丈夫か」


 寅吉さんが葵を振り返った。


「おー、びっくりしたー。んー、大丈夫や。なんともないで」


 寅吉さんが葵の腕や背中などをチェックしている。最後は胸を貫かれながらの打撃だったのでそんなに力は入ってなかっただろう。


「うまく受けたな。左腕と背中は帰っても痛みがあるようなら打ち身だ。湿布を張っておけばいいだろう。攻撃も守備も悪くなかったぞ。反射だけであそこまで動けるのは大したものだ。引っ越したら槍と体術の訓練をしよう。君は強くなれる。いや、君たちは強くなれる。ダンジョン(ここ)ならそれが出来る」


 俺は槍を拾って葵に近付いた。


「エース、左腕はどうだ? 痛みはあるか?」


 葵は左腕を上げたり回したりした。


「なんともないで。痛みも無いわ」


 槍を葵に返す。


「よし、マネージャー、アイテム回収を頼む。他は全周警戒」


 寅吉さんが見ているのと逆方向を見てしゃがむ。園子が魔石を拾ってリュックに入れた。入れ終わると左肩を二度叩いて作業終了を知らせてきた。立ち上がりながら次の指示を出す。


『そろそろ第三階層に移動します。陣形を最初の行軍陣形に戻して並足行軍(なみあしこうぐん)。途中で階下へ移動する他の冒険者と合流予定。では、ゴー』


 移動中、葵の行動を観察した。異常は見られない。ゴブリンを倒すことに抵抗や拒否反応は無さそうだ。その時、自分も何も感じずにゴブリンを倒せることを自覚した。他人ばかり見て自分が見えていないと反省。


 第三階層を目指す冒険者の列にタイミングを見て合流。階段を降りて第三階層に到着。ここも第一、第二階層と同じ石畳だ。


 切り出された白っぽい石が隙間なく上下左右に敷き詰められている。地図が無いと自分がどこにいるのかわからなくなりそうだ。


 相変わらずどこに光源があるのかわからないが紙に書いたメモが読めそうなぐらいには明るい。


 目標を設定して最後尾を歩く。唐突にずっと感じていた違和感の正体に気付いた。影がないのだ。なんとなく足元がフワフワとして浮遊感を感じる。余計なことを考えるな!


 敵の居ない石室のひとつに入る。部屋の真ん中で防御陣形。努めて冷静に指示出しをする。


『みんな、疲れはないか。三階層の地図確認の間に水分補給しよう』


 リュックを降ろしてマジックバッグから冷えた水のペットボトルを取り出す。葵にキャップを外して渡すと凄い勢いで飲んだ。途中で水分補給を入れてやればよかったと後悔する。葵と園子のリュックのサイドポケットに小さめの水のペットボトルを突っ込む。


「小さめのやつを入れておこう。好きなタイミングで補給してくれ。タイガーとクローザーはアーマーのやつを飲んでるんだよね?」


「はい。ハイドレーションパックが付いているので大丈夫です」


 襟首の辺りから引き出したストローが見えた。


「容量が少なくなったら早めに補給申請してくれ」


「すまなかったな。もう少しこまめに休憩すべきだった」


「いや、俺の判断ミスです。あまりに順調過ぎて知らぬ間に調子に乗ってたようです」


 自然と葵に視線が向いた。


「およ? それってウチのこと?」


「おう、そうだ。俺も寅吉さんも快進撃過ぎて止めるの忘れてたんだ。悪かったな」


 俺も水を(あお)った。冷水が美味かった。


「ほえー。ウチ、けっこうイケてたんか」


「うむ。前回のでレベルが一気に上がったからな。自分でもわかるのではないかね? 今までの自分とは比べ物にならないぐらい強くなっているだろう?」


「うん。せやねん。槍とか足とかめっちゃ軽いわ」


「だがな、相手もまたここに住むものだ。自分のことしか見てないと思わぬ反撃を喰らうことになる。二手、三手と先を想像するんだ。最悪の事態もな。逃げ道はいつでも確保しておくものだ」


「ふんふん。おっちゃんが言うんやから間違いないな。覚えとくわ」


「よし、水分補給いいな。残った水が邪魔な人はリュックに入れてくれ」


 自分のと一緒に園子と葵のペットボトルも受け取って収納する。葵も疲れてそうだし、この階層に宝箱が無かったらこのままこの部屋でボス用の模擬戦をして帰った方がよさそうだな。


「今日はこの階層までにしておこう。葵、このあとすぐ階層(また)ぎのテレポート込みでボス戦のテストをするから、先に杖を渡しておくわ。ベルトにでも差しておいてくれ」


「ん? んー、わかった」


「よし、じゃあ宝箱を検索、オン」


「あった!」


 葵が声を上げて慌てて口に手を当てた。その動きが可愛く思えて頬が緩む。


『宝箱内、検索』


【宝箱(魔鉄鋼 25Kg)】


 なんだこりゃ。素材か?


『急げ!』


 寅吉さんから遠話だ!


『最短非会敵ルート検索、ゴーゴーゴー!』


 寅吉さんが走り出した! ハイライトされた道を迷いなく突っ走る! 全員が慌てて走り出す。これはもう早い者勝ちだ。地図を見ると宝箱に辿り着くかもしれないルートを進む冒険者パーティーがいた。寅吉さんもそれが気になったのだろう。


『タイガー! 先行を許可します! 確保よろしく!』


『了解!』


 寅吉さんが加速して徐々に引き離される。返事はテキストではなく遠話だった。


『こちらはこのままの速度で問題ない。これでも誰よりも先に着ける』


 移動しながら宝箱の情報を検索。


『宝箱、罠検索。なし。寅吉さん、たぶん宝箱は開けても大丈夫です。誰か来そうなら中身確保まで任せます』


『了解!』


 地図上で赤点滅。リポップ警報だ! 場所は宝箱の先!


『タイガー、宝箱の先でリポップ発生! 当フロアは曲刀を持ったコボルトのはずです!』


タイガー:了解


 テキストで返信したということは余裕があるということだ。地図を脳裏に浮かべたまま走る。コボルトは宝箱の先、十メートルの位置にリポップした。寅吉さんが最後の角を曲がる。速度を緩めることなく宝箱を通り過ぎる。コボルトの光点と寅吉さんが重なったのも一瞬でそのまま青い光点が通り過ぎる。動かなかった赤い光点が緑になって消えた。青い光点がコボルトがいた場所まで戻って止まった。コボルトの魔石を拾っているのだろう。


 俺たちも最後の角を曲がって宝箱に急ぐ。


『寅吉さん、そのままそっちで警戒お願いします。他のみんなは手前で待機。俺がこのまま開けます』


 近くにいた冒険者たちが寅吉さんの先の交差点に現れるルートに入った。距離は二十メートルだ。思ったより近い。宝箱の前に飛び込んで確認する。蝶番(ちょうつがい)がある。


「開けます!」


 蝶番(ちょうつがい)を回す。ロックが外れた。ヒンジを引っ張り上げてロック解除。ああ、そうか、聖銀を確保した時の感覚か。そんなことを思い出しつつ宝箱のフタを開ける。中を覗き込むと丸い鉄の塊のようなものがたくさんある。全体に小さいなトゲトゲのようなデコボコした鉄球だ。手に刺さるような鋭さはない。


 口を開けたリュックを左手で持って、そこに向かって右手で拾った鉄球をポイポイと放り込む。全部で二十五個あった。余裕で間にあったな、と思いながら宝箱から離れる。


「アイテム確保完了! 寅吉さん、下がっていいです引き続き警戒よろしく」


「おっけーい」


 近くで葵が声を出した。寅吉さんが左手を腰の太刀に添えて仁王立ちになった。


「おっとっとー。宝箱じゃね?」

「あ? 先客かぁ?」

「ありゃ。もう開いてんじゃん」

「おほ! 女だ! いいねー!」


 ズカズカと近付いて来る五人組の冒険者。とりあえず無視してリュックの口をロックして立ち上がりながら背負う。マジックバッグへの収納なのでリュックの重さは変わらない。


 バガンッ!


 俺は立ち上がると同時に宝箱のフタを左足で蹴って乱暴に閉じた。ショートバスタードソードを抜いて閉じた宝箱の上に左足を乗せる。左腕のスクエアシールドをスライドさせて戦闘モードにしてから右手に握ったソードの剥き身の刀身を右肩に乗せてニヤニヤ顔の五人組を首を傾けて見下す。


 誰も何もしゃべらない。この隙に【こうしえん】で五人組の情報を確かめる。


『えーと、どう見てもチンピラのこいつらは、歳が二十三から二十七。レベルは下が三十二、上が四十です。どう見てもこの階層をうろついてていい奴らじゃないですね。妙にレベルが高い。『初狩(しょが)り』っぽいですね。園子、第一階層のホール近くの無人エリアに【瞬間移動(テレポート)】の準備。三人はその場を動かないように。いざとなったら香流(かなれ)も【絶対領域】を使って。寅吉さん、こいつらどうします?』


タイガー:ちょっと余罪ありそうなんで突っつきます。


 寅吉さんが五人組にズイっと一歩踏み出す。その瞬間、後ろの三人が俺に近付いた。香流(かなれ)の【絶対領域】の範囲に俺を入れるためだ。


マネージャー:いつでもテレポートいけます。


 寅吉さんが無造作に進んで五人組の目の前に立つ。視界外の場所へのテレポートは極秘スペックだ。こういう輩の前で軽々しく使うわけにはいかない。


「お前たちなんだ? 喧嘩はもう買ったからな。逃げるなよ。動いても殺すからな」


 左手は腰に差した剣に添えているが右手はダランと下がったままだ。


 五人組のスキルを調べる。


『一番左が炎の魔法使いです。他は剣ふたり、槍ふたりです』


タイガー:了解


「なんだぁ? おっさんじゃねーか」

「お父さ~ん。ぎゃははは」

「おお、すっげー女だらけだぜ!」

「ひゃっはっはっは! お父さん! 娘さんをボクちんがいただきま」

ゴッバッ!


 馬鹿なことを言い掛けた魔法使いが、並んで立ってた杭が一本だけ抜けるようにその場から消えた。


 寅吉さんが右こぶしのストレートをブチ抜いていた。飛んだ魔法使いはピクリとも動いていなかった。一番ヤバい奴が口を開くのを待っていたのかもしれない。あれ、生きてるのかな?


 ダンジョン内で他の冒険者に近付くのはご法度(はっと)だ。ここには法律があって無いようなものだからだ。


 ダンジョン内で死ぬと肉体は消失する。人もモンスターも同じだ。持ち物は残る。ぶっ飛ばされた魔法使いは消えていないからまだ生きてることは間違いない。


 寅吉さんが残りの四人を見渡しながら恫喝(どうかつ)する。


「頭の悪い連中だな。ここは日本人しか入れないはずだが? 最近の日本人の若者ってのは日本語が使えないのか? だったら言葉以外でわからせるしかねーな」


 いや、俺はね、別に事を荒立てるつもりはないよ。でもさ、ウチには女の子が三人もいるからね。彼女たちを守るため、逃げる算段をつける時間稼ぎが必要だ。


 向こうのリーダーっぽいのが叫んだ。


「おっさんよー! なにやってんだこらぁ! やれ!」


 まさか突っかかって来るとは思ってなかったんだよね。向こうも余裕のレベル三十越え、冒険者としてはこれからっていう活きの良さだ。俺ではまったく歯が立たない。


 まず、槍持ち二名が同時に刺し殺す勢いで寅吉さんを突いてきた。慣れた動きだった。


 俺には寅吉さんがどう動いたのか見えなかった。ただ、両方の槍が半ばから飛んで真っ二つになり、目の前の、剣を抜こうとしていた奴が蹴りを入れられて身体を折り畳みながら後ろに飛んでいた。


 そのまま寅吉さんの身体が沈んだと思ったら駒のように回って、おそらく足払いのようなものを見舞った。立っていた三人が勢いよくひっくり返った。


 後には寅吉さんだけが立っていて、ひっくり返ったまま剣を抜こうと鞘に手を当てていた奴の首に、いつ抜いたのかわからない太刀の剣先をピタリと当てていた。


「お前ら、()(がた)いな。全員メットを脱げぇっ!」


 意識の残ってた三人がビクっとするとメットに手を掛けた。寅吉さんは全員のベルトを切ってその場で武装解除させた。脱いだヘルメットは寅吉さんが乱暴に蹴って転がした。三人はヘルメットがドカっと蹴り上げられる度にビクっと身体を強張らせていた。


 一瞬で片が付いた。


 俺たちは近付かない。反撃を喰らえば確実に負けるからだ。後ろの三人に遠話で話し掛ける。


『全員動くな。園子と香流(かなれ)はスキルを使う可能性がまだあるからよろしく』


 俺は落とし前をどうすべきか悩んでいた。こいつら、どう見ても『初心者狩り』だ。いわゆる『初狩(しょが)り』の連中はクズだ。手慣れて躊躇(ちゅうちょ)しなかった様子から初犯とは思えない。ということは過去に若い冒険者たちを(あや)めているはずだ。


 寅吉さんがこちらに後ろ向きに戻ってくる。このままここを離脱するということだろう。


『寅吉さん含めて全員が絶対領域の中に入れる状態で後退する。十字路まで下がったら左手の道に入って視界を切ってから【瞬間移動(テレポート)】で第一階層に戻れるかテストしよう』


エース:りょ

マネージャー:了解

クローザー:了解。

タイガー:了解


 寅吉さんが宝箱を避けるために足元を見た。俺も左足を降ろして剣を鞘に戻してバックする準備に入った。


 その時、視界の隅で何かが動いた気がした。寅吉さんが蹴りを入れて吹っ飛ばした向こうのリーダー格の剣士の上半身が起きていて、こっちに向かって何かを投げたようだった。視界の隅を何かが飛んで来ている。寅吉さんが叫んだ気がした。


ボバァッ!


 天井付近で真っ赤な炎が弾けた。魔法か?


 向こうのリーダーが青白く光るのがわかった。天井で生まれた紅蓮が俺たちを包み込もうとしていた。もうダメだ! その瞬間、虹色の壁がそれを(はば)んだ。


 三メートルの虹色のシャボンの外が真っ赤な炎に覆われ、次の瞬間に青白い炎が全てを上書きした。


 俺は無意識に地図を見た。赤い五つの光点が緑になった。


「園子! テレポート!」


 瞬きすると石畳の通路に居た。ぐるりと見渡して五人いることを確認。生きてる。さっきいた場所との違いは何もない。石畳の通路だ。


 地図を確認。第一階層のホール近くに間違いない。


『よし! 別階層へのテレポートを確認。これで戦術の幅が広がった。みんな、よくやった。今日はここまでで家に帰ろう。お疲れ様!』


 笑顔でみんなの顔を見る。みんなの槍を預かると急いで収納する。


「行きましょう」


 声を掛けると寅吉さんが先頭に立つ。このタイミングでは不適切にも思える美し過ぎる笑顔を浮かべる香流の肩を叩くと寅吉さんに続いて歩き出した。右手で葵の肩を抱いて歩く。園子の右手を左手で掴んで引く。力強く歩く寅吉さんの背中が頼もしい。


 ホールに向かう道に合流する時、脇道から出てくる俺たちに気付いた若い冒険者パーティーがビクッとして止まった。青い顔をしながら後ずさって俺たちを先に行かせた。


 先頭を歩く寅吉さんの顔を見たせいだろう。バイザーはクリアだ。


 自分の足取りが軽くなったことに嫌悪感がある。


 レベルが上がっていた。


【パーティー名:Renegades(レネゲイズ)

L:星名千里(ほしなせんり):SEN(Lv11→12)【高度戦術支援地図】Lv.1/5(Exp.3/5)

2:寅吉勝利(とらよしかつとし):タイガー(Lv.65)【剣術】

3:岩沙香流(いわさかなれ):クローザー(Lv17→18)【絶対領域】2/3/Day

4:西宮園子(にしのみやそのこ):マネージャー(Lv13→14)【瞬間移動(テレポート)】2/3/Day

5:川下葵(かわしたあおい):エース(Lv10→11)【範囲攻撃魔法】2/3/Day

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ