第41話 ゴブリン
【パーティー名:Renegades】
L:星名千里:SEN(Lv11)【高度戦術支援地図】Lv.1/5(3/5)
2:寅吉勝利:タイガー(Lv.65)【剣術】
3:岩沙香流:クローザー(Lv17)【絶対領域】3/3/Day
4:西宮園子:マネージャー(Lv13)【瞬間移動】3/3/Day
5:川下葵:エース(Lv10)【範囲攻撃魔法】3/3/Day
角を曲がった十メートル先にゴブリンがいる。このフロアの敵は基本的に一体だ。たまに敵同士が合流して複数体の時もあるらしい。
香流が壁に背を当て地図上の敵の位置をイメージしているのがわかる。槍を振るうところも脳内でシミュレーションしているだろう。
『クローザー、落ち着いていこう。すぐ後ろにタイガーがいる。遠慮無く交代していい。では、自分のタイミングでアタック』
園子と葵のポジションをチェンジ。葵に戦闘を見せるためだ。リアルのダンジョンの情報を意図的に遮断していた俺よりは、葵も含めてみんなの方がよっぽど知識がある。地図を見ていちいち説明しているのは注意喚起の意味ももちろんあるが、それよりも俺の知識が間違っていないかをみんなに聞いてもらっている部分の方が大きい。
香流と透明なバイザー越しに視線が合う。香流がひとつ頷くと音も無くスルリと壁の向こうに消える。
すぐに寅吉さんが続く。そのあとを追って葵、園子、俺だ。俺は最後尾で香流の姿を追いつつ地図をチェックして他の冒険者やモンスターにも注意を払う。特に危険なのはモンスターのリポップだ。突然目の前にリポップする場合もあるからだ。
視線の先では腰を屈めて音も無くダッシュする香流が見えている。幸いゴブリンは後ろを向いて通路の反対を目指して歩いている。香流は現在レベル十七だ。レベル的にはまだまだひよっこだが、ステータスアップによって地上とは比べ物にならないほど運動能力が向上している。
黒髪を棚引かせる純白の全装甲の後ろ姿が美しい。
一メートルを少し超える程度の身長。背を向けて歩くゴブリンの背後に迫る!
最後までラージシールドの重さを感じさせないまま走り切ると右手に持った短槍を左から右に薙ぎ払った。
ゴブリンの首が転がるのと、万が一の反撃に備えてラージシールドを構えつつ後ろに飛び退るのは同時だった。
即死判定のゴブリンは地面に倒れ伏す前に姿が掻き消えた。
『全員、全周警戒。リポップ、他の冒険者に備えて地図も確認しながらでよろしく。これより魔石を回収する。全員、魔石の近くに移動開始。ゴーゴー』
寅吉さんが命令と同時に頼もしい背中を見せつけるように香流の前に出る。
葵も命令と同時に香流の元へと動き出した。それを見て葵がショックを受けていないようで少し安堵した。続いて園子を注視するが、こちらも躊躇なく歩き出した。
俺は念のため地図を確認しながら背後の交差点に一瞬、顔を出し何もいないことを目視してからみんなの元に急いだ。
全員が警戒態勢を取っている。香流の目を見ながら近付く。
「香流、大丈夫か」
「ええ、大丈夫です。久しぶりですがうまく身体が動いてくれました」
「うん、すごいね。初めて見させてもらったけど、とても安心して見ていられたよ。ご苦労様」
香流の肩をポンポンと叩いて魔石の元へ。
『アイテム回収。エース、頼む』
俺は魔石を通り越したところで背を向けてしゃがむ。
エース:了解
地図で葵が魔石に近付くのがわかる。俺の光点とほぼ重なると背中のリュックを開けて魔石を入れる動きを感じる。スムーズに魔石を収納し終わると、リュックのロックをハメるカチっという音が聞こえた。手は震えていないみたいだ。
「エース、どうだった?」
「んー、すごかったな。一瞬だったからようわからんな」
「そうだな。後ろからだったしな。エースもレベル十一だし、同じことが出来るよ」
『次はマネージャー、やってみる?』
マネージャー:任せて
園子の顔を見ると微笑んでいた。余裕がありそうだな。地図を確認。次のゴブリンを点滅。道をハイライト表示。思い付きで一旦、ハイライト表示をオフ。寅吉さんが俺を振り返る。それに合わせてみんなの視線が集まる。
あらためて地図を注視。赤点滅を意識して《他の冒険者、モンスターに会わない最短ルートは?》と、念じる。すかさずルートがハイライト表示になる。寅吉さんが俺の声を待っている。
『今、地図の方で会敵しないルート検索をさせてみたところです。途中で変更になるかもしれないので、そのあたりも注意して進んでみてください。それでは行軍陣形に戻して、ゴーゴー』
寅吉さんが頷いて駆け足程度で進み始めた。
『マネージャーは会敵したら自由意志で攻撃開始してください』
マネージャー:了解
近付く時には地図でゴブリンが立ち止まっていることがわかった。これだとゴブリンがどっちを向いているかはわからない。だが、寅吉さんが角の手前で立ち止まると、園子は一瞬も止まることなくそのまま速度を上げて寅吉さんを追い越して角を曲がった。
寅吉さんは予め予想していたかのように間髪入れずぴたりと園子の後をトレースする。慌てて葵が後を追って角を曲がる。
俺も香流に続いて角を曲がって先を見ると、こちらに向かってこん棒を振り上げるゴブリンに園子が正面から槍を突き出すところだった。
園子の突き出した槍はゴブリンの顎下のど真ん中から首の後ろへと貫通していた。
身体をフェンシングのように横に向けて、敵に晒す面積を最小にしているのがわかった。突き出した右手と槍が一本化しているフィニッシュが美しい。ゴブリンはこん棒を振り下ろす間もなく絶命して消えた。
ためらいなく人型モンスターを屠った。ウチの女の子たち、強い。
『マネージャー、お疲れ様。とても美しかった。参考になったよ』
寅吉さんはすでに園子の前に出て前方警戒位置にいた。香流と葵も現場に駆け付ける。途中、チラと香流が俺を見た。後方確認だろう。
『セーフティなのでこのまま回収開始。エースよろしく』
エース:りょ
魔石の側でしゃがむ。先ほどと同じくエースがリュックを開けて収納作業。やはりこういうものは数をこなすことが大事だな。先ほどより作業がスムーズに感じる。
「エース、どうだ。やれそうか」
「うん、わかった。やってみたいわ」
この時点で嫌だと言えるわけもないのは言ってる俺もみんなもわかっている。
「うーん。俺もまだやったことないからやっぱり俺が先にやらせてもらってもいいかな?」
そう言うと葵がキョトンとした。気勢が削がれたって感じか。
「まぁ、しゃーないな。先譲ったるわ」
笑顔でそう言えたのなら少しは緊張が解けたかな。
角を二つ曲がった先にゴブリンがいる。近い。幸い、冒険者は少なくバッティングしそうにない。
その時、赤い点滅があった。今見ている光点のすぐ横、リポップだ。ゴブリンが二体になった。さて、どうするか。
「兄やん、一緒にやろや」
葵の顔が目の前にあった。
『よし、やろう。俺が右、エースが左。復唱』
『ウチが左!』
『よし、いいぞ。二体ともこっちに向かってる。正面から攻撃だ。こっちも二人並んでるからな。武器を横に振るとお互い怪我の元だ。突きでいくぞ』
『左の敵を突く』
『そうだ。落ち着いていこう。ポーションも三本あるしな! タイガー、先導頼む。直後を俺とエースで着いていく。後方、ふたり並列でよろしく。ゴーゴーゴー!』
寅吉さんが駆け出す。余裕そうだが速度的にはドアが閉まりかけの終電に向かってダッシュする若手のサラリーマンぐらいの速さはある。
タイガー:このまま角を曲がる。左右から追い越せ!
おもしろい!
エース:りょ!
セン:了解!
寅吉さんが角を曲がって駆け込む!
「ごああああああっ!」
角を曲がった瞬間に寅吉さんが吠えた! ゴブリンたちがビクっとなって動きを止めるのがわかった。速度を緩めた寅吉さんの右を抜ける。地図と視界の端で葵が走っているのがわかる。槍を両手で引いている。葵と速度を合わせて突っ込む!
右のゴブリンの目線に対してショートバスタードソードを正面に構える。向こうからはこちらの剣の長さがわからないはずだ。全ての動きがスローモーションに感じる。ああ、俺の身体能力、上がってるんだなぁ。胴に刺すと抜く手間が発生する。すぐに次の攻撃が出来るように狙いは首だ。ゴブリンが小刀を振りかぶろうとしていた。ダメだよ。それは腰だめにして突く武器だぞ。横目で葵が槍を突き出し始めたのが見えた。よし、いいぞ。俺はまだだ。俺の方がリーチが短いから。今だ!
突き出した切っ先が何の抵抗もなくゴブリンの首を通過した。急ブレーキを掛けて追撃に備えて剣を引く。俺の刺したゴブリンは反応が無い。葵の方のゴブリンを見ると喉に槍が刺さって突き抜けていた。その距離なら葵まで武器は届かないだろう。突き抜けた槍が戻っていく。俺は自分の担当のゴブリンの首をもう一度斬ろうと思って剣を少し左に構え直そうとした。剣を構え直し始めた瞬間、二体のゴブリンが消えた。俺は咄嗟に通路の奥に視線を放つ。敵がいた場合の残心だ。何もいない。後方には頼りになる味方が三人もいる。振り返って園子を見ると追撃のために槍を腰だめにしていた。
「よし、よくやった。エース、魔石を拾うぞ」
キョロキョロとする葵に寅吉さんが近付くとヘルメットをポンポンと二回叩いた。
「いい動きだったぞ! その調子だ」
少し大きい声で話し掛けられた葵がフーっと息を吐いた。
「エース、魔石を頼む」
葵の目を見ながらしゃがむ。ようやく葵が動き出した。復唱はない。
『葵、大丈夫か?』
葵と目が合う。
『おー、兄やん! うまいこといったな!』
『うん、すごかったな。完璧だ。次は槍を置いて魔石をリュックに入れてくれ』
葵は言われた通りにした。問題は無さそうだった。
「エース、どうだ? 続けていけそうか?」
寅吉さんが葵に直接声を掛けた。
「おー、おっちゃん! ぜんぜん行けるで!」
「よし。じゃあ続けてやってみよう。いいか、反撃もあるからな。相手の動きをよく見るんだ」
「おっけーおっけー!」
『星名さん、葵に続けて何体かやらせよう。集中が切れる前にやめさせるから』
『オールハンド。エースがエースっぽい動きをしているのでこのまま練習がてら何体か討伐してもらおうと思う。みんな、サポートよろしく』
エース:オッケー!
クローザー:了解です。
マネージャー:了解
タイガー:了解
次のゴブリンの近くに冒険者がいたのでスルーして人のいない場所で討伐を続けることにした。陣形を変えてタイガーの後ろをエース、その後ろにマネージャーとクローザーが並んで最後尾が俺。一匹目をバックアタックでなんなく討伐。二匹目は正面だったので、また寅吉さんが声を出して注意を引きつつ討伐。
「エース、次は単独討伐いってみよう」
「おー、いいで!」
葵はこれで四体連続の討伐だ。寅吉さん的にもこれが今日の仕上げという感じが伝わってきた。
またこちらに向かって移動中の個体だ。葵は立ち止まることなく槍を引き気味に構えたまま角を曲がって走っていった。
俺が角を曲がった時、葵の突いた槍が空を切っていた。




