第40話 第二階層
女性陣にスライム討伐を任せて階段に到着。迷いなく降りる。
有名ダンジョンだし、人目も多いので怪しい人物もいない。代々木公園第二ダンジョンの第二階層も石畳だ。ここが第一階層と言われてもわからない。標識も看板も無いし、地図の表示がありがたい。
代々木公園ダンジョンを根城にしている人は多い。さすが都心。冒険者も多い。ゴブリンの魔石は二百円か三百円。初心者の訓練相手だ。スライムもそうだが、ゴミ魔石なので魔石自体には価値はない。この辺りは冒険者を育てるための助成金みたいなものだ。これを切っ掛けに大きく育ってねということ。
「第二階層も見た目は上と同じ石畳。出現モンスターはゴブリン。こん棒か小刀を持っている。武器に価値は無い。価値が無いので放置されがちなんだけど、いつまでもそこにあっても邪魔なので回収すると一点で百円もらえる。まぁ、道端にあっても邪魔だし、無限に収納出来るから余裕があるならゴミ掃除がてら拾ってもいいけど、今日はいちいち背中に入れるのも面倒だからやめておこう」
マップ上の人とモンスターの居ない一点を星型に点滅させて寅吉さんを誘導して到着。
「それでは第二階層の検証開始。まずは隠し部屋点滅。んー。無いですね。念のために隠れボス検索。なし。次に宝箱、検索」
「あった! 兄やん!」
通路のど真ん中に緑色に点滅する光点がひとつ。まだ近くに冒険者はいない。
「よし! 中身は? 低級ポーションが三本。タイガー、これは行くべき?」
「急ごう」
「オーケー、進行速度はタイガーに任せます。ゴーゴーゴー!」
宝箱まで、敵と冒険者の居ない一本道をハイライト表示でナビゲーション!
『ははっ! これよこれ!』
寅吉さんがハイテンションだ。他の冒険者の姿を一切見ることも、こちらの姿を見せることもなく、迷うことなく駆け足で宝箱に到着。ランダムエンカウントだったはずの宝箱がシンボルエンカウントになった。
「素晴らしい! さすがに実際に体感すると震えるな」
寅吉さんが興奮していた。【こうしえん】の信頼度はかなり高まっている。敵を気にせずただ走るだけでいいという安心感もある。きっと寅吉さんは他の冒険者に対して優越感も持っているかもしれない。他のメンバーも足取りの軽さを見れば同じような気持ちなのかもしれない。
ただし、他の冒険者からは、敵を気にせずダンジョンを走り回る姿は異様に映るはずだ。気を付けなければならない。
俺は宝箱の前に進み出てマップ上で罠を確認。見た目上は鍵も蝶番も無い。ただ引っ張り上げれば開くはずだ。罠も無し。
「開けます。念の為、宝箱の正面からは外れて。クローザーの盾の裏に」
全員の退避を確認。
「開けます。さん、にー、いち、オープン」
掛け声と共に一気に宝箱を開ける。何も起きない。薄い青い液体の入った試験管のような瓶が三本。両手で取り出してみんなのところに戻る。中身の失くなった宝箱は十分ほどで消えるそうだ。その瞬間を見てみたい気もするね。
宝箱から少し距離を取って待機。香流がストップウォッチで時間を計っていた。さすがだ。
「これが戦利品です」
寅吉さんが一本取ってヘルメットライトで照らしながら翳して見る。
「うむ。まぁ、間違いなく低級ポーションだろう。地球上のどんな傷薬より利く。鑑定上は低級なんて出るけどね、刀傷ぐらい余裕で治すよ。腸を斬られるぐらいまでいくと完治は難しい。しかし、地上までの時間稼ぎにはなる。ああ、ウチにはマネージャーがいるからね。これがあれば助かる確率が飛躍的に上がるね」
「いけね、それで思い出した」
マップに集中する。一階のマップを呼び出す。出た!
「ふー」
安堵の溜息が漏れた。
「どうしたんだね?」
「はい。他の階のマップが見えるか確認していました」
「ああ、これはそういうことか」
「一度明るみになったマップは覚えているみたいです。なので第三階層より下のマップは現時点では表示されません。あとはですね、ここから別階層やホールまで飛べるかっていうことです」
「ふむ。ここからだともう三階層の方が近いな。三階層に降りて二階層に戻れるか試すかい?」
「そうですね。人の流れ次第ですけど、そういうつもりでいましょう。マネージャーすまん、気付かなかった。いざという時の目的地なんだけど」
「そうね。余裕があればホールね。咄嗟の場合は階段の近く、もしくは階段そのものかしらね。別の階層を呼び出す時間がもったいないわ」
「うん、マネージャーがそこまで把握しているならこちらから特に言うことは無いよ」
宝箱のこともあるので、この場でしばし休憩することにした。寅吉さんは気にしないみたいだったが、女性陣のこともあるので花見で使ったビニールシートを広げる。コンビニとスーパーで買ったおにぎりと総菜パン、サンドウィッチを出す。
「お昼がまだでしたね。軽く食べちゃいましょう」
「これ、出そうと思ったら出来立てのラーメンでも出せちゃいますよね」
香流がぶっ込んできた。
「ううむ。それはすさまじいな。誰もいないところでしかで使えんがな」
寅吉さんが四個、葵が三個おにぎりを食べた。俺たちはおにぎり一個とサンドウィッチをシェアした。
食べている最中に宝箱が消失予定の十分に近付いたので全員で見つめている中、突然コマ落としのように一瞬で消失した。その様子は全員のカメラに撮影された。ちなみに葵がおにぎりを包んでいたビニールゴミを宝箱に入れていたのだが、それも消えた。ただ、なんとなく不謹慎な気がしたのでもう止めておこうとなった。
ごはん中に園子からのレクチャーで、低級ポーションは一本十万が買い取りの相場だと言われた。三本なので売れば三十万円だが、今回の分はこのままマジックバッグに収納保管になるだろう。とりあえず五人で日給三十万円を稼いだ。
ポーションの不思議なところは、傷を治しているんじゃないらしいということ。例えば、腕を骨折した場合、骨折している腕の上からポーションを掛けると骨折が治る。腕の内部の折れた骨に直接掛かっていないのにだ。おそらく『怪我をしている腕』に対して治療効果が出たのだろうと言われている。
「よし、では諸君らは敵討伐のリハビリと初心者講習だな。ゴブリン退治をしてもらおうか」
ここが冒険者になれるかなれないかの分水嶺だ。要するに人型のモンスターに対する忌避だ。もちろん、人型を避けてもいいのだが、この段階でショックを受けて諦める人が多くいるのだ。レベルからいってこのパーティーでいうと俺と、おそらく葵がその対象だ。
「葵、ゴブリン討伐はしたことあるか?」
「んー。それな、まだ、ないなぁ」
「寅吉さん、ちょっと待ってください。葵、こっちへ。みんなは警戒態勢よろしく」
葵と俺を真ん中に前後に三人がカバーしてくれた。
「葵、なにが問題になりそうか知ってるか?」
「あー、あれやろ? 子供みたいなんを殺さなあかんちゅーやつやろ?」
「そうだ。出来ない人は出来ないんだ。それでだな、俺たちは冒険者だけどちょっと変わったことをやっている。今はボス討伐と宝箱探しだ。モンスター討伐では稼ごうとしていない。だから気楽にやれ。ボス戦に参戦できれば葵の勝ちだ。ただな、仲間と自分の命を守る必要がある時はためらうな。それだけだ」
「せやな。命かかっとるからな。ウチ、これで生きていきたいねん。みんなと一緒にいたいからな」
「よし。それでいい。だけど無理はするな。俺は普通の冒険者が欲しいわけじゃない。『Renegades』にはお前が必要だからな」
葵のヘルメットを二度叩いた。
「行軍陣形に。マップを見て。一番近いゴブリンを赤点滅表示。これが攻撃目標です。最初は誰がいきますか」
「それでは私が」
香流が立候補してくれた。
「クローザー、立候補ありがとう。行軍陣形はこのまま。攻撃時にポジションチェンジにしよう。ゴー、ゴー」




