第31話 裏番
防具は虎吉さんと同じバリスティックにした。色は黒。ガチムチ防御よりは動きやすさを重視。俺は司令塔ではあるが、宝箱回収係になりそうなんだよな。イメージは盗賊だが、図体のデカさから暗殺者の方がいいかな。あくまでイメージの話です。
「園子、俺も左腕に固定シールドを付けようかと思うんだけど」
「そうね、移動中は戦闘もあるって考えると良い考えだと思うわ。千里だと体格良いから使いこなせそうだし」
園子にアドバイスをもらって細長いタイプのシールドで、前腕にベルト固定、先端は手のひらで握り込むかベルト調整で手首に固定も出来るものにした。鎧は軽鎧で首と肩口、背骨、腹の急所をしっかり保護。最新の軽量複合素材製。
「このアーマー、すごく軽くて動きやすいな」
「ほーん。どれどれ」
コンコンと拳で叩く。
「ん? なんやこれ? 軽い感じすんのになんかめっちゃ硬い感じもするなぁ」
「葵、ちょっと来て。ゾディアックの新作よ」
園子はゾディアック派なんだよな。機能美的なバリスティックに対して流麗な造形のゾディアックはやっぱり女性的というか中性的というか、そんなイメージ。
「あ! これ、めっちゃ軽い! ほんで動きやすいわ」
園子は黒x赤、葵は黒x黄というお互いの好きなカラーバリエーションがあって納得のご購入。肘当てと膝当ても買う。
これで男性バリスティック、香流も含めて女性ソディアックとなった。ついでにフルフェイスヘルメットもバリスティックのものを買った。寅吉さんのほどではないが、これも色変更機能バイザー付きの高級品だ。
そのまま葵と一緒にコンバットブーツも選ぶ。動きやすさも重視してサイドジッパー付きのハイカットにしておいた。靴底と爪先に貫通防止の軽量特殊金属入り。葵も同じだ。店員のアドバイスに従ってインナーソールも入れた。馴染ませる為に早速履いて過ごすことにする。葵の靴も一緒に俺のリュックに入れる。マジックバッグに入れたのでリュックは少しも重くならない。
あり得ない割引を経て購入した防具を持って紳士服売り場に戻ると、さっきの店員さんが更衣室までキープしていた服を持って来てくれた。
「防具がバリスティックだから下の服も同じバリスティックで良さそうかな」
「お兄さん、素敵ですぅ。ベテラン冒険者さんみたいですよ!」
店員さんがさすがプロという感じで盛り上げてくれた。
「いやぁ、さすが代々木公園前店、店員さんの質が高い! 美人店員さんにそう言ってもらえておじさん嬉しくなっちゃいますよ。ではこれをお願いします」
例によって購入金額は以下略。
「買った装備品どうしようか? このあと昼メシ食いに行くなら発送とかの方がいいかな?」
「馴染ませる意味もあるし、邪魔じゃないなら着ていけば?」
邪魔ではある。ピッカピカだし。とりあえず慣らし優先でアーマーは着たままにした。着ていた服をリュックに入れるフリでマジックバッグに放り込む。装備の色に合わせて買ったグローブをリュックの外にぶら下げる。俺の装備は全身真っ黒になってしまった。
俺の恰好はバリスティック製で統一された黒一色。軽装甲はステルス戦闘機のような直線的な機能美追及デザイン。黒も反射を嫌ったのだろうかツヤっぽくはない。
寅吉さんもメーカーはバリスティック。最新ではないがおそらくメーカーにサイズオーダーの最高級重甲冑。使い込まれたようなオリーブドラブが現役時代を彷彿とさせる。アーマーに付いている傷のひとつひとつにどんなドラマがあるのか聞いてみたくなる。見た目は最新10戦車なのに、闘う姿はその様相を一変させる疾風迅雷だ! 裂帛の気合と共に抜かれた刀身は避ける暇も与えず致命傷となる。この人に接近戦で勝てるイメージはまったく湧かない。
女性陣は全員がソディアック製となった。香流の軽量甲冑も寅吉さんと同じくフルオーダーだ。詳しくはないが、香流の体形にフィットしている時点で既製品なわけがない。純白に輝くその姿は冒険者ではなくフィクションのヒロインそのものだ。彼女を傷付けることは不可能だ。ただ、攻撃もしてこないけれど。見た目だけは最前線攻略組の紅一点に間違いなし!
園子と葵はお揃いの胸当てになった。赤が園子で黄色が葵。ソディアックは最新世界最高峰フォーミュラカーの流麗さがある。その流線形が強さと共に美しさを強調することから女性冒険者に人気のメーカーだ。体形に合わせて柔軟な調整が可能な最新作は、葵の女性らしさが前面に押し出されてむくつけき冒険野郎の視線を集めてしまうことだろう。園子の腰回りの曲線は本人が気付いていないようだが、同じくゾディアックのミリタリーパンツを履くことで非常に魅力的に演出されている。園子と葵のふたりが並ぶと俄然アイドルグループみが増す。
今日だけでけっこう金を使ったな。おかげで見た目だけは駆け出しから抜け出せただろうか? まだ装備がピカピカだからダメかな?
服と防具が終わったので三階の武器フロアへ。
「俺の役目は宝箱の回収だな。ってことは長物の武器は邪魔になるだけだよな」
「でもせっかくの高身長だし、リーチを活かした攻撃は効果あると思うのよね」
園子のアドバイスには耳を傾けるべきだ。
「長いのんはバッグに入れといたらええんちゃうの?」
「おおー」
三人から同時に声が上がった。
「さすが若い柔軟な発想。言われてみればそうだな。だったら必要に応じて出すってことも考慮すれば槍と剣と短剣だな。あと一応、野営用品としての刃物類か」
「剣だと柄が長いのは出し入れしにくいかもしれないから注意が必要ね。素人が乱暴に扱うのなら、出来ればダンジョン産のチートが入ったモノの方が将来的にも長く使えていいんだけど」
「値段か」
「そうなのよね。購入はまだちょっと早いかもしれないわ」
「じゃあ狙いは邪魔にならないサイドウェポン的にショートソードと大振りナイフかな。あ、槍はいろいろと便利だから買っておくか」
「野営用品のナイフはパーティー資金から出しましょう」
マジックバッグのお陰で軽量化を考えなくていい俺たちは料理包丁はサバイバル用ではない本物を持ち歩けることに気付いた。あと、たぶん寅吉さんが全部持ってそう。寅吉さんだけに負担させるつもりはないので何点か必要そうなものを購入。
「槍は石突が大きくてもいいかもな。ぶっ叩く用に」
「なんか本来の使い方とは違うけど千里は背が高いし、いいかもしれないわね」
槍は汎用の工業製品を選ぶ。二十年前のダンジョン発生以来、刀剣製作に携わる職人が増えた。後継者問題などと言っていたのは過去の話だ。やはりハンドメイドは良いし、芸術性も高い。ただ、実用的かという面で言うと微妙になってくる。一番はダンジョン産出の意味不明なチート武器。次は【錬金術】や【合成】などの生産系スキル持ちが作った合金を使った玉鋼で打たれた刃物だ。
武器製造メーカーや製造系クラン、パーティーから個人まで、ネットでは様々な商品が溢れている。そういう一点モノは七階に行けばある。平気で百万円単位のものが置いてあるので気軽には覗けません。
「千里、これいいわよ。魔鉄を使ってるけどちょっとサイズが長くて身長が高い人じゃないと取り回しに難ありなのよ。その分、お安くなってるわ」
「お、いいね。じゃあそれにするよ」
「あ、そういうのお探しですか? だったらちょうどいいショートソードがあるので待っててください」
武器売り場のお姉さんが従業員ドアを出て行ったと思ったらすぐに剣を持って戻ってきた。
「これなんですけど、モノはすごくいいんですよ。けど、ショートソードにしては長くて、バスタードソードにしては短いというすっごく微妙な剣なですよ。ぜんっぜん売れなくて店員用にバックヤードで売ってるんです。それでも売れないんですけどね!」
そう言って快活に笑った。とんでもない不良在庫やん。とりあえず持ってみる。
「あれ? なんかいいぞこれ。なんだ? 鞘ごと持ってるだけなのになんでだ?」
「ねえ、これって工業製品じゃないわよね」
「あ、そうなんですぅ。それ、個人製作なんですよ。モノは良いんですけどねぇ。新人さんで売れるものっていうのがまだわからないっていうか。本人だけは良いモノだっていう思いで作っちゃったみたいなひとりよがり作品というか」
辛辣だ。個人製作でモノはいいのに七階で扱うほど実績が無い製作者なんだな。
「これ、抜いてみたいんだけど」
「はい。ではこちらにどうぞ」
刀剣を抜く時は専用のブースにひとりで入らなければならない。フロアでいきなり抜くとセキュリティーがぶっ飛んで来て問答無用で拘束される。本来なら今みたいにいきなり抜ける状態の刀剣を客に預けるのもダメです。園子がいるので常連扱いになってるだけです。
ブースに入って外から鍵を掛けられる。「どうぞ」の声で鞘から引き抜く。鞘はテーブルの上に置く。
「なんか、やっぱりいいなこれ」
片手で振る。両手で振る。長さが中途半端というのはわかる。けど、俺はこれでメインの狩りをするわけではない。これなら力任せにゴブリンとか斬り付けられる気がする。
「魔鉄で出来てるの? これ、気に入ったよ」
「ホントですかぁ! きゃー、売れるかもぉ」
「じゃあ、それでいいわね。バックヤード料金をSランク割引と社員割引と提携カード割引とSランクポイント還元ね」
「えー! なですかそれー!」
「千里、パーティーカード貸して」
俺の買い物は終了した。総額百万円弱が消えた。でもたぶん本来だったら倍以上の金額になっているはずだ。園子恐るべし。あとは葵の武器か。
「葵は物理攻撃はショートスピアとショートソードを使い分けて、メインはどうなるんだ?」
「葵はもちろん魔杖よ。威力が上がるわ」
葵のスキルは【範囲攻撃魔法】だ。魔法なのにMPを消費しないというわけのわからなさがミソ。MPが関係ないからいつまでも燃やそうと思えば燃やせるけどそうすると自分も燃えちゃうからスキルが使えない。酷い。
「千里、ちょっと代わってくれない。私もその剣振ってみたいから」
園子がブースで剣を試す。
「なるほどね~。酷いわねこれ。これじゃあ誰かのためのワンオフじゃない」
「そうなんです~。誰に向けて作ってるかわからないんですよ。いかにも自分の腕に自信あるっていう新人ですよね~」
「ホントに、腕だけは良いわね。剣の製作者データをちょうだい」
なにか思うところがあるっぽいな。園子がカウンターの受話器を取って電話を掛け始めた。やりたい放題だな! たぶんもう公私混同でダメなやつだぞこれ。どう落とし前付けるんだ?
「もしもし、冒険者支援機構、代々木公園前支部の者なのですが、小佐原道夫様でいらっしゃいますでしょうか。実はですね、小佐原様の御造りになった武器を見たお客様がワンオフ製作の依頼をお願いすることが可能かという問い合わせがありまして。はい、そうです。モノは魔杖になります。ええ、魔石とベースの杖はご依頼主様の持ち込みになります。そうです。今はそれは申し上げられませんが、相当なものになります。小佐原様のご実績として魔杖の製作は何か問題などありますでしょうか。まぁ、そうなんですね。ありがとうございます。それで製作の費用なのですが、杖と魔石の合成部分のみをお願いすることになるのですが、あ、なるほどですね~。それだとちょっと折り合いが付かないようですので残念ですが今回は御縁がなかったと、え? はい。うーん、えー、はー、そうですね~、ちなみにご依頼主様なのですが、小佐原様の製作なさったショートソードをお買い求めになりましてー、はい。え、よろしいんですか? 納期の方はいかがでしょうか。あ、速攻で、なるほど。はい、当店を通しますとマージンが発生してしまうので、お値段がお値段ですから、今回は直接お客様同士でのやり取りということに致しましょうか? はい、その場で現金でのやり取りということで。はい、それでは以降は当店の預かり知らぬことということで、はい、よろしくお願いいたします。失礼致します」
電話の向こうの人間になりたくない。そう思った。
「話のわかるとても良い方だったわ。あとで連絡しましょう。葵、杖を選ぶわよ」
ガクガクと頷く葵が園子に連れられて魔法使いコーナーに向かった。
「園子先輩、ステキ~」
店員の子の目がハートになっていた。よくわからん。
「香流、このパーティーの真のリーダーは園子だ」
「それは否定できないかもですねぇ」




