第28話 戦友と女子校
「私と千里さんと葵さんの三人で見てきますね。写真と動画でご報告しますので」
「あー、さすがにこんなに早く辞表出すとは思わなかったのよねー」
園子が悔しそうに寅吉さんを見ている。
「いや、うん、明日、ね。もう止めないから。というか俺も自分のことやらないとだ」
「え? 寅吉さん、それじゃあ」
寅吉さんが真由美さんを見る。
「寅吉をよろしくお願いいたします」
そう言って真由美さんが頭を下げた。それを見ていた此花ちゃんも「おねがいします」と頭を下げる。女性陣は「かわいい~」となっていたが、俺にはその言葉が重くのしかかった。前衛のこの人を守ることが俺の使命だ。大事なのは金より命!
「今日いきなり私もあんな体験をして、それをわかってて我慢しろとはさすがに言えないわ。私だってあと十年若かったら一緒に潜らせてって言ってたでしょうから」
「おいおい、それ本気じゃないよな」
真弓さんはニッコリと笑うだけだった。
その後は楽しい夕食会だった。なにせみんなの懐は温かい!
明日仕事の人もいれば、四歳児を遅くまで連れ歩くわけにはいかないので早々にお開きとなった。
「あ、そうだわ」
園子がそう言うと俺のリュックに手を突っ込んだ。テーブルに並んだのは、すっかり氷が溶けて水が溢れそうなグラスと、たった今持って来られたように氷が浮かび水滴のついたグラスだった。
「時給三百万に退職金も付きましたね」
俺の渾身のひと言はまったくウケなかった。配信者やめようかな。
駅の改札で幸せ家族と別れる。寅吉さんがいればどんな満員電車も平気だろう。そして俺は当然のように香流のデカいキャリーケースをごろごろ運んでいる。まだ深夜にもならない時間なので電車内に余裕があったのが救いだ。
当たり前のように俺の最寄り駅に四人で降り立つ。香流は酔っているのかどうなのか微妙だ。今のところ言動に破綻はない。一刻も早い引っ越しが必要だ。
「たっだいまー」
先頭切って家に入る葵。
「香流、このキャリーバッグの中身って装備品だけ? だったらキッチンの方に置いておくけど」
「それはーですねー、女の子の大事な物がいーっぱい入ってるんですよーうふふ」
どこまで本当でどこまで冗談かまったくわからん。そしてやっぱり酔ってんのかこれ。タイムラグが酷い。
「あーそー。じゃあどうしようかな。装備をロフトに上げるのも無駄なんだよなぁ。園子、バッグの中身の仕分けを手伝ってやってよ。ここに置くものとロフトに上げるもので」
「はーい。香流、バッグ開けるわよー」
キッチンに二人を置いて居間に入る。葵は居ない。ロフトに上がったか。
「葵、ふたりが荷物整理の間に風呂入っちゃって。四人もいるからな。上がったら次は園子だな。明日出社だから早く寝かせてやろう」
「ほーい」
えーと、バスタオルね。
「あー、昨日洗濯してないからバスタオルは昨日のやつ使ってくれ。帰りにディスカウントストアで買ってくればよかったな」
「んー? そんなんぜんぜん気にせえへんで。兄やんのと同じでええわ」
「それはお前、気にしないにもほどがある。っていうかそれ言ったらお前が使ったあとに俺が使うことになるじゃねーか」
「彼女もおらん兄やんには女子高生使用済みバスタオルは刺激が強すぎかぁ」
「パンイチの自分より使用済みバスタオルの方が強いって言ってるんだとしたらそれはそれで悲しいよな」
「いったい何の話なのよそれ」
園子が戻って来た。香流もいっしょだ。
「お、早かったな。だったら先に園子が入っちゃいなよ」
「ああ、お風呂ね。そうね。じゃあ、お言葉に甘えるわ」
園子が香流の大事な物とやらが入った袋を持ってロフトに上がる。
「香流は大丈夫か? 園子が上がってくるまで寝ないでいられる?」
「ん~、大丈夫ですよー。あー、千里のコーヒーが飲みたいですー」
「寝る前だけど。まぁ、ちょうどいいか。準備するから待ってて」
園子が風呂場に行く前にキッチンで必要なものを用意して居間に戻ってセッティング。
「じゃあ、先にいただくわね」
降りて来た園子が風呂に向かう。
「園子、洗濯してなくてさ」
「バスタオルね、大丈夫よ」
今日、最後上がったら洗濯機回すか。
「風呂上りに洗濯機回すから洗っていいものがあったら入れておいてー」
「はーい」
三人から良い返事があった。
「香流ちゃーん、これこの前の寝間着なー」
葵がロフトから香流に服を投げて寄越した。俺のTシャツじゃないかよ。
振り向くと香流が服を脱ぎ始めていたので慌てて背を向ける。くそ、俺の部屋が女子校になってる!
「香流、着替えはロフトでってそうか、酔ってて上るの面倒なのか。服を脱ぐ時は一応、断りを入れようね」
「うふふふ。もう命を預け合う仲ですからねー。これぐらいのこと気にしませんよー。はー、こういうの憧れてたんですぅ~。冒険者っぽいでしょー?」
同性間ならわからなくもないが。なんか歪んだ冒険者像というか。何の影響だろうか?
「おー! 香流ちゃんもわかってきたやん!」
パンイチがわざわざロフトから顔を出してそんなこと言ってます。
「お前は初日からそうだったけどな」
「ウチらは最初っから『Renegades』やからな!」
「そういうグループだっただろうか」
湯が沸いたのでコーヒーを淹れる。
「葵、コーヒー飲むか?」
「飲むー」
「香流はブラック?」
「んー。甘いのがいいですー」
葵がロフトを降りてきた。
「葵、冷蔵庫から牛乳持って来てくれ」
「おっけー」
キッチンに繋がるドアを開ける瞬間、嫌な予感がして目を閉じて顔を背けておく。
ガラッ
「きゃっ」
「お、園子ちゃん、相変わらずキレイな肌やなー。あ、兄やん、そっぽ向いてんのもったいなかったなー」
「嫌な予感がしたんだよ!」
寝る前なのにみんなでカフェオレを飲んだ。最後に洗濯機を回しながらシャワーを浴びた。上がって歯を磨いて洗い物を片付ける頃に終わった洗濯物を干す。こいつら、平気で下着突っ込んでやがる。まぁ、変に気を使われるよりいいか。引っ越したら金を出し合って乾燥機付きの洗濯機に買い替えよう。
暗くなってる居間に戻って布団を踏まないように歩いてそっと掛布団を捲る。よし、誰もいない。安心して横になってぐっすりと寝た。




