第27話 石橋を壊して作る
「へー。さすが巨大ダンジョン。ロビーが広くていろいろ充実してるね」
ダンジョンを出た直後はレベルアップによる各種ステータスの上昇補正が消失する。慣れないうちは急に身体が重く感じて歩くことも出来なくなる人もいるため、入退場門とダンジョンの間に休憩所がある。そこには着替え用の更衣室、飲み物の自販機が用意されている。
代々木第一のロビーは巨大ダンジョンだけあって規模が大きい。消耗品を扱うショップの出張所から、薬屋、飲食店までショッピングモールのフードコートのように充実している。しかも二十四時間営業だ。テーブルに突っ伏している連中はダンジョン上がりのクールダウンか冒険失敗の落ち込みか……。
念のために三人分の携行食料と飲料水を買い込んでリュックに詰めていると園子が真由美さんに話し掛けていた。
「とまぁ、こういうことをするのがウチのリーダーです」
「うふふ。これぐらいしていただいた方が周りの人は安心ですね」
「石橋を叩き割って中まで調べて改良してから作り直して渡るのが星名千里という男です」
「褒められてるようには聞こえないのだが? ダンジョンなんて何が起きるかわからない不思議空間なんだからね」
「ちゃんと褒めてますからね? あなたはそのままでいいのよ」
なんとなく腑に落ちないままこの場所に来たことのある二人を先頭に階段を降りる。辿り着いたホールは渋谷ほどではないが二十メートル四方はありそうなそこそこ広い空間だった。
「へー。壁がレンガのブロックか。ゲームと同じだな」
初心者丸出しの当たり障りのないコメントしか出ない。配信者失格だな。
「他の人たちの邪魔にならないよう、端の方に行きましょう」
そう言って壁際に移動する。これからダンジョンダイブの冒険者はここで最後の装備点検とステータス上昇に慣れるために待機をする。帰って来た冒険者は立ち止まることなく階段を目指す。
周りにこちらを注視している者がいないことを確認して軽く頷く。
【高度戦術支援地図】起動。
パーティー編成をここにいる三名に変更。
【パーティー名:Renegades】
L:星名千里:SEN(Lv11)【高度戦術支援地図】Lv.1/5(3/5)
2:西宮園子:マネージャー(Lv13)【瞬間移動】1/3
3:寅吉真由美:(Lv.35)【弓術】
あまり長居はしたくない。【鑑定】持ちがいたら俺のスキルが見られてしまう。
俺は真由美さんの目を見ながら自分のこめかみを人差し指でトントンとする。何が言いたいか気付いた真由美さんがハっとした顔をする。何も言わない。言ってはいけない。
脳裏に浮かぶのは代々木公園第一ダンジョン第一階層の全景地図だ。ゲームで知っているマップ構造そのままだ。それが脳裏に浮かぶ。第一階層はこのダンジョンでは一番狭いのだが、渋谷しか知らない俺にはとんでもなく広く感じる。俺は壁を背にして立つ。
「真由美さん、俺の正面に立って俺を見てください。声を出さないでくださいね」
頷いて前に立つ。十五センチ以上背の高さが違うので真由美さんは若干俺を見上げている。脳裏でパーティー全員に向けてテキストメッセージを打つ。
『今から音声通話をテストします。私の声は二人に聞こえますが、そちらからの声は私にしか聞こえません。準備が良ければ頷いてください』
送信。
一瞬、真由美さんが目を見開く。二人の間に立ってこちらを見ている園子がさりげなく頷いたのを見て真由美さんも頷く。
《ふたりに向かって話かけています。これも【高度戦術支援地図】、葵が言うところの【こうしえん】の機能のひとつ【遠話】になります。地図を見てください。ホールに青い光点が三つあります。これが我々です。光点の上に名前をオーバーラップします》
下の名前だけを漢字表示させる。
《黄色は他の冒険者です。そちらから私に話しかける場合は、マップ上の青い光点の私に向かって話す意識を持ってください》
《えーと、こうかしら。合ってるのかしら》
《はい、聞こえました。大丈夫です。口が開いていないのでなかなか面と向かってると不思議な感じですよね》
《ホントですね。でも、すごいわ。無線の使えないダンジョン内でこれは凄すぎます》
《そんなスキルみたいです。画面共有は出来ませんが、私には光点で表示された人やモンスターの情報が見えます。真由美さんはレベル35でスキルは【弓術】ですね》
レベルは聞いていたがスキルは未確認情報だ。真弓さんが驚いだ顔をしている。こっちが手の内を明かしている以上、このぐらいの情報漏洩はどうということはないだろう。
真弓さんが場所を移動して壁に背を付ける。ロビーを見回して地図情報との差異を確かめている。俺は試しに黄色い光点にフルネーム表示と念じる。
「え」
園子が思わず声を出して誤魔化すためかそっぽを向く。見知らぬ冒険者達のフルネームがわかった。俺はその内のひとりに意識を集中した。
【鈴井次郎(二十五歳)】
・Lv.26 (717,380/770,260)
・身長:171cm 体重:66kg
・スキル:槍術
・所持アイテム:魔鉄の槍、ポーション(低級)x2
うわー。見えちゃった。でもこれは俺にしか見えていない。他人のスキルと所持品が見えるのは恐ろしいね。見ようと思ったらもっと細かくわかるけどやめておく。
《それでは次に敵を赤でマークします》
地図上にポツポツと赤い点が現れた。みんなスルーしていく。モンスターの名前を表示させると【スライム】だった。スライムなんか相手にしてもしょうがないってことか。代々木第一ダンジョンの第一階層は渋谷第一に比べてとても広い。ただし、この階層にはスライムしか出ないから、全ての冒険者が下の階層への行き来で同じ最短距離の通路を歩いているだけだ。スライムばっかり狙っても入場料の千円でさえ取り返すのは大変だからね。
渋谷ではボス部屋のすぐ隣に部屋があったから【隠し部屋】に気付いたんだけど、ここは広いから見ただけでは何もわからない。よし、ここで検索を掛けてみるか。えーと、【隠しボス】はいるか? 画面全体が見えるようにしたけど反応は無い。試しにモンスターと冒険者たちの表示を消す。もう一度【隠しボス】で検索。反応なし。
園子と真由美さんが表示の消えたマップを訝しく思ったのか俺の顔を見ている。
《すいません、スキルの検証をしています。今は【隠しボス】を探していました。次に【隠し部屋】にしてみますね》
えーと、ボスがいなくても宝箱があったり、ボスが守っていなかったりする場合もあるだろうしね。【隠し部屋・点滅】で検索、と。
一瞬で全員で顔を見合わせる。
《千里! 光ってるわよ! なにこれ!》
おお、遠話で叫べるのか。新発見だ。じゃなくって!
《おおおお落ち着いて!》
真弓さんが口に手を当てながら壁を向いて目を見開いている。どこ見てるんだ? ああ、頭の中のマップか。
二人の慌てようを見て落ち着いてきた。えーと、なにが光ってるんだ? 地図上では、ホールから入ってすぐ左をまっすぐ進む。角まで行ったら右に折れて数メートル先の壁の中だ。部屋の中には宝箱がひとつ。宝箱を検索。
【マジックバッグ】
「え゛っ?」
三人とも声が出た。




