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最弱スキル【地図】が【こうしえん】になった!? - 高度戦術支援地図で最強クランに成り上がれ!  作者: 秋乃せつな


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第22話 戦利品鑑定

「それでは、私は着替えてくるので先に部屋で待っていて下さい」


 そう言って寅吉(とらよし)さんは職員用のドアを(くぐ)って消えていった。


 作ったばかりのパーティーカードをコンシェルジュが端末で読み取って鑑定用の個室に案内してくれた。飲み物のオーダーを取ると「お(くつろ)ぎになってお待ち下さい」と退室して行った。同じ職員の園子を気にする素振りがあるのはしょうがないだろう。


 ダンジョンに向かってから一時間も経っていないが、まだ慣れていなくて窮屈に感じるヘルメットを脱ぐ開放感が心地良い。


 しばし放心状態でいるとドアがノックされて寅吉さんと、先程のコンシェルジュの女性がカートに飲み物を載せて入ってきた。


「お待たせしたね。こちらは今回、鑑定補助に付くことになった」

掛井雅代(かけいまさよ)です。よろしくお願いいたします」


 お辞儀から頭を上げる途中で笑顔のままフリーズした。香流(かなれ)が素顔を晒していた。たぶん彼女の脳内では『この人、何の映画に出てたっけ?』だと思う。純白の(アーマー)(まと)ってヘルメットを小脇に抱えている姿は、ハリウッドのスーパーヒーローもの作品そのものだ。見た目だけなら誰もレベル17の能無しとは思わないよなぁ。


 それでも、ギギギと音がしそうな動きで頭を上げると引き()った笑顔のまま助けを求めるように園子の方を向いた。


「まぁ、声が出なかっただけ及第点というところかしらね」


 辛辣(しんらつ)! ダンジョンでは寅吉さんが、地上では香流が何もしていないのに注目を集めるのがうちのパーティーだ。どうしよう。


「支部長、園子先輩、どうなってるんですか?! さっき登録したばっかりで査定の呼び出しって」


 飲み物を配りながらついそんな明け透けな物言いになってしまった彼女は、パーティー申請の時に総合受付にいた女性だ。園子よりも明るい色の髪を後ろでまとめている美人だが、表情豊かで大きな瞳が可愛らしい。


雅代(まさよ)、一応お客様、しかも指名冒険者の前なんですからね、落ち着きなさい」


「はぅぅ。そうでした。みなさま、お騒がせして申し訳ありませんでした」


 丁寧に頭を下げたその所作から、本来は仕事の出来る()だろうと思う。身内の前でつい素が出てしまったようだ。


「いえいえ、気にしてませんので。アイテム鑑定、よろしくお願いいたします」


「西宮さんは今日、公休日だからね、私が担当だ。掛井(かけい)さん、補助をよろしく頼むよ」


 ソファーに座った寅吉さんがそんなやり取りは素知らぬ顔でアイスコーヒー片手に話を進める。大丈夫か管理職!


「さて、それでは一旦、全てのアイテムをトレーに並べよう」


 俺のリュックからは銀色に輝くインゴットが五本、トレーに載せられる。みんなの視線が熱い。


 寅吉さんのリュックからは色々出てくる。全てをトレーに並べてモノと数を確認。写真を撮っていいとのことで、みんなで最初の記念撮影! いや、これは鑑定後に間違いが起きないための確認用の写真だからね?


 アイテムが緊張の掛井さんと共に部屋を出て行くと、虎吉さんが満面の笑みで一同を見渡した。


「あらためて皆さん、『Renegades(レネゲイズ)』にとって初のダンジョンクリア、おめでとう」


 祝福の声と共にごつい手を差し出してきた。しっかり全員で握手をし合い、最後は誰からともなく拍手をした。


「これから派手に売っていかんとな!」


 それを聞いた園子が(たしな)めるようにポツリと呟く。


「葵、千里(せんり)はたぶんそんなこと考えていないわよ」


「え? そうなん?」


「まあな。俺たちって強さでのし上がっていくのは無理があるだろ? 世間的には寅吉さん以外は『能無し』なんだから。下手にランクなんて上げると目を付けられるんだ。ランキングは無視して裏で稼げるだけ稼ぐっていうのが理想だろうな」


「うふふ。そうなんですよね。私たちったらみんな『能無し』ですから。千里さんがいないとダメな女ですものね」


「言い方! それはね、俺も同じだから。いや、むしろ俺ひとりでは何も出来ないってわかってて言ってるだろ。攻撃どころか守備力もゼロなんだから」


「おー! そう言うたらそうやな! センちゃんはウチが守ったるからな!」


「言ってくれるなー。でも、お前は守る方は無理だろ? 完全攻撃オンリーのスキルなんだから。あとな、気を(つか)って誰も何も言わないから自分で言うけど、アイテム回収を俺が必死にやったのは最終的に敵を殲滅したからまったく無駄だったってのは俺自身が一番わかってるからな!」


 「それはそうだけど結果論だから」「拗ねて可愛ええな」などとみんなが慰めてくれるのが逆に痛い! 笑い飛ばしてくれた方が気が楽なんですけど?!


 そんなやり取りをしつつ飲み物が空になる頃、ドアがノックされて掛井さんがカートと共に戻ってきた。


「おー! せやった! 鑑定待っとったんやった!」


「ははは、葵はしょうがないなぁ」などと言いながら俺もまったく同じ思いだったことを誤魔化す。


 タブレットの画面と戻ったアイテムを見比べていた寅吉さんがみんなに向き直る。


「さあ、皆さんお待たせしました。お楽しみの鑑定結果の発表です」


「そう言うおっちゃんが一番楽しみなんちゃう?」


「おや? 葵くんは楽しみじゃないのかね?」


「めっちゃ楽しみに決まってるやーん!」


 ダンジョンダイブが成功に終わるとこの雰囲気か。これを続けて行かなきゃな。笑顔のみんなを見てそう思った。


 コッ、コッ。


 掛井さんが布張りがしてあるトレーにインゴットを五本並べ始めるのをみんなが緊張の面持ちで見つめる。寅吉さんがタブレットを見ながら鑑定結果を報告する。


「さて、まずは一番気になるインゴットだが。おめでとう! 【聖銀】だ!」


「おおおおっ!」

パチパチパチパチ。


 口々に感嘆の声が漏れ、拍手が起きる。第一目標達成の瞬間だ!


「なぁ、それって、兄やんがゆうてたやつやんな?」


 心配そうな顔で葵が俺を見る。そこに弾む声の寅吉さんの声が部屋に響く。


「そうだ! そして! 買い取り価格なんだがね、本日、新宿ダンジョンのアンデッドフロアの突破作戦の決定通知と共に聖銀の買い取り強化が始まった! 全国の支部を対象にその日の相場の二割増しだ! 規定量が集まり次第キャンペーン終了となるから早い者勝ちだ。ということで、本日の【聖銀】の相場はキログラムあたり二百五十六万円、キャンペーンの二割増で三百七万二千円! 今回の全取得量五キログラム換算で一千(いっせん)五百三十六万円だっ!」


 すごい剣幕で言われたが誰も反応出来ないでいた。なんだって? この目の前に並ぶ五つの銀色の物体が?


「せんごゃくまんえん?」


 口に出してみた。


「うむ。私も自分で言っていて実感は無い。これがそれだけの価値があるのはいいのだが、自分に所有権があることへの理解が追いつかない。正直、今までどんなお宝を確保しようと全て国庫に直通と割り切っていたからな。何も考えることはなかったのだが……」


「寅吉さん! キャンペーンが終わる前に今すぐ全部買い取りで処理しましょう! みんなも異論は無いな!」


 全員無反応。


「おーい! 聖銀をキープしたい人はいるかい? ダメだ、寅吉さん! 全部買い取り処理お願いします! すぐに!」


「あ、ああ、わかった」


 欲しいならあとでいくらでも買い戻せばいい。差額で確実に儲けが出るのだから。


「よし、処理完了。とりあえずパーティーとして売却金を確保したのであとは各人へ分配するだけだ」


 来た! 本命確保の瞬間だ!


「よっしゃー! って、あれ? みんな? ここは喜ぶところだと思うんだけど?」


 えー? でもそれわー。みたいな顔をしている。


「葵! わかってるのか? お前は今三百万円手に入れたからな! お前の金だ! 誰も取らない、お前だけのものだ!」


「え、え、いや、ウチそんなんようわからんよ。なんも大したことしてへんのになんでなん?」


「いやいやいや、これが冒険者だろ! お前は俺たちと一緒に命を懸けて戦って勝ったんだ!」


「これが冒険者だとするとその辺をうろちょろしてる人たちはなんなんだっていう話にはなりそうだけど」


 園子がなんか言ってる。


「じゃあ、これが『Renegades(レネゲイズ)』だ!」


「ふふふふふ。ほらぁ、ね? 私が言った通りでしょ? これが星名千里ですよ? 付いて行き甲斐がありますよね」


「えっと、支部長、わたしも辞めます」


「西宮さん。その話はまた明日ね。しかし、やっぱり俺も実感無いぞ。カミさんになんて言えばいいんだ?」


 なんかみんなの反応が思ってたのと違うなぁ。現金を目の前にするか自分の口座の残高が増えないと実感出来ないのかな。実は俺もだけど。なんとなく盛り上がりに掛ける気がするが時間が経てば実感も湧いてくるだろう! 本命は終わったが戦利品はまだある。


「まだ一品(ひとしな)目ですからね、残りの話も聞かせてください」


「そ、そうだな。じゃあ、まずは魔石だな。えーと、緑の風属性の魔石は、大きいハニービー・クィーンのものが二十二万三千円、ソルジャーは一個あたり十万二千円、四個あるから四十万八千円、合計六十三万一千(いっせん)円だ」


「寅吉さん、園子、この魔石は炎の魔石のようにキープする必要はありますか?」


「えーと、えーと、はー、ふー。いいえ! この大きさだし、風の魔石だからウチにすぐ必要になることは無いから売却でいいと思うわ」


 園子が自分のこととは切り離して思考を受付嬢モードにしたのがわかった。


「うむ、私も売却で構わないと思う。価格も悪くないと思う」


 ふたりが良いなら外野が口を挟めることじゃない。


「ではそれも売却します」


 寅吉さんも仕事モードに切り替えてタブレットを操作している。


「よし、売却、いや買い取り完了! 次は毒針だ。ソルジャー三本、クィーン一本だな」


 禍々しく黒光りした毒針はソルジャーのもので十センチ以上、クィーンに至っては二十センチはある。


「この針には途中に返しがないのがわかるかい。キラー・ビーは刺した針を引き抜いて何度も刺してくるんだよ。」


 これが刺されると死に至るという毒針か。女性陣が見たくないという顔をしていた。


「毒針の毒はそのまま攻撃用だったり、血清の精製、加工に使われる。価格はほぼ魔石と同額で、それぞれ十万四千円と二十二万三千円、合計金額は五十三万五千円。これはそのまま売却でいいだろう」


「はい、わたしもそう思います」


「二人とも同意なのでこれも売却で。香流と葵も何か意見がある時は遠慮なく言ってくれな」


「はい、ちゃんと聞いていますのでご安心を」


「ウチはよーわからんよ」


「うん。葵、それでも聞いていて気付いたことがあったら遠慮無く言って欲しいんだ。間違ってても構わない。勘でもいい。俺たちのパーティーに遠慮は無しだ。全てが勉強で全てが経験だ」


 葵が頷く。それが形だけだとしても今はそれでいい。


「では全部売却で」


「うむ、処理しよう。さて、最後に『ハニー・ビー』だ」


 テーブルに置かれたのはオレンジ色の液体のようなものが入った瓶が二つとそれの倍ほどの大きさの瓶がひとつ。寅吉さんの解説が続く。


「『ハニー・ビー』というアイテムはいわゆるハチミツだ。キラービー・ソルジャーは中ボスだ。通常、ビーは自然環境ダンジョンでしか見られないモンスターだ。ボス部屋でソルジャーとクィーンという組み合わせは長野のダンジョンに一例がある。ただし、レベルがそれぞれ二十と三十だ。そして護衛役のソルジャーの数が九匹に対してクィーンが一匹なんだ」


「え? ということは今回はその半分の数で半分のレベルということですか?」


「うむ、そうなんだ。そして私が対峙したクィーンだがね、たしかにレベル十五相当の強さだった。つまり、弱かったんだ。ただし、大きさは長野のものと同じだった」


 ん? つまりどういうことだ?


「落としたアイテムの大きさも変わらないようだった。渋谷第一ダンジョンの難易度に合わせてボスのレベルが適性化したような感じだね。隠し部屋がリスポーンしてくれるのが一番いいのだが、過去の事例では隠し部屋が再生した記録はないから残念だがこれは今回きりのボーナスだろうと思う」


 階層に合わせたレベルに最適化されるのなら、できるだけ浅い階層のボスを狙うのが良さそうだな。今後のビジョンが見えてきたか。


「全てのアイテムが長野のものと見た目は同じだった。さて、キラービー・ソルジャーからドロップするのは『ハニー・ビー』の上位版で『ハニー・ソルジャー』という。効果は【回復】だ。実に不思議なんだがね、疲れた時にこいつをチビチビ舐めるだけで体力が回復する。呼吸も安定する。文字通り疲れがぶっ飛ぶんだ。舐め続ければ永遠にマラソンが出来る。睡眠も不要だ。そして驚くべきことに副作用が無い」


「なんという恐ろしい!」


「うむ、その通りだ。サラリーマンで言えば永遠の残業、兵士で言えば永遠の行軍が可能だ。ただし、舐め続けているとだんだん効き目が悪くなる。通常の『ハニー・ビー』より『ハニー・ソルジャー』の方が回復力も高いし、使用時間も長い」


「え? じゃあ、あのデカいのは?」


「それは『ハニー・クィーン』だ。ちょっと引きが良過ぎる気もするが、総じて裏ダンジョンはドロップ率が高いからそのお陰だろうな。たまたまなのか、誰かのスキルや特性に引っ張られているのかは今回のダイブだけでは判断できない」


「でもそれは検証してもしょうがないですね。運が悪いなら原因究明して対策も必要でしょうが、運が良い原因を知ったところでそれ以上何か出来ることがあるとは思えませんからね。自然と判明する分にはおもしろいでしょうけど」


「ラッキーガールかラッキーボーイがおるかもしれんっちゅうことやな!」


「まぁ、ここにボーイはいないけどな!」


「うーん、兄やん、ホンマに枯れとんな。けっこう重症やで」


「支部長、タブレットを貸してください。飲み物のお代わりを頼みますので」


「園子先輩、それは私の仕事ですよ。それでは皆様、お飲み物のお代わりはいかがですか。こちらがメニューになっております」


 そう言って掛井さんがメニューを差し出した。




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