第21話 事後処理は楽し
【パーティー名:Renegades】
L:星名千里:SEN(Lv10→11)【高度戦術支援地図】Lv.1/5(3/5)
2:寅吉勝利:タイガー(Lv.65)【剣術】
3:岩沙香流:クローザー(Lv17)【絶対領域】2/3/Day
4:西宮園子:マネージャー(Lv12→13)【瞬間移動】1/3/Day
5:川下葵:エース(Lv4→10)【範囲攻撃魔法】2/3/Day
ステータスを見るといろいろ変わっていることがわかる。キラービー・クィーンはボス扱いだったみたいだ。新しくボスを討伐するごとに『能無しスキル』の使用回数が増えるのは間違いなさそうだ。
「葵、どうだ? そろそろ立てそうか?」
園子に手を借りながら立ち上がった。
「うん、もういけるよ」
「とりあえずロビーまで行ってクールダウンにしよう」
俺にしては良い考えが浮かんだので階段を上りながら声を掛ける。
「葵、園子、アイテム鑑定が終わったらこのまま代々木公園にお花見に行かないか」
「おおおっ! 兄やん! それ、最高やんか!」
「あら、素敵なお誘いね。それは断れないわね」
「なんだと、なんてうらやましいことを。ううむ。これが冒険者ってやつか。デブリーフィングも報告書もなしで反省会という名の花見か! 実にけしからんなぁ」
寅吉さんの口ぶりは悔しそうだがその表情は実に穏やかだ。
「まぁ、これが自営業者の唯一の強みですからね。しっかりその特権は行使させてもらいますよ」
「こほん、千里さん。それ、私も付いて参りますのでよろしくお願いいたしますね」
香流がバイザーを上げながらそんなことを言い始めた。
「え? いや、午後からの仕事は?」
「それに関しましてはもう何も問題ありません。ええ、何も」
園子がバっと香流に向き直った。
「ま、マジなの? 香流、あなた、やったのね。でもそれはちょっと抜け駆けというものではないかしら?!」
「園子さん、女は度胸ですよ」
「え? ホンマに今日やってから来たん?」
「西宮さん、いったい何の話をしているんだい?」
「こ、この女、辞表出したって言ってるんですぅ」
園子は香流を指差して泣きそうな顔でそう言った。
「えー!」
おじさんふたりがハモった。
「え? それで? もう有給消化に入ったってこと?」
聞かずにはいられない。
「はい、そうです。貯まりに貯まった有給消化です。以降の手続きはネットで出来るので、今日は最後ということで私物を取りに顔を出しただけですね。ふふふ。幸いそれなりに蓄えもありますし、今日だけ、いえ、この一時間ほどで二百五十万円ですからね。副業ではなく、本気で本業として挑戦する最後のチャンスですから。中途半端にする気はありませんよ。ちなみに退職願いを出したのは昨日です」
ロビーに着いてテーブル席に座りながらそう言われた。映画のワンシーンです。もちろん内容はホラーです。だって、せめて討伐がうまくいった今から退職願を出すならわかるよ? 思い切り良すぎでしょ!
「ううう、支部長! 明日、お話がありますので!」
園子は悔しそうにそう言うと力が抜けたようにイスに座り込んだ。地上に出たことによるレベルアップの運動能力向上の喪失だけではなさそうだった。
「マジか。えー、星名さん、こうなったら彼女は止まらないからね。しっかり受け止めてくれたまえよ」
なんという不吉なことを。きっとこの一年、社内でなにかそれに準じるようなことがあったんだろう。
「うわー、なんやこれ、兄やん待って~、歩かれへん」
これも経験と様子を見ていたのだがやっぱりダメそうだった。駆け寄って目の前でしゃがむ。
「ほい、おんぶな」
どさっと遠慮なく乗ってきた。
「よいしょっと。葵は小さいから軽いな」
「ダルいわ~」
わずか十メートルほどをおんぶで移動。
「ほい。降ろすぞ。そこのイスにすぐ座りな」
「うー。おおきにぃ」
寅吉さんがぐったりする女性陣を懐かしいものを見るようにゆっくりと見回していた。
「星名さんは割と平気そうだね」
「いやぁ、キツいんですけどね。やせ我慢しています」
「はっはっは。それが出来るリーダーで頼もしく思うよ」
実際、葵をおんぶ出来た自分を褒めてやりたい。やせ我慢続行でリクエストを聞いて寅吉さんと自販機に買い出し。飲み物を買いながら尋ねてみる。
「寅吉さん、今回確保したのって聖銀だと思いますか」
「正直なところわからない。チラっとしか見ていないが、今まで見た聖銀との違いは無いとしか。鑑定してもらうしかないな」
回収したものが純銀だとしても買い取り価格は一キログラムあたり三十五万から四十万円にはなる。これが聖銀になると対アンデッド用の素材として価格が六倍以上に跳ね上がる計算だ。
各人の飲み物のフタを開けてから置いていく。ペットボトルを持つのも苦労している。重く感じるのだ。
俺は座る前にイスに置いたリュックのカバーを捲って大きく口を開くと手を入れた。全員の視線が俺の手を追っている。リュックの奥の冷たく硬いそいつを落とさないように持ち上げてテーブルの真ん中に置く。
「動ける人はカバンを持って来てください。希望者には今すぐ聖銀を渡します」
「ああ、星名さん、それはちょっと待ってくれ。これは貴重品だし、魔石もある。過半数のアイテムは売却するだろうから機構に回収鑑定を頼まないか。この場で回収して鑑定後に移送もしてくれるんだ」
さて、それでいいのだろうか。
「寅吉さん、それやるとこれがここで採取したものだと完全にバレてしまいますがその点は懸念材料になりませんか」
「ふむ。なるほど。それもそうだな。よし、では後ほど裏から入ろう。今日は西宮さんは公休だから私が処理しよう。それで少しは秘匿性が高まるだろう」
『裏』というのは一部の冒険者に対する優遇措置だ。主に高位冒険者やアイテムを優先的に査定に出してくれる常連の冒険者を窓口担当が『指名を受ける』という名目で直接やりとりするシステムだ。つまり俺は前回のレアアイテム提出を偶然担当した園子に知らぬ間に一本釣りされていたわけだ。
その後は昼休みギリギリまでクールダウンして窓口で槍を返却して挨拶をすると、あえてゆっくりと歩きながら代々木公園前店の優先者専用口から入店した。




