第20話 裏ボス戦
【パーティー名:Renegades】
L:星名千里:SEN(Lv10)【高度戦術支援地図】Lv.1/5(Exp.2/5)
2:寅吉勝利:タイガー(Lv.65)【剣術】
3:岩沙香流:クローザー(Lv17)【絶対領域】2/2/Day
4:西宮園子:マネージャー(Lv12)【瞬間移動】2/2/Day
5:川下葵:エース(Lv4)【範囲攻撃魔法】2/2/Day
寅吉さんが小太刀を抜いた。場所が狭いので太刀では持て余しそうだからだろう。レンタルの槍は葵が両手で持っている。香流は片手用の盾を左手、右手には一メートル半ほどの槍を持っている。槍の先は研ぎ抜かれた両刃だ。園子も片手の盾と短めの片手剣を持っている。俺はリュックの口を大きく開けて片方の肩に掛けている。武器防具を持っていないのは俺だけだ。俺には寅吉さんがキラービーを討伐した瞬間に宝箱を開けて中身を回収する重大任務がある。
ボス部屋の奥、隠し部屋に通じる壁を背にして並ぶ。【絶対領域】のバリアを展開する香流が真ん中だ。その右側に葵で左隣が園子。この三人は動く必要はない。香流の先に寅吉さんがしゃがむ。俺は寅吉さんの邪魔にならないように園子の前でいつでもダッシュできるようににしゃがむ。
「寅吉さん、一度【絶対領域】を展開してバリアの大きさを確かめますか?」
「いや、魔力がもったいない。形状は半径三メートルの球形だな? イメージはできたから大丈夫だ」
「了解。ドームから出たり触った時にどうなるかまだわからないので触らないようにしてください。園子、みんなこのポジションのまま後ろに飛ぶイメージだ」
「ええ、任せて。いつでもどうぞ」
「よし、みんな、一応、内部をイメージよろしく。最悪、真っ暗な可能性がある。その場合も慌てず地図を意識して対応してくれ。園子、イメージできたか? 明かりがなかったら緊急脱出になるから」
「それは想定外だったわ。よく気付いたわね」
「【瞬間移動】後、真っ暗じゃない場合は女性三名はしゃがんで下がるように。寅吉さんが刀を振るスペースが欲しい。よし、いくぞ! さーん、にー、いち、ゴー!」
言い終わる瞬間に目の前の景色が変わった気がした。
ブオオオオオオム
デカい何かが集団で飛んでいる音だ。一瞬身体が強張る。真っ暗じゃないことに安堵した瞬間、裂帛の気合が弾けた!
「きぇぇぇぇいっ!」
寅吉さんが目の前のデカイ箱に向かって小太刀を振り下ろす瞬間、視界の先で赤い炎が立ち昇るのが見えた気がしたが、直後に大きなシャボン玉の中にいることがわかった。
「燃えろー!」
右後ろで葵の声が聞こえた。
バギン! バギン!
何かが激しくドームにぶつかっていた。
ブッゥオオオンン!
「ふんっ!」
目の前の寅吉さんが目にも止まらぬ速さで太刀を抜いて突いていた。その時、空中に浮かんでこっちを見つめる巨大な複眼と目が合った気がした。右の複眼が大きく損傷しているが元気良く飛び上がったのだろう。その巨大な蜂の顔面から胴体までを寅吉さんの刀が正確に貫いて空中に押しとどめていた。
「むんっ!」 ブォブォッ、バチッバチッ
太刀を右下に払うように下ろし、串刺しになったままの全長五十センチの巨大な蜂を地面に押し付けた。まだ羽がバタバタとして地面を叩くがだんだんと速度が落ちていく、尻からは二十センチはありそうな巨大な毒針がニョキニョキと出入りを繰り返している。
「うぇぇ」
葵からは蜂が丸見えだ。俺は宝箱を寅吉さんのいない左側から周り込みながら声を掛ける。
「葵! 大丈夫だ! 集中して燃やせ! 香流! 魔力は!」
屈んだまま宝箱の前方に飛び込んでリュックを横に置いて蓋に手を掛ける。
「魔力大丈夫です! 慌てずに!」
宝箱を見ると蓋の真ん中に蝶番がある。迷っている暇は無い! 蝶番に手を掛けて回して真横に向きを変えてヒンジを上にひっぱり上げてロックを外す。一旦身体を宝箱の横にずらす。周りを見る余裕はもう無いが視界の端が紅蓮に包まれているのがわかった。仲間を信じて蓋を両手で掴むと力任せに引っ張り上げる!
罠は無い! 中を覗き込みながら正面に周り込んで手を差し入れて綺麗に並ぶインゴットを掴んでリュックに突っ込む! 片手に一個ずつ、三回目に五個目のインゴットを右手で掴んでリュックに入れながら抱え込む!
「【聖銀】確保完了! 魔力!」
「まだ行けます!」
園子の元に這うようにして近付く。地図を確認する。赤い光点がグリーンに変わった。緑の光点を数えて五個あることを確認!
「葵! 攻撃終了! 敵は全滅! 香流はそのまま!」
ドームを覆っていた真っ赤な炎が一瞬で搔き消える。
外を気にする余裕は無く、地図で室温をチェック、見る間に下がっていく。
「うお、温度がすごい勢いで下がってるぞ!」
【摂氏18度】
いける! もう一度緑の光点をチェック、五個ある。寅吉さんを目視、蜂の姿はなく、寅吉さんが太刀を納刀して小太刀を拾う。
「室温低下を確認! 香流! バリアオフ!」
そこまで言って園子を振り返る。緊張する美貌と目が合った。表情を緩める。
「園子、待機」
園子がすぐに頷いたがいつでも飛べる心構えはそのままに緊張していることが伝わる。
すっかりバリアが無くなっていた。
「よおし! いいぞ! 完璧だ!」
寅吉さんが終了宣言を出す。
「ふー。リスポーンの条件がわからないので手短に。【絶対領域】の範囲内にいられるように香流から離れないで集まって。魔石、ドロップアイテムの確認、回収をします」
「兄や~ん、あか~ん、動かれへ~ん」
レベルアップ酔いだ。駆け寄って抱き抱えたまま一緒に座り込む。
「寅吉さん、すいません! 回収お願いします!」
「了解!」
葵がプルプルと震えている。今回の討伐で俺と園子のレベルがひとつ上がったが、葵は一気にレベル四から十まで上がった。前回の俺とほぼ同じだ。
「葵、大丈夫だ、すぐに収まる。俺も同じやつを一昨日やってるからな。間違いない。香流、園子、部屋に忘れ物が無いかだけチェックしてくれ」
「アイテム回収完了!」
寅吉さんの大きな声が聞こえた。左手で葵を抱え込んだまま、落ちているレンタルの槍を掴む。
「園子!」
そう言った瞬間にホールにいた。
「五人! みんなおるで!」
葵が俺に抱き抱えられたまま叫んだ。そうだ。最後の点呼は俺が昨日、葵に頼んだんだ。
「はははっ」
葵のヘルメットをポンポンと叩きながら肩に掛けたリュックの重みを確かめると実感が湧いてきた。
「やった、やった、やったぞ! 成功だーっ!」
抱き抱えている葵が俺が抱えているリュックを見た。
「おっ? おお! 兄やん! 兄やん! うち、うち、やったやんなー!」
「ははは! 葵のお陰だよ! みんな! ありがとう!」
「きゃー! やったー!」
「やりましたねー!」
顔を見合わせた園子と香流が手を握り合いながらしゃがみ込んだ。園子と香流が抱き合って喜び合い、葵は俺にしがみついて声をあげて泣いていた。レベルアップの余韻で身体を震わせる葵を抱きしめながら寅吉さんに向かって右手を上げる。バイザーを上げて初級ダンジョン討伐の歓喜に湧く素人冒険者を笑顔で見ていた歴戦の猛者が近付いて来て俺とハイタッチをした。そのまましゃがみ込むと泣きじゃくる葵のヘルメットをポンポンと叩いた。
「葵、よくやった。がんばったな」
それだけ言うと園子と香流のところへと歩いていく。リュックの中から聖銀を包もうと入れてあったタオルを取り出してバイザーを上げてから葵の顔に当てる。
「葵のおかげでソルジャーも倒せて経験値も魔石もドロップアイテムも手に入った。助かったよ。ありがとうな」
返事はなかった。
「葵! よくがんばったわ!」
園子と香流が葵を囲んだ。美しい娘たちの中におじさんは邪魔過ぎる。ゆっくりと立ち上がるとさらにリュックの重みを感じることができた。
「ふー。寅吉さん、あらためましてありがとうございました」
右手を差し出すとがっしりと握り返された。
「いやいや、それはお互い様でしょう。誰かひとり欠けてもここまでうまくはやれなかった。久しぶりでしたけれど。うん、ダンジョン探索は良い。これは止められそうにないなぁ」
今はもう笑い合う三人の女の子を眩しそうに見ながら何度も頷いていた。
【パーティー名:Renegades】
L:星名千里:SEN(Lv10→11)【高度戦術支援地図】Lv.1/5(Exp.3/5)
2:寅吉勝利:タイガー(Lv.65)【剣術】
3:岩沙香流:クローザー(Lv17)【絶対領域】2/3/Day
4:西宮園子:マネージャー(Lv12→13)【瞬間移動】1/3/Day
5:川下葵:エース(Lv4→10)【範囲攻撃魔法】2/3/Day




