第19話 緊張する?
総合受付に五人の冒険者証と共にパーティー申請書を提出する。他のクランやパーティーとの重複申し込みや本人確認をする。そこで受付嬢が寅吉さんと園子の名前に気付いたが、目と口が大きく開いた後にチラっと本人たちを見るだけで何も言わなかったのはさすがプロの仕事だった。彼女には守秘義務がある。他の社員にもこの話は出来ないのだ。園子がバイザー越しに受付嬢を見続けているのは無言の圧力だろう。彼女は手続きの最後に「それでは良き冒険を」と言って頭を下げた。俺が「ありがとうございます」と言うと葵が「おおきに!」と元気に言って外に出た。
咲き始めた桜を眺めながら渋谷第一ダンジョンへと向かう。
「桜、咲き始めましたね」
信号待ちの横断歩道で香流がポツリとこぼした。
「いいね。俺たちもパっと咲き誇りたいものだね」
俺がそう言うと葵に突っ込まれた。
「すぐに散るんは勘弁やけどな」
「確かにな。我々は派手に長く咲き誇ろうじゃないか」
寅吉さんにそう言われるとそれだけで実際にそれが出来そうな気がしてくる。やっぱりこの人がリーダーでいいんじゃないかなぁ?
ダンジョンの受付でパーティーカードと冒険者証を提出する。顔写真との目視照合があるのでサングラスやバイザーは外す必要がある。
「お、兄さん、三日連続で来たと思ったらついにパーティー結成か。元気なお嬢ちゃんも一緒だな。おめでとう」
「おっちゃん、ありがとうな」
引退冒険者の職員が『能無し』同好会のパーティーごっこに温かい声を掛けてくれたのがわかったが、寅吉さんの冒険者証を見て動きが止まると、一番後ろにいた歴戦の猛者を見つけて口をパクパクさせた。
「お、おお? Sクラス?! え? 顧問、とかですか?」
「ああ、そうですね。とても頼りにしているんですよ」
寅吉さんの代わりに応える。入場料の五千円とレンタルの槍代の千円の合計六千円を払って領収書を香流に渡す。
昨日と同じようにロビーで昼食のセッティング。今日は俺と葵で飲み物の買い出しだ。各人の希望の飲み物を自販機で購入。
「あー、兄やん、緊張するなぁ」
「お? そうなのか? エースって緊張できるんだ」
「むか! どういう意味やねん。ウチかて緊張ぐらいするわ」
「はぁ~。布団の中でこれっぽっちも緊張してもらえない俺はやっぱり非モテおやじなんだなぁ」
「いや、そんなことは……あるで! なっはっはっは! もうちょいタイガーのおっちゃんみたいに身体鍛えた方がええんちゃうか!」
「はいはい。じゃあ今夜から筋トレ始めるから付き合えよ」
「そんぐらい家賃や思って付き合うたるわ」
「いいね~。家賃払う気あったのか! いい心掛けだな! つい最近まで女子高生だった娘のお手伝いだもんな。これはお釣りが必要かもしれんな!」
「せやろ! ありがたく受け取っときや!」
とか話しながらテーブルに戻ると園子がじっとこっちを見ていた。
「まったく、なんの話をしているのよ」
「お? マネージャーも手伝ってくれるのか? 腹筋の時に足首の上に座るとかでいいぞ」
「おお! 兄やん、そんなエロいこと考えとったんか! マジか~。ウチ払う言うてもうてるやん。しゃーないな。なにわの女に二言は無いからなぁ」
「なに言ってるのこの子は! そんなこと子供のあなたにはやらせません!」
「おっけー。ほしたらそれはマネージャーに任せるわー。クローザー姉さんのご飯は何かな~?」
「ふふふ。お好きなものをどうぞ」
「え? いや、それは、あれ? わたし?」
「がっはっはっは。なるほど。軍隊方式とはだいぶ違うな。マネージャーのそんな自信無さげな姿を私は見たことがないな。素直な本音を引き出すにはなかなか有用な方法のようだ」
いい感じにメンバーの緊張が解けてきたな。葵がいると人間関係が健やかになる。彼女が明るいままでいられるよう園子にも彼女の内情を話してもいいだろうか。いや、葵が話していないならそっとしておこう。今のままで充分、葵にとってもいい環境、いい関係が出来ていると思う。
「クローザーのご飯もすごく美味しそうだ。朝早くからすまなかったね。ありがとう。へ~。サンドウィッチとおにぎりにおかずもすごいね! いただきます! んっ、おお! おにぎりの具の焼き鮭が手作りじゃないか! うっま!」
「どれどれ。おお、これはすごいね。こんな若い女性の手作り弁当をご馳走になれるなんて思ってもいなかったよ。監督、今本気で思うよ。私をこのパーティーに誘ってくれて本当にありがとう」
「おっちゃーん、もう撮影は始まってるで~。言葉には気を付けてな~」
「ぐンむっ?! ぶおっごほっごほっ!」
「きゃー! 大丈夫ですかー!」
「お茶! お茶を!」
◇
「さて、昨日に続いて大変おいしいご飯をいただいて幸せでした。では、みなさん、手を合わせて。ご馳走様でした!」
「ご馳走様でした!」
「それじゃあ、武器をセットして私物はロッカーに入れましょう」
「兄やん、ウチのも一緒に入れてんかー」
「あいよ。じゃあこの袋に財布とスマホ入れちゃいな。他になにかあるか? あぁ、ウチの鍵か。こんだけ? よし」
「センさん、その鍵、わたしにもあとで貸してくださいね」
「あ、私も。行き帰り別になった時に困りますからね」
「えーと、はい」
賃貸の鍵って勝手に増やしていいんだっけ? ダメな気がする。っていうか彼女との同棲ぐらいならいいけどさすがに不特定多数の人で住むのは世間体的にも法的にもダメな気がしてきたぞ。こりゃマジで冒険者用のシェアハウスとかに引っ越しを考えないとダメだな。それには金だ! 金がないと何もできん!
「準備出来ましたか? よさそうですね。それでは最終確認いきます。全員のボディカムを撮影開始。撮影時赤ライト点灯確認、よし。ヘルメット並びにゴーグル装着。ここは暗いからレンズはクリアで、よし。グローブ装着、よし。オールクリア。行こう! ダンジョンダイブ開始!」
階段を降りてロビーに到着。ここはセーフティゾーンだ。レベルの恩恵による身体能力向上を馴染ませるために軽く身体を動かす。
「【高度戦術支援地図】オン。メンバー登録情報変更。ナンバー2にタイガーを登録。以降、昨日と同じでレベル順で登録。さて、タイガー、地図を確認してください。俺が見ているものと地図自体に違いはありません」
【パーティー名:Renegades】
L:星名千里:SEN(Lv10)【高度戦術支援地図】Lv.1/5(2/5)
2:寅吉勝利:タイガー(Lv.65)【剣術】
3:岩沙香流:クローザー(Lv17)【絶対領域】2/2
4:西宮園子:マネージャー(Lv12)【瞬間移動】2/2
5:川下葵:エース(Lv4)【範囲攻撃魔法】2/2
「なんだこれは。すごいぞ。これがスキルの地図か! すばらしい! これがあればダンジョン攻略に革命が起きるぞ!」
「おっちゃん、これってそんなにすごいのん?」
「ああ、これがあれば確実に会敵することなく目標地点までストレートに、ストレスフリーで到達できるんだ。それだけでダンジョン進行の速度が何倍になるかわからんぞ! 監督の後を着いて行くだけでもいいのだから人数制限も無いんだ。これは、全てのクランが君を欲しがるぞ」
「はい。その懸念は持っています。俺、外国の機関に拉致とか誘拐されてもおかしくないんですよね」
「ええ!」
三人娘が驚きの声を出した。
「ああ、実際これは危険だ。西宮さんが箝口令を敷いたのも納得だ。諸君、ダンジョン外はもちろん、ダンジョン内でもスキルの話は厳禁だ」
「ああ、それで言ったら遠話があるので習得を急ぎましょう」
寅吉さんに説明をして実際に遠話で話し掛ける。
『もしもし。寅吉さん聞こえますか。地図上の私に意識で話し掛けてみてください』
『テステス。聞こえるかね』
『はい、通じました』
『なんというか、実際に顔を合わせているとなんとも不思議な感覚だ』
『なかなか慣れないですよね。私の声は全員に聞かせられますが、そちらからの声は俺にしか聞こえません。仕様ですね』
『了解した』
「今日のところはダンジョン内が無人なのでミッションが終わるまでは口頭、本名で行きましょう。葵、スライム四匹を討伐してきてくれ」
「おっけー」
槍を渡すと地図を見ながら迷いなく小走りでスライムを討伐。
「このままボス討伐いきます」
葵がドアを開ける。そのまま突入して討伐完了。
「昼休みの時間があるので息を整えたらすぐに始めます。各自水分補給など済ませてください」
聖銀回収の邪魔なので槍はそのまま葵に持たせる。昼の残りのペットボトルで水分補給。俺のリュックを空にしておくために空のペットボトルは作戦中に動きのない園子のリュックに入れてもらう。
その場でもう一度作戦内容を確認した。
「ではみなさん、準備はよろしいですか。ずっと隠し部屋を見ていたのですが、どうやらクィーンは宝箱の前から動かないみたいです。ソルジャーはうろうろしているので、クィーンだけは飛んでいないのかもしれません。逆に言うとソルジャーは飛んでいると思われます」
「クイーンは私に任せてくれ。君たちに傷ひとつ付けずに討伐することを約束する」
「お願いします。頼りにしています。葵、テレポートした瞬間、奥の壁、つまりこいつだな」
そう言って目の前の壁をペチペチと叩く。
「この下に火を着けてくれればいい。ソルジャーを狙うと俺たちのところまであっという間に火が来てしまう。安全マージンのために少しでも時間を稼ぎたい。香流は火が着いた瞬間に【絶対領域】を頼む。仮に火が着くのが遅れたとしても【絶対領域】を展開して構わない。寅吉さん以外はキラービー討伐はオマケ程度に考えてくれ。園子は香流の合図を最優先に、あとは危険を感じたら自分の判断で【瞬間移動】を発動してくれ。送り先はホール優先だけど、ボス部屋以外だったらダンジョン内のどこでもいい。スライムもあと一時間は発生しないからな」
全員の顔を見渡す。寅吉さん以外の表情が硬い。
「どうしたどうした。みんな表情が硬いぞ。まだ一回目のパーティー行動だからね。練習のつもりで行こう。集中はいいけど緊張はあまり良くないぞ。よし、握手しよう! みんな、十年前に諦めた夢を追わせてくれてありがとう!」
俺はひとりひとりと握手をした。今、この時にグローブ越しに握ったみんなの手の感触を忘れることはないだろうと思った。
全員が少し照れながら握手を終えた。
「さあ、冒険だ」
緊張しているメンバーはもういなかった。
【パーティー名:Renegades】
L:星名千里:SEN(Lv10)【高度戦術支援地図】Lv.1/5(2/5)
2:寅吉勝利:タイガー(Lv.65)【剣術】
3:岩沙香流:クローザー(Lv17)【絶対領域】2/2/Day
4:西宮園子:マネージャー(Lv12)【瞬間移動】2/2/Day
5:川下葵:エース(Lv4)【範囲攻撃魔法】2/2/Day




